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「支える」を支える 〜 AI×線路保守:作業計画の最適化で安全と効率を実現〜
11月25日、ALGO ARTIS は「JR東日本スタートアッププログラム」のイベント「JR EAST STARTUP DAY」に登壇・出展しました。
社会インフラを支える様々な計画の最適化に取り組むALGO ARTIS は、鉄道の安全運行を支える「線路保守作業」の計画を自動最適化するソリューションを開発。複雑な制約条件のもと膨大な時間を要していた計画業務が、コストや工期など複数の優先度に応じて短時間で自動策定できるようになります。
現在、JR東日本グループのユニオン建設株式会社と協力し、PoCを経て10以上の出張所での本格運用に向けた開発を進めています。
年末年始の帰省や旅行で鉄道を利用される方も多いこの時期、私たちの移動を支える「線路保守作業」の裏側を、ぜひご覧ください。
JR東日本スタートアッププログラム について
本題に入る前に、背景となっているプログラムについて。
「JR東日本スタートアッププログラム」はJR東日本スタートアップ株式会社がベンチャー企業と協業し、新たなサービスの実現を目指す取り組みです。
ALGO ARTIS は2022年秋に開催されたこのプログラムで、全94件の提案の中から採択されました。
2023年5月のDEMODAY(発表会)では、「AI・アルゴリズムによる線路メンテナンス作業計画の最適化」をテーマにプレゼンテーションを行い、「優秀賞」を受賞。高い技術力が評価され、プログラム参加・プロジェクト推進に至っています。
今回のイベントでは、この取り組みの中間報告を行いました。
線路保守作業計画 とは
「線路保守作業」は、日々電車が安全に運行するために必ず必要となる、非常に重要な業務です。作業自体の技量はもちろん、その「計画」を立案するためには、非常に高度な技術が求められます。
対象となる保守作業の内容は多岐にわたり、
新設線施工
レールの交換工事
線路検査
大型保線機械による整備
道床砕石(どうしょうさいせき)の交換工事
線路復旧工事
などが含まれます。
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これらはすべて安全性に直結するため、法令で義務づけられた重要な保守項目です。
また、保守点検は安全性の向上だけでなく、列車の乗り心地の向上や騒音・振動の抑制にも貢献します。
こうした保守作業を計画し、実行可能なスケジュールに落とし込むことが、線路保守計画の役割です。
複雑線路保守作業計画の難しさとは?
線路保守作業の基本はレールなどの交換作業(更換 こうかん)ですが、その実施には多くの制約が絡み、簡単には進められません。
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例えば、下記の画像を見ながら具体的に考えてみましょう。
保守用車のルートを考える際に、レール上を運行させるため運行ルートを考えます。
この場合、実施日の作業および運行が禁止されているため、別ルートを考えなくてはいけません。
他の基地から運ぶとする場合、作業のため夜間で往復できる場所になっているか、またそのルートも運行停止場所がないかを確認する必要があります。
さらに、別日に動かす際には前日の作業によっては保守用車がこの基地にないケースもあるため、前作業も同時に考える必要があります。
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このように、保守用車の運行ルート、基地間の連携、作業の進捗状況など、さまざまな制約が絡み合うため、計画を立案するには膨大な時間と労力が求められます。「計画」と一言で言っても、あらゆる条件を同時に満たす必要があり、その複雑さは天文学的な組み合わせを生み出します。
複雑さと従来手法の限界
線路保守計画は、全体を見渡しながら立案する必要があり、その複雑さから多くの課題が生じています。従来の手法では特に、以下の限界が顕在化しています。
1.ミスを防ぐことの限界
現状では、計画担当者がExcelを駆使しながら、頭の中でシミュレーションを行い計画を立案しています。
しかし、この手法には以下のリスクを孕んでいます:
ミスの混入:限られた時間で作成された計画には、整合性を欠いたミスが生じやすい。
影響の波及:計画ミスが無駄を生むだけでなく、場合によっては社外の関係各社にまで影響を及ぼし、全体の業務フローに悪影響を与える可能性があります。
2.業務負荷分散の限界
計画の精度を高めるため、策定した計画をチェックをすることが必要になりますが、メンバーの習熟状況によっては、以下のリスクが考えられます:
重大なミスの見落とし:経験不足により、重要な整合性の問題を見過ごしてしまう可能性。
熟練者への業務集中:線路保守計画の専門性の高さから、業務が一部の熟練担当者に偏りがち。
このように、線路保守計画はその複雑さと従来手法の限界により、ミスが起こりやすく、特に熟練計画担当者に大きな負担が集中する業務となっています。業務効率化と精度向上が求められる理由はここにあります。
最適化AIで解決〜誰もがミスなく策定できるために
このプログラムでは、Excelに代わるソリューションを提供し、誰もがミスなく計画を立案できる環境構築を目指しています。
具体的には、担当者が入力した情報をもとに、最適化AI(アルゴリズム)が自動で計算を行い、計画を出力します。
ALGO ARTIS では、最適化AI(アルゴリズム)のみにとどまらず、ユーザーが直感的に操作できる独自のUIも構築。計画の精度向上とともに、利便性の高さ=現場で”使える”ことを重要視しています。
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ここからは実際の画面をお見せしながら、解説していきたいと思います。
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こちらは月間計画を組む画面になります。
一番上に①作業員の情報があり、その下に通れない/作業ができないなど②作業場所の情報があります。その下は作業計画が配置される箇所で、まだ何も配置されていない状態になります。
それでは、右上の「最適化」ボタンをクリックします。
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次に、1日に上限のある作業に対して上限数を指定し、「実行」ボタンをクリックすると、これまで説明してきたあらゆる制約事項を考慮し、計画の策定が始まります。
この最適化AI(アルゴリズム)を活用すると、わずか30分程度で3ヶ月分の作業計画を出力することが可能になります(※PoC検証時点での計算時間)。
自動出力の結果は以下の通り。当月実施が必要な作業を、制約違反することなく全て配置することができました。
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手動での微修正も可能
画面上でユーザーが修正することも可能です。
線路保守作業計画の実務では、計画立案後に関係会社からの調整が多く発生します。そのため、人間による微調整が行えることは非常に重要なポイントです。
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ミスにもすぐに気付ける
手動で修正を加える際に誤った計画を作成してしまった場合でも、リアルタイムで分かりやすいアラートが表示されるため、瞬時にミスに気付くことができます。
従来の方法では、ミスを防ぐために何度も確認を行う必要があり、根本原因を特定するのも困難でしたが、この仕組みにより確認作業の手間を大幅に削減できます。
実際にプロトタイプを利用いただいているお客様からは、
「素晴らしいものが出来上がった」
「制約違反に対するエラーが表示されるのが良い」
と高評価をいただいています。
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あたりまえを目指して〜「支える」を支える
現在のプロトタイプにはまだ改善の余地があると考えています。まずはユニオン建設様に十分ご活用いただけるツールとして、引き続きブラッシュアップを重ねていきます。
そして将来的には、この最適化ツールが鉄道会社にとって「あたり前」の存在となることを目指しています。
私たちALGO ARTIS はこのソリューションを通じて、安全な鉄道運行を支える重要な業務をさらに支援し、より多くの現場で頼られる存在になりたいと考えています。
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「JR EAST STARTUP DAY」の様子
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