「あなた、私のヒモにならない?...」
「あなた、私のヒモにならない?...」
そう言われたのは20代半ばの頃。
当時勤めていた会社の上司に連れて行かれたスナックのママが突然言い出した言葉。
当然、唐突に言われた俺は驚いた。
丁度その頃、阪神淡路大震災で被災して、実家を出て会社の独身寮に居た頃だった。
まぁ~そんな話も知っていたから同情してくれたのかもしれないけど…
そのママは更に話を続ける。
「別にあなたに彼女が居なくても居てもいいけど、私があなたの面倒見てあげるよ。」
「あなたは仕事が終わったらここのお店で飲んで私と一緒に帰ったらいいから...」
そんな具体的な話を会社の同僚がいる前で話し出した。
唖然として、ぽか~んとしている俺をよそに周囲は囃し立ててた。
正直なところ、当時は出張も多く週末は溜まった洗濯物の処理で半日が終わっちゃうような生活。
時々行く海外出張では最低1週間は現地に滞在するから、帰国後の片付けに辟易していたこともあった。
おまけに住んでいる所も古くて狭い、正に”鰻の寝床”、”独房”と揶揄されていたような独身寮で、夏は暑いし、冬は隙間風がピューピュー言いながら入ってくるような部屋だった。
そりゃ、俺も一瞬、
『こんな好条件は無い!』
とは思ったのだが、直近の恋愛で年上の女性と別れた直後で、それが結構泥沼だった。
その年上の彼女に散々甘やかされて、それが当たり前になりつつあった頃、当時は『意地でも出世したる!』と心に決めて息巻いてた俺の闘争本能が奪われつつあることを感じていたのと、極めつけは2回も子供が出来たと嘘をつかれたのでお別れしたのだった。
(そこまでしても、俺との結婚を望んでたのかもしれないけど…)
何か心の何処かにそれが引っ掛かっていて、俺にリミッターを掛けていたから、その場は丁重にお断りした。
当然、周囲に居た会社の人間は「何で断るねん!」と言っていたのだが...
半世紀以上生きて来て、そんなことを言われたのはこのとき1度だけだった。
正直、俺はそんなにモテる訳でもなく、ルックスが良い訳でもない。
よく考えたら、社会人になって直ぐに週末婚の様な半同棲生活を約3年した後の数年間は、人生唯一のモテ期だったかもしれない。
その店にはその後も何度か先輩に連れられて行き、ちょっとした常連でもあった。
特にその後は進展は無かったのだが、一度だけそのお店が満席で、ママの友人が経営しているお店を紹介してもらった際に、偶然その店が入っている雑居ビルの螺旋階段で二人きりになり、キスをされたことがあった。
そう思うと、ママが言った言葉も酒の席での戯言でもなかったのかと…
よくは覚えてないが、そのお店に連れて行って貰っていた先輩社員が転職を機にそのママが居るお店には行かなくなった記憶があるので、それ以上の進展はなかった。
何かそんな話を今頃になってふと思い出した。
あのまま”ヒモ”になっていたら、俺の人生も変わっていたのかなと...
もし、そんなシュチュエーションに遭遇したらあなたならどうします?(笑)
…と、書き終えたところで去年の話を思い出した!
去年の春に会社の営業車で自損事故を起こしてしまい、軽ぞの頚髄損傷を患った。
その時、知り合ったばかりの今のパートナーの彼女が、自宅療養で思うように動けなかった俺に掛けた言葉が…
「何もしなくていいから、うちにおいで!私が面倒見てあげるから…」
だった。
俺はもしかして、”ヒモ体質”なのか?(笑)
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