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25歳で危うく誘拐されかけたときのこと
やつらは突然やってきた
私はその日、真っ暗な夜道を友人と電話しながら歩いていた。駅から自宅までの一本道。友人宅で飲んだあとで、もう12時を回っていた。
左側には中学校があり、右側は住宅が並んでいるのだが、街灯の数もまばらでとにかく暗いのである。ただ、私は生まれてからずっと住んでいたその街で、自分の身にこのあと起きる犯罪など予想もしていなかった。単純に、警戒心が足りていなかったと思う。
突然、背中を平手打ちされ、驚いて振り向くとすぐ横に大きな真っ黒なバンが止まった。
多分、ずっと少し後ろをつけられていたのだと思う。最近の車はエンジン音も静かだし、ましてや電話しながらだったので、全く気づかなかった。
後部のスライドドアは開いていて、男が一人乗っていた。そいつに叩かれたらしい。無言で左腕を鷲掴みにされて車内に引っ張り込まれそうになった。運転席には別の男。二人とも髪の色が明るく、若いな、ということだけはわかった。にやっとした表情も暗闇でも確認できた。
通話中のスマホを持っていた右手は、気づいたら必死に車体を掴んでいた。
やだ、と言ったか、やめて、と言ったか、そもそも言葉にもなっていなかったかもしれない。叫びながら、必死に抵抗し続けた。
ここで車に乗せられたら、私、死ぬんだな、と思った。
車内のライトが蛍光ピンク色だったのが、とにかく気味が悪くて、今でも脳裏に焼き付いている。
わからないが1分以上は経っていたと思う。
私の立っている地面よりも男が乗っている車の床面は少し高く、男のほうは力が思うように入らなかったのかもしれない。わりと身長の高い私の抵抗は思ったより強かったようだ。おそらく声も大きかったんだろう。
運転手の男が振り返り、もういい、みたいな指示を出し、私を引っ張っていた男はパッと手を離した。
その衝撃で私は尻もちをつき、地面に倒れ込んだ。
車はそのまま走り去り、背中部分が大きく破れた、当時買ったばかりのブラウスを着ていた私だけが残された。車のナンバーに目をやったが、動揺で全く頭に入らなかった。
恐怖と、助かったという安堵でどんどん涙が出た。通話中だったスマホから、私の友人がずっと名前を呼んでいるのが聞こえた。
死ぬかと思った。
もし命が助かっても、もし危害を加えられたら、心は死ぬんだろうな、と考えた。
その後。
そこは交差点の近くだったのだが、偶然、別方向から歩いてきた顔見知りのお姉さんが、私の声で異常に気付いて駆け寄ってきてくれた。家まで送り届けてくれた彼女には本当に感謝している。
玄関で私を迎えた両親は、うろたえながらも警察に電話をしてくれた。
10分くらいして、婦人警官1人を含めて3人ほどが自宅にやってきた。何があったのかを話す。駅を出たあたりで目をつけられたんでしょう。この辺はそういう犯罪が特に多いんですよ。パトロールを強化します。と言われた。
被害届については、出したら何回も捜査協力をお願いすることになるし、結構面倒ですよ、と言われ誘導されるがまま、出さないという決断をした。今は少し後悔している。きっと、私に面倒をかけるのが嫌なんじゃなくて、自分たちが面倒だから、だったんだと思った。
いくつになっても夜道は気をつけよう
日本=安全ではない
ニュースで見る事件は他人事だと思ってしまう。当時の私はあまりにも危機管理能力に欠けており、呑気に生きていた。
日本では毎年何人もの人が失踪したり、行方不明になったりしている。その中には自ら行方をくらました人もいれば、事件に巻き込まれたりした人もいるだろう。
もし後部座席にいた男がひとりじゃなかったら、最初に頭を殴られて意識を失っていたら、声が出なくて抵抗もできなかったら、何かが1つでも違っていたら、私は今ここにこうして生きていなかった。
これだけは確かな事実。精神的なダメージを受けた出来事ではあったが、学びもあった。
夜一人で歩くときは周りに注意する。イヤホンつけたまま歩かない。スマホいじりながら、電話しながら歩かない。不安なら家族に迎えにきてもらう。そもそも夜遅くに出歩かない。
何歳になっても狙われることはある。一人でもこういう被害に遭う人が減りますように。