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エンジニアがファシリテーションを学んでプロダクト開発をする
自己紹介
こんにちは。ALGO ARTIS でソフトウェアエンジニアをしている岩崎 諄です。IT エンジニアにあるまじきことに SNS が苦手なので X (Twitter) 相当のものをやっていません。
配船系 Optium 案件でシステム開発のディレクションをしています。配船システムの開発ディレクション、バックエンドやインフラをやりました。
なお週末は山に行きます。
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本の紹介
こちらの記事で舟久保さんが紹介している通り ALGO ARTIS のソフトウェアエンジニアチームでは、週に1回の勉強会が継続されています。
今回はマネージャーたちがリストアップした本の中からメンバーが興味を持った本を勉強会の課題本とすることにしました。数多の名著の中から選ばれたのが「対話型ファシリテーションの手ほどき」でした。
我々は最終的に「対ファシ」と略すほどに親しみを覚えることになります。
概要
この本は、簡単な事実質問を使った対話術を事例ベースで紹介しています。この本を他と違うものにしているのは、対話型ファシリテーションという手法が国際協力の実践を経て生まれたものであるところです。
この手法は、事実を明らかにする質問を投げかけることで対話相手の気づきを促し、自発的な解決に向かわせる、というファシリテーション手法です。
「なんだそんなことか、事実ベースで考えるなんて当たり前でしょ?」と思われるかもしれませんが、事実と意見の区別は案外ついていないものです。
問いと答えは対になるものなので、適切な問いかけがなければ、適切な答えを引き出すことはできません。
例えば、ある人の朝の習慣を知りたいとします。
そこで「普段の朝飯はなんですか?」という質問を投げたとしましょう。このとき返ってくるのは往々にして「普段何を食べていると "思っているか"」という意見だったり印象です。ひょっとすると何も食べていない日が多いかもしれません。
ですので「昨日の朝は何を食べましたか?」などのように、事実を直接尋ねる形式にすれば「食パンです」「いや実は食べていないんです」などの事実に即した回答が返ってきます。
「普段の朝飯」という言葉には「普段朝飯を食べていて、決まったものを食べているはず」という前提が暗に組み込まれています。そのような質問者のバイアスが返答を歪めるのです。
この本は、その事実を引き出すのに有効な問いかけの仕方を国際協力の現場の事例ベースで語ったものです。
選定理由
「テスト駆動開発」や「プロダクトマネジメント(通称ビルドトラップ本)」など世に知られた本が並ぶ中で、この本は推薦したマネージャー以外の誰も知らず、逆に我々は強く惹きつけられたのでした。
プロダクト開発を手がける我々は、いつもお客様と直接の対話を繰り返してプロダクトの指針を決めたり実装やデザインの細部を考えたりします。ですので「お客様と上手く対話ができるようになりたい」「もっと上手くお客様の実現したいことを把握できるようになりたい」という想いや悩みをメンバー全体が持っていました。
技術に寄った選定ではなく、お客様との対話を主軸に据えて、ソフトスキルに振り切った選定になったのはお客様との距離の近さ故、必然だったのかもしれません。
勉強会の様子
この本は薄い冊子でしたので、毎回5分程度、3セクション分くらいを読む時間をとり黙読、その後10~15分で読んだ内容にツッコミを入れたり、議論を発展させる、という形で勉強会を進めました。
プロダクト開発でのあるある事例に結びつける人、子育ての現場での子供とのやりとりに結びつける人、各人の観点での解釈や応用が見られて非常に面白い勉強会になりました。
「遅刻した人に理由を尋ねてみよう」
「セミナーに遅れてきた人に、対話型ファシリテーションを使って遅刻理由を尋ねてみる」という事例がありました。ちょうどそのセクションを読んでいるときに、この勉強会に遅刻してきたメンバーがいました。
対話型ファシリテーションを実践するには最高のタイミングでしたので、遅刻したメンバーを対話相手にしてこの手法を実践することにします。
(※ 遅刻したメンバーを責める意図はなく当人にも許可をとっています。「面白そうだからやってみようぜ」というノリで以下のやり取りが始まりました。)
遅刻したメンバー(以下 sfujiwara)とメンバーとの対話を再現してみます。この勉強会は AM10:00 に始まります。
メンバー「昨日何時に寝ましたか?」
sfujiwara「技術書典の準備をしていて覚えていない……」
メンバー「普段何時間ぐらい眠るんですか?」
sfujiwara「7時間ぐらいです」
ここで参加しているメンバーが「あっ」と思いました。"普段" というのはあくまでも当人の印象や意見であることが多く、過去数十日分の睡眠時間の平均とはおそらく違ったものだと考えられるからです。対話型ファシリテーションでは、このような印象や意見ではなく、確実に事実をおさえる質問をすることが求められます。メンバーは事実質問に軌道修正しようとします。
メンバー「その前の日は何時に寝ましたか」
sfujiwara「準備が続いていてよく分からない」
沈黙が生まれてしまいました。ここまでのやり取りを全員で振り返ってみます。
本にある事例では事実質問を重ねることで、遅刻する理由に遅刻者当人が思い至り、解決法に気づくという筋書きでしたが、ソフトウェアエンジニアチームの事例ではそれほど鮮やかに話が進みませんでした。なぜでしょうか。
質問したメンバー1(modo_ckey)「"普段は?" や "なぜ?" のような、事実ではなく意見を引き出す質問を咄嗟に投げてしまう。返ってくるのが当人の気持ちだったり、あるべき姿だと思っているものだったりして、事実に辿り着かないから気づきに繋がらないっぽい」
質問したメンバー2「事実確認のための質問を考えていると焦って、上手く次の質問が出てこない。そうすると沈黙状態になって、ますます慌てて適切な質問が出なくなる」
sfujiwara(質問される側)「その前の日は、その前の日は、という感じで訊かれると記憶から取り出すだけでいいので答えやすい。忙しくない普段のことを知りたいのであれば "先週は何時に寝ましたか?" が正しい質問だったと思う。あと、質問がぎこちなく会話のテンポも悪い(ダメ出し)」
読む分には一見簡単に見える事実質問でも、実践してみると意外と難しい、なまもののコミュニケーションにおいては尚更、ということが分かった瞬間でした。ちょうどいいタイミングで遅刻をした sfujiwara さんはチームに大きな気づきを与えてくれたのでした。
対話型ファシリテーションの広がり
プロダクト開発に応用する
勉強会の最終回で、実際に対話型ファシリテーションを使っているか尋ねてみると、やはりプロダクト開発の現場でお客様相手に使っている人が多くいました。
事実質問を使って顧客業務の事実を探り出して双方の共通認識が取れた後で提案をする、というハイブリッド方式に行き着いた人もいました。
我々が行なっているのはプロダクト開発なので、お客様の自身の気づきを促すだけでは解決できない課題があります。だからこそ我々に仕事があるわけです。そのような場合は、こちらからの提案が必要です。その提案のベースになる事実をおさえ、我々とお客様の両方が共通認識を得るために、この手法が大いに役立っているようです。
他にもお客様からの開発要求があったときに、既存の開発アイテムとの優先順位を決めるためにもこの手法は使えます。
それは例えば、「その機能はいつ必要なのですか?」や「最後にその機能を使ったのはいつですか? その前は?」などと訊くことです。実際の行動を思い出してもらい、事実に基づいてその機能の優先度を判断できるようになり、実現したときの価値が高いものから順に開発に着手できるようになります。
生活に応用する
他にユニークなものでは社内の 1on1 での利用、子供への問いかけでの利用がありました。
例えば、子供が、机の端に置いた水の入ったコップをひっくり返したとします。そのときに親が「なぜコップをひっくり返したのか」と尋ねることは、いわゆる "詰める" 行為のように子供は感じることがあるそうです(「なんでひっくり返してんだバカヤロー」というやつです)。
それを対話型ファシリテーション風に言い直し、「コップはどこに置いてあった?」などと言い換えることで「机の端にコップを置くから腕が当たってひっくり返すんだな。端に置くのはやめよう」といった気づきを促すことにつながるといいます。
結び
プロダクト開発をするために、お客様との対話は欠かせません。特に ALGO ARTIS ではエンジニアがお客様と直接対話をすることで、業務の生々しさや難しさを感じ取ってプロダクト開発をします。
そのために有効なコミュニケーションは欠かせない要素です。正しい質問をしなければ、適切な答えは返ってきません。
思い込みや希望的観測、開発者の願望を剥ぎ取って、事実を捉えやすくする対話型ファシリテーションという手法は、プロダクト開発のための意思疎通を円滑にする良き指針となったと感じています。
面白いことに、この手法は本来の意図から離れ、プロダクト開発のみならず社内の会話、子育てなど広い範囲で応用されています。
この本を支持した人間として嬉しいことに、公私問わず、対話型ファシリテーションの学びをメンバーは面白がって色々なところで実践しているようです。
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