AIで拓く製造業の新時代: 実例に学ぶ成功のステップ〜CEATEC講演レポート
2024年10月15日(火)から18日(金)まで、幕張メッセで開催された「CEATEC 2024」。日本国内外から約11万人が訪れたこのイベントに、AI最適化ソリューションを提供する ALGO ARTIS が初めて出展しました。初日には代表の永田 健太郎が、横河デジタル株式会社の大原 健一氏とともに基調講演を行い、製造業におけるAIの役割、導入の課題、そして実際の成功事例について議論しました。
この記事では、その対談内容を基に、製造業に携わる方々がAIをどのように活用してDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、業界の未来を切り拓いているのかについて掘り下げていきます。
登壇:
大原 健一 氏
横河デジタル株式会社 Enterprise AI推進室 Leading Transformation Gr長 Yokogawa AI CoEリーダー
永田 健太郎
株式会社ALGO ARTIS 代表取締役社長
1.DX推進における課題
永田:製造業におけDXは一定進展していますが、まだまだ多くの課題が残っていると感じています。改めて大原さんが考える課題、AIはどのような役割を果たすのが望ましいとお考えですか?
大原:横河デジタルではAIを活用し、お客様の課題解決に取り組んできました。数年前はAIの第三世代に焦点が当てられていましたので、お客様は最新技術を取り入れ、さまざまな分野でAIを活用し、品質などを対象にいわゆる「改善」を図る視点の取り組みが主流でした。言い換えれば、AIを道具として利用し、目の前の課題解決や利便性の向上に貢献していたのです。
しかし、現在は本来の目的である「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)」に貢献する時期に来ていると感じています。欧米の企業が既に取り組み始めているように、AIを活用してビジネスの規模や範囲を飛躍的に拡大するという視点が、今後重要になると考えています。
では、具体的にどのような領域でAIを活用すればよいのか。
例えば、企業が有する多岐に渡る業務プロセスにおいて、AIを使って人が介在することで生じるクリティカルパスを解消していくことが求められます。具体的には、生産と販売を決定する製販会議のように、複数の部署が集まり、異なる目的や考え方を持つ人々が方向性を見出す場面での活用が挙げられます。また、製品の品質管理や生産手順(SOP)などの改良に熟練の技術者の知見が必要とされる場面でも、AIを取り入れることで、生産性の向上が期待できます。このようにAIを活用して多岐に渡る業務プロセスのクリティカルパスを解消することによって、各プロセスや各部門が有機的につながり、企業全体のものづくりに対する実行力を向上させる大きな役割を果たすと考えています。
2.AIの導入事例と成功の秘訣
大原:ALGO ARTIS の導入事例について教えてください。どのような課題をどのように解決されたのか、また成功の秘訣やTIPSがあれば教えてください。
永田:導入企業様は製造・エネルギー・運輸産業など多岐にわたりますが、共通する課題としては以下の2点が挙げられます。
現場のオペレーションが非常に複雑であること
複雑な運用計画を熟練した担当者が属人的にこなしていること
これに対して、我々は高度なアルゴリズムを活用し、人間よりも優れた計画を自動で生成するソリューションを提供しています。
成功の鍵は、テクニカルな要素ももちろん重要ですが、それ以前に関わる担当メンバーのマインドセットが非常に大切です。AIプロジェクトは不確実性が高く、うまくいくこともあれば、そうでないこともあります。その中で、失敗を恐れず、トライ&エラーを繰り返しながら次のステップに進んでいくという姿勢、そしてそれを支える企業文化
が成功の大きな要因です。これが欠けると、たとえ一度プロジェクトを始められても、困難に直面した際に心が折れてしまい、結局プロジェクトが止まってしまうことになります。これを乗り越えた企業の方々は、本当に素晴らしいですし、それが成功の最大の要因だと感じています。
大原:事例を見ると、多くの企業様が複数の課題を抱えているように思います。その中で、どの課題を優先的に解決すべきかを見極めることも重要ではないでしょうか。どのようにアプローチされていますか?
永田:私たちは「計画」に特化したソリューションを提供しています。多くの企業で見られるのが、業務の属人化が進んでいるということです。特にOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で一対一の引き継ぎが行われることが多いですが、業務が複雑すぎてドキュメントにまとめることが困難なケースもあります。これは非常に大きな経営リスクです。その担当者がいなくなると生産性が低下し、最終的に収益も下がってしまいます。そこで、我々はノウハウをAIに置き換えることで、継続的な業務の引き継ぎを可能にし、このリスクを軽減しています。
さらに、計画自体が非常に複雑であるため、人間が最適な設計を行うことは困難です。AIを活用することで、工数の大幅な削減やリスクの軽減といった課題を解決しています。
大原:なるほど、熟練者が残してきた知見やノウハウを、Optium(オプティウム: ALGO ARTIS の計画最適化ソリューション)が引き継ぎ、誰でも活用できる形にトランスフォームしているということですね。その結果、人材の最適な配置も可能になるというメリットもあるのではないでしょうか?
永田:そうですね。これまで計画を立てられるのは一部の優秀な人材に限られていましたが、AIの活用によってその優秀な人材をより付加価値の高い業務にシフトさせることが可能になります。このように、人材の適材適所を実現できる点も、大きな効果だと思います。
大原:それはまさに、人材という長年の経営課題にも効果が現れているということですね。
3.AI技術の活用と具体的な効果
大原:ALGO ARTIS のAI技術が製造業でどのように役立っているのか、具体的な機能や利点を教えてください。また、導入後に得られた効果や成果についてもお聞かせください。
永田:AIと一口に言っても、さまざまな技術が存在します。例えば画像認識などもその一例です。私たちが使っているのは「探索型」の技術で、ヒューリスティック最適化という少し特殊な技術です。いわゆる機械学習とは異なるもので、"Another AI" (アナザーエーアイ)と呼んでも良いくらいの高度な技術です。
もともとこの技術を使いたくて始めたわけではなく、製造業などの現場における計画の複雑さや困難を解決するために、さまざまな技術をフラットに比較し、最も適していると判断したのがこの技術でした。
無数の計画パターンが存在する中で、例えば囲碁では10の360乗、将棋では10の220乗といった天文学的な組み合わせが考えられます。私たちの関西電力様の事例では、それに遥かに上回る複雑さ、10の720乗もの組み合わせを試算する必要がありました。人間は勘や経験をもとにある程度絞り込んで計画を立てますが、それでも限界があります。私たちは探索型のAIを活用し、人間が見つけられないような優れた計画パターンを抜き出すことができるのです。
では、この技術によってどのような効果が得られるのか。大きく5つのメリットがあります。
収益性の向上
人間の能力を超えた高効率な計画を立てることで、生産コストやエネルギー使用量を削減できます。場合によっては数千万円から数億円のコスト削減につながるケースもあります。リスクの低減
納期遅延や原材料不足といったリスクを低減する計画を立てられるようになります。より高度な計画を実現することで、こうしたリスクを極めて小さくすることが可能です。属人化の解消
特定の技術者に依存せずに、誰でも計画を立てられるようになるため、職人技に頼らない運用が実現します。労働環境の改善
作業者の負担を軽減し、偏りのないシフト管理や過度な残業を回避する計画が可能になります。特に物流業界で注目されていますが、AIの力で解決しています。環境負荷の低減
GHG(温室効果ガス)の排出量を最小限に抑える計画を立てることができます。残念ながら現時点ではコスト削減とGHG削減はトレードオフの関係にありますが、AIによってどこまでコストを許容し、どこまでGHGを減らせるかを科学的にシミュレーションし、的確な意思決定が可能になります。
これらの効果は、我々のAI技術を使ったソリューション「Optium」(オプティウム)によって実現されるものです。
大原:ヒューリスティック最適化についてお伺いしたいのですが、いわゆる厳密解法では10の何百乗通りも確認する必要がありますが、ヒューリスティックでは合理的に解を出せるということですね。高負荷な計算リソースを必要とせずに使える点もポイントだと思いますが、いかがでしょうか?
永田:その通りです。厳密解法を使うと、スーパーコンピューターでも何ヶ月かけても解が出ないようなレベルの複雑さです。そこで、私たちは近似解法を用いています。数学的に最適な解とは言えないかもしれませんが、それでも十分に人間が立てるよりも良い解が得られます。このようなアプローチによって、普及が進んでいない最適化技術を日常的なオペレーションに使える形に昇華させています。
大原:なるほど。AIが出した解は数学的なものですが、実際に現場に落とし込む際にギャップを埋めるステップが必要になるかと思います。その部分についてはどのように対処されていますか?
永田:厳密解法では現場の細かい条件を考慮しきれないことがあり、良い計画ができても現場で使えないことが起こり得ます。私たちは最初からすべての条件を取り込んだ上で近似解を出し、ほぼそのままの形で現場に活かせる計画を提供しています。
大原:ありがとうございます。厳密解法では、全ての条件を守らなければ解が出ませんが、ヒューリスティック最適化では緩和できる制約も調整しながら最適解を出せるというわけですね。
また、先ほどお話しいただいた5つのメリットについて、Optiumの具体的な機能にどのように反映されているのか教えてください。
永田:基本的に、出てきた計画にはこれら5つのポイントがすべて反映されており、それが大きな利点です。重要なのは、ツールと人間のインタラクションです。お客様によっては、特定の要件の優先度を上げたい、下げたいといった細かな調整が必要になることがあります。ツールの結果とビジネス全体の要件をうまくつなぎ合わせることが重要だと考えています。マシンと人間がインタラクションすることで、現実的な解を導き出す工夫が必要です。
大原:お客様の視点はさまざまですから、ツールを一つの共通言語として活用できることがポイントなのですね。5つのポイントすべてに対応するには、一つのアルゴリズムだけでは限界があるのではないかと思いますが、複数のアルゴリズムで対応されているのですか?
永田:従来のパッケージソリューションでは、一つのアルゴリズムでさまざまな会社の問題を解決しようとしてしまい、使いにくさや最適化のクオリティの低下につながることがあります。我々は、各社ごとにヒアリングを行い、チームを編成して開発を進めることで、それぞれの違いを吸収し、カスタマイズされたソリューションを提供しています。
大原:まさにお客様ファーストということですね。
4. AI導入のプロセスとハードルの克服
大原:AIサービスを導入する際の一般的なプロセスについて教えていただけますか?また、導入には多くの課題があると思いますが、その対策についてもお聞かせください。
永田:AIや先進技術を導入するプロジェクトでは、3つの重要なポイントがあると考えています。
1つ目は「AIに関する技術」です。これは当然ですが、技術力がなければプロジェクトは進みません。
2つ目は「運用まで見据えた要件設計」です。よく「まずはPoC(概念実証)を行いましょう」という提案がされますが、これだけでは失敗しやすいのです。なぜなら、誰がどのように運用するのかを具体的に考慮した要件設計が欠けている場合、最終的な導入フェーズで合わなくなってしまうからです。運用までを見据えた要件設計を行い、その上でのPoCが非常に重要です。
3つ目は「不確実性を前提としたプロジェクト推進」です。AIなど先進技術を取り入れるプロジェクトは、トライアンドエラーを繰り返しながら軌道修正して進める必要があります。私たちもこれまで数多くのプロジェクトを手がけてきましたが、最初に設計した要件で最後まで順調に進んだケースは一度もありません。必ず途中で困難が発生し、それをどう乗り越えるかが重要です。
フェーズごとに区切って進め、どこまでを検証し、このまま進めるべきかどうかを冷静に判断する必要があります。私たちも通常3〜4フェーズに分けてプロジェクトを進めており、お客様と協力しながらリスクを最小限に抑え、次の大きな成功につなげています。
大原:つまり、プロジェクトのスタート時点では解決すべき課題を特定し、アプローチ方法を設計する。一方で、進行中は最初に決めた計画に固執せず、柔軟に対応して前に進むことが重要ということですね。
技術導入に際して、お客様に安心感を持っていただくための取り組みも必要だと思いますが、どのような対策を講じていますか?
永田:重要なのは、最初に失敗の可能性があることをお客様と共有し、しっかりと認識を合わせることです。バジェットやスコープについてもお互いに全てをオープンにし、ワンチームとしてプロジェクトに取り組むという透明性が重要です。
大原:「できる」ということだけでなく、「できないこと」も率直に話し、その上で進めていくことが重要だと感じました。技術面や組織面での障壁もあるかと思いますが、どのように対処されていますか?
永田:技術面は私たちソリューションベンダーが解決する問題です。しかし、組織面では「アジャイルでの開発経験がない」とか、「契約が特殊である」など、会社内部で前例のない案件になることがよくあります。これを新しい取り組みとして会社が受け入れ、社内の整理をどのように進めるか、前向きに検討できる組織作りが、プロジェクト成功のためには重要な裏方の役割を果たします。
大原:お話を伺う限り、最初の段階でしっかりと意識合わせを行い、障壁を取り除いていることがプロジェクトの成功に繋がっているようですね。サービス導入までの期間は、どれくらいを想定されていますか?
永田:サービスの効果を確認し、フィージブル(実現可能な状態)かどうかを検証するためのプロセスに大体2ヶ月ほどかけています。その後、本運用に向けてさらにフェーズを進めるという流れです。
5. 未来への展望とメッセージ
大原:展示ブースでもご紹介していますが、横河デジタルでは「AI First Manufacturing」というコンセプトを掲げています。現在はVUCAの時代と言われ、お客様を取り巻く環境はこれまでと比較にならないほど大きく変化し、そのスピードも非常に速くなっています。特に経営層のお客様においては、市場の変化を迅速に捉え、分析し、それにどう対応するかを判断して実行することが求められます。つまり、マーケティングや製品開発、生産、販売といったバリューチェーンに沿った対応が求められています。
横河デジタルは、お客様のものづくりに貢献したいという強い思いを持った企業です。ものづくりというと、「どうやって作るのか」を担う工場やプラント部門を注目しがちになりますが、私たちは主に販売およびマーケティング部門が担う「何を作るのか」という点もものづくりだと捉えており、AIの活用を提案しています。人が介在することで生じるビジネス上のクリティカルパスをAIで解消し、部門間の連携を強化することで、会社全体の実行力を高め、ビジネスアジリティ(ビジネスの柔軟性・業務の敏捷性)を向上させ、お客様の事業規模や影響範囲を拡大することに貢献していきたいと考えています。
永田:我々ALGO ARTISは、あくまでソリューションの提供者であり、製造業そのものではありません。できることには限りがありますが、先ほど触れた5つのポイントから3点取り上げると、まず「技術継承」です。ものづくりと同じく、「計画」も職人技であり、我々はAIを活用してその技術を何十倍、何百倍もの効率で継承し、活用することを目指しています。しかし、そのベースとなるのはやはり職人たちの技術です。引き継いでくれる人がいる間に、その技術をAIに移し、今後10年、100年と続く持続可能な製造業を支える仕組みを作っていきたいと考えています。
伝承者がいない状態から技術を取り戻すのは非常に困難です。日本人は非常に真面目で、驚くほどのオペレーション能力を発揮してきましたが、それを失わないためにも、今こそAIを使って技術を引き継ぐことが非常に重要です。
収益性の向上や環境負荷の低減については、我々だけで劇的に改善することは難しいですが、それを可能にするのは製造業の皆様です。ただ我々は全体を数パーセント改善していく力があります。黒子でありながらも新たな取り組みを通じて製造業を強化したいという強い意志を持っています。これからも製造業の皆様と共に、社会全体の1%を改善していくという想いで取り組んでいきます。
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