見出し画像

親にとっての「普通」になれなかった私のプレゼン史

今までの人生、32年間を振り返ってみると、いろんな場面で親へのプレゼンを繰り返してきたな、と思う。何か買ってほしいものがあるとき、やってみたいことがあるから援助してほしいとき、理解してほしいとき。

プレゼンをしろ、と親から言われた記憶はない。毎回希望が通ったわけでもない。本気で説明して、ダメなときはダメ、受け入れられるときは受け入れられるときで、親との間に生まれるコミュニケーションが楽しかったのだと思う。

私は、一度何かに目標を定めるとやり遂げずにはいられなくなる性格だった。だからそのためのリサーチや努力は惜しまなかったし、プレゼンのためには夜遅くに家族を集めることもあった。今から考えるとかなり迷惑だったと思う。

ハッキリ覚えている最初のプレゼンは、中学校のときの携帯電話の機種変更のためだった。たしか新しい機種に変えたくて、電気屋さんのパンフレットを何種類もかき集めて、料金プランを見比べて、この機種だと何和音(当時は着メロの時代で、和音の数ですごさを競っていた)、絵文字はこんなのが使えて、子供用だと割引があって。。。とかいろんなデータを並べて、「ね、これがいいと思う!どう?!」と鼻息荒くプレゼンをしたのを覚えている。たしか、結果は受け入れられなかった笑。

本気のプレゼンは他にもある。大学のとき、交換留学に行きたい!と急に決断したときの話だ。4月に大学入学した私は、内部進学だったのもあり、あまりやる気のない学生だった。成績は悪くなく、第一希望の学部に入学が許されたが、堕落した生活を送っていた。

そんな折、留学先から一時帰国していた高校の友人と話す機会があり、「英語好きなんでしょー?絶対留学した方がいいよ!」という口車にまんまと乗せられ(笑)、メラメラと留学熱が上がってしまった私は、帰宅直後から死に物狂いでリサーチを始めた。翌年の交換留学に間に合うためには、出願まで2ヶ月くらいしかなかったのだ。

1年さらに遅らせれば、就活にも影響が出る。何としても翌年に留学したい!!その一心で、交換留学の協定校リスト、世界大学ランキング、各大学の地域情報、治安、留学の理由、目標、費用など整理して、親に熱弁した。

私の本気度が伝わり、幸運なことにサポートしてくれることになったときは、本当に、本当にうれしかった。留学していなければ全く違う人生になっていただろう。許してくれた親には感謝しかない。

そして私は結婚のときも親にプレゼンをした。真夜中に家族全員をリビングに集めて、できたてほやほやのパワポのスライドを見せながら。

私たちはいわゆるスピード婚で、私は夫に出会うまで4年くらい彼氏がいなかった。だから、突然、「ちょっと私、結婚しようと思ってて」と言った時、「え?誰と付き合ってるの?」が最初のリアクションだったし、とうとう気が狂ったのか、というような反応だった。

無理もない。しかも相手は外国人。私は資料として、夫の生い立ち、通った学校の紹介、家族構成などを写真付きでスライドに盛り込み、渾身のプレゼンを披露した。少なくとも当時の自分はそれくらい夫のことが好きだったし、結婚しないという選択肢は頭になかった。

その場ではどうとも言えない、まずは会ってみないと、と至極真っ当な答えが親から返ってきて、実際にその2週間後くらいには夫と私の家族が初めて顔を合わせることになる。プレゼンの効果?で多少は衝撃が和らいだのか、心の準備ができていたのか、初対面は見事に成功し、今に至る。

パワポまでつくって、プレゼンして、必死に結婚したかった、同じ男を今では疎ましく思うこともあるのだが、、、それもまた人生。

いつしか母に、「もうちょっと普通に生きてくれないかな。じゃなきゃ寿命が縮まりそう。」と冗談まじりに言われたことがある。私は、特に心配性の母にとっては手のかかる子供だったであろう。特に思春期以降は。

そして今、久しぶりにプレゼンが必要な場面が訪れようとしている。夫の出身国への移住という、私たち夫婦の大きな決断に真っ向から反対する親に、何とか理解してもらいたい、そう思っている。

親の反対理由は、突き詰めれば「寂しいから」に尽きる。それは私も一緒。移住の日の空港で親に見送られながら、検査場を通過して見えなくなる最後の最後まで手を振り続ける自分たちと親の姿を想像すると、それだけで涙が出てきそうになる。

私のプレゼン史は、親との対決でもあり、対話でもあった。時には反対され、時には背中を押してくれ、私の決断の一つ一つには親の存在がある。これからしなければいけないプレゼンは、きっと辛いものになるだろう。

それでも、きっと最後には「がんばりなさい。」と静かに、あたたかく言ってくれる気がしている。

今まで迷惑かけてごめんね。普通の子供じゃなくてごめんね。心配ばかりかけてごめんね。

いいなと思ったら応援しよう!