自分がベルトコンベアに乗せられた商品みたいに思えてきたら、夜中に引っ張り出して観る 井戸沼紀美(肌蹴る光線)
一本の木が、風に吹かれて揺れている。
何十、何百の葉がこすれ合って、枝が控えめにうなずく。
冒頭の数十秒、どこにでもありそうな空き地の光景に、しかし強烈に引き寄せられた。
『SELF AND OTHERS』。
日々の中で、自分がベルトコンベアに乗せられた商品みたいに思えてきたら、夜中に引っ張り出して観るビデオ。
53分、かつて確かに存在していた写真家の幽かな気配を追いかければ、
街に溢れるグロい広告が剥がれ落ちていく。
『阿賀に生きる』は、辞書や国家が簡単に認められない存在のことを当たり前のように証明していて格好いい。
言葉や音との信頼関係を結びながら、まだ誰にも名づけられる前の仕草を捉えるキャメラ。
行儀よく折り畳まれたハンカチのようなナレーションと荒れすさぶ川の対照的な質感が、いまも身体から離れない。
これまでに観たことがあるのはこの2本だけ。
チラシに書かれたパレスチナの文字をみて、佐藤真という人を知りたい気持ちがいっそう強まりました。
井戸沼紀美(肌蹴る光線)
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