月間ルーマニア誌12月号2020

こんにちは!読者の皆様。

まず、報告がある。「記事」の名前を月間ルーマニア誌に統一し、決定したことだ。個人的にはクライテリオンとして大切だと感じるので、一応読者の皆様に伝えたかった。

さて、本題に入る前に、個人的に憤慨を感じた、政治、社会、経済などとはあまり関係ない話をしたいと思う。ルーマニア全体が、ある意味、怒りに震えた事件がサッカー界で起こった。

人種差別。それは、自分のようなある種のニヒリズムの信仰者でも、道徳心の基準として、あってはならないことだとしっかり理解している。人は生まれてして平等。社会的概念の中では最も大事なものだとも思う。そもそも、民主主義は、この社会的に作られた、「法の下の平等」によって形作られていると個人的に感じる。

しかし、これから文字にして伝える「事件」の前から、人種差別を通り越した、逆の人種差別が世界的に横行しているように感じる。差別とは何か?難しい問題であり、絶対的な答えは見つかることはないかもしれない。そもそも、何もかもが解釈の世界である。しかし、自分にとって不利な状況になったら差別のせいにする、自分を優位な状況に位置付けるために差別という歌文句を使う、そんな状況を垣間見るようになった。

ルーマニアを震撼させた事件は、12月7日に起こった。UEFAチャンピオンズリーグのグループ予選、PSG対イスタンブールの試合、第四審判のセバスティアン・コルツェスクが人種差別的な発言をしたとして、両団の選手たちは試合を放棄した。

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これから、ルーマニアのサッカージャーナリストの中でももっとも有名かつ公平といってよい、エマヌエル・ロシュさんのツイッター(@Emishor)の投稿から、彼が当日の動画を分析し、英語で選手や審判たちの会話を文字おこししたものを引用する。試合の約13分、コルツェスクは主審のハツェガンに、「カードを与えろ!Cel Negru(黒いやつ・黒人のやつ)!そんなことをするのはあり得ない!誰のことを言っているか確認しろ!Cel Negru!あんなのあり得ない」と伝えていた。ルーマニア語のNegruという言葉に、両チームが激しく憤怒し、試合放棄した形だ。

しかし、今のやり取りは本当に人種差別的なのだろうか?ルーマニア語では「黒色」も「黒人」もNegruだ。確かに英語のNiggerや長い間英語圏で使われていた(スペイン語由来の)Negroにも似ている。ルーマニア語を話せない人からすればそう聞こえてもおかしくない。問題なのは、全員がヒステリックにかつ不合理的に解釈し、ルーマニア人審判団の説明に耳を傾けなかったことだ。

仮に、日本人の審判団が黒人のコーチを指すために、黒人のコーチと言っていたら誰かが問題として扱っていただろうか?誰も、NegroやNiggerに似つかないため、おそらく誰も気づかなかっただろう。

そもそも、Negruは差別的な言葉ではなく、色を示すものだ。黒人のコーチが肌の色をさされたことに怒りを感じるのは到底、個人的には、理解を示せない。白人のコーチしかいない中、唯一の黒人のコーチを、肌の色で識別しようとした。そこに差別を感じることは個人的にはできない。禿のやつ、金髪のやつ、はたまた黒人しかいないところで、唯一の白人が「白いやつ」と特徴を言葉にしていたら差別になっていただろうか?

両チームの選手が試合放棄をする前、イスタンブールの監督はコルツェスクをGypsyと呼んだようだ。それこそ差別的な意思を持って。Gypsyはロム人を蔑むために使う呼称だ。そして、ルーマニア人はそもそもロム人ではない。ルーマニア人はGypsyと呼ばれることを嫌う。オカン監督もそれを知って発言したことだろう。これも、ロシュさんのツイッターで確認できる情報だ。

最後に、フランスのクラブ、そして選手からの直接的な批判にはかなりの矛盾を感じた。フランスはルーマニアを最も蔑む国の一つだ。例を二つだけ挙げて、この話題は一度終了とする。あるフランスのコメディアンはルーマニア人の「特性」として、人の前で両手を添え、「S'il vous plaît(お願いします)」と発言する民族だと笑い罵った。ルーマニア人=乞食としたのだ。そして、シモナ・ハレプ、21世紀のルーマニアのスポーツ界の象徴ともいえるテニス女子プレイヤーが、ロラン・ガロス、世界でも数本指に入る名門の大会を優勝したとき、あるフランスのアーティスト(?)は下のような絵を描いた。「ロラン・ガロスを優勝したルーマニア人。鉄くず!鉄くず!」。優勝カップを鉄くずに変えるという、そんな比喩だ。これらが差別であるかどうかは、読者の独断に任せるが、個人的に、そしてルーマニアが怒りを感じたのは仕方ないことだろう。コルツェスク審判がどうなるかはわからない。UEFAから永久追放される、5年間審判として行動できない、和解する。この三つの可能性があるらしい(https://www.digisport.ro/special/un-derbedeu-el-a-facut-tot-scandalul-asta-aiurea-atac-frontal-dupa-ce-coltescu-a-fost-pus-la-zid-ce-vrea-sa-faca-uefa-971359)。

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さて、月間ルーマニア誌の本来の趣旨に戻ろうと思う。

まずは、世界的な問題のコロナ関連の話。11月号で執筆した、ピアトラ・ネアムツ(ニャムツ)病院火災事件では何ら進展はない。それどころか、事件は忘れ去られている。軽くネット検索しても、11月16日以降、主要メディアは何ら記事を書いていない。死者の合計数は12名(https://www.digi24.ro/stiri/inca-un-deces-in-urma-incendiului-de-la-piatra-neamt-bilantul-tragediei-ajunge-la-12-morti-1404467)。忘れ去られるには悲惨すぎる事件だ。もし何か進展があれば、次月以降の記事で言及したいと思う。

しかし、ルーマニアのコロナの状況はどんなものなんだ?という質問があるだろう。まずは欧州の悲惨な状態として、進化したコロナが英国で発見された。再び英国との航空の通行を制限する予定のようだ(https://www.economica.net/raed-arafat-despre-o-eventuala-blocare-a-zborurilor-cu-marea-britanie-azi-sau-maine-este-posibil-s_194436.html)。

国内的には、12月20日で3350人が感染、98名が死亡。数は、少しずつ減少傾向にあるように見える(グラフ参照)(https://datelazi.ro/)。

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ワクチンの運搬の状況もかなり良いと個人的には感じる。欧州連合は、今月23日までにファイザー社とBioNTech社共同のワクチンを承認する見込みのようだ。そして、26日から31日に一万のワクチンが届く予定であるようである(https://www.mediafax.ro/coronavirus/cele-10-spitale-unde-vor-ajunge-primele-10-000-de-doze-de-vaccin-anti-covid-19-care-vor-sosi-in-romania-19797194)。

新しい、進化したウイルスがみつかったのは少し不安だが、なにはともあれ、ワクチンなどの影響により早く収束することを願うばかり。最初のワクチンは医療従事者に与えられる見込みだが、一般人のアクセスも可能になった暁には、自分も受けたいと思う。民主主義は、見えない友人を思い、初めて機能する。一人一人が行動しなければ、何も成し遂げられない。

さて、次は政治的な話題について執筆したいと思う。

まず、12月6日の国会選挙が終了したことを報告。軽くルーマニアの政治体制をおさらいする。まず、ルーマニアはフランスをお手本にした半大統領制である。本来は大統領と国会の力が半々と均衡するはずだが、ルーマニアでは国会のほうが決定力をもつ。国会が可決した法案を唯一大統領が、何らかの方法で否決するには、最高裁判所に提出するしかないからだ。ルーマニアの国会は上院と下院でできてるが、それは名前だけで、どちらも力としては平等だ。日本のように片方が法案を提案し、もう片方が審査し可決するみたいなルールはなく、どちらも提案、可決できる。そして、国会に、ある党が人員を送り込むには、最低でも5%以上の投票率がなければいけない。

さて、最終的な投票結果はこれだ。

下院:

PSD(社会民主党) - (1.705.777 voturi) - 28,90 %

PNL(国家自由党)- (1.486.401 voturi) - 25,19%

USR PLUS(ルーマニアを救う会ー自由団結連帯党) - (906.962 voturi) - 15,37%

AUR(ルーマニア統一同盟) - (535.828 voturi) - 9,08%

UDMR(ルーマニアのマギャール人民主連合) - (339.030 voturi) - 5,74%

PMP(国民を突き動かせ党) - (284.501 voturi) - 4,82%

Pro România - (241.267 voturi) - 4,09%

上院:

PSD - (1.732.276 voturi) - 29,32%

PNL - (1.511.225 voturi) - 25,58%

USR PLUS - (936.862 voturi) - 15,86%

AUR - (541.935 voturi) - 9,17%

UDMR - (348.262 voturi) - 5,89%

PMP - (291.484 voturi) - 4,93%

Pro România - (244.225 voturi) - 4,13%

https://www.digi24.ro/alegeri-parlamentare-2020/alegeri-parlamentare-2020-rezultate-finale-psd-289-pnl-25-usr-plus-15-aur-98-pmp-si-pro-romania-nu-intra-in-parlament-1415280

そして最終的な結果(5%以下を取り除いたもの)は、以下の通り。

下院:PSD 33% (110 mandate)
PNL 28% (93 de mandate)
USR-PLUS 17% (55 mandate)
AUR 10% (33 mandate)
UDMR 6% (21 mandate)
Minorități(少数派) 5% (17 mandate) *Mandate=人員数

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赤=PSD;黄色=PNL;青=USR-PLUS;白=AUR;緑=UDMR;灰色=少数派

上院PSD 35% (47 mandate)
PNL 30% (41 mandate)
USR-PLUS 18% (25 mandate)
AUR 10% (14 mandate)
UDMR 7% (9 mandate) 

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赤=PSD;黄色=PNL;青=USR-PLUS;白=AUR;緑=UDMR

https://romania.europalibera.org/a/jocul-mandatelor-%C3%AEn-parlament-pnl-poate-spera-s%C4%83-guverneze-doar-cu-o-majoritate-fragil%C4%83/30994207.html

新政府の内閣のメンバーがどうなるのかは現在進行形で話し合い中であるようだ。しかし、PNL、USR-PLUS、UDMRの連合内閣になることは間違いないようである。しかし、この三つの党が一緒になっても、割合は5割を軽く超えるくらいだ。かなり険しい線引きである。新総理大臣として一番有力なのはFlorin Cîțuである。前内閣では、財政大臣を務めた人物だ。

当選した党の中で新線の名前かつ過激なものがある。AURだ。排外主義、ウルトラナショナリズム、ルーマニア正教過激主義のグループだ。おまけに、半マスク運動もけん引した政党である。なぜこんな党が当選したのか?ここで重要になってくるのは、選挙に行った人の少なさ。これを証明するか画像がある。実に約7割は、選挙に行かなかったのだ。

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これらの状況を踏まえて、AURについて少し説明したいと思う。

Alianța pentru Unirea Românieiは、最も大切な政策としてモルドバ共和国との合併を掲げているウルトラナショナリストな政党である。

経済的な政策としては現地会社の税金を引き下げ、がい国籍の会社をできるだけ追い出すこと、じゃなくても税金を引き上げる。

社会的には、キリスト教学を小学校で強制的に教える(そして宗教学をなくす。)。中絶の禁止化。https://www.partidulaur.ro/program_aur

排外主義も掲げており、ハンガリー人などのマイノリティを国外追放するなどのアイデアも公的に表している。LGBTQなどの人々は精神的に病気であり、80年代のように「治療」をすべきだとも公言している。

ほかにも、AURのリーダーは「男は女に知的なものは見いだせない、見いだせるのは性的興奮だけだ」という性差別発言をした。

こういう発言はほかにもある。ȘoșoacăなるAUメンバーの弁護士は、ルーマニアは「ファスチズム、ナチズム、共産主義、ボルシェビズム、スターリニズム」すべてを体現している国だというのだ。

そして、欧州連合からの脱退という政策もある。狂気としか言い表しようがない。

なんで、こんな政党がたくさんの投票を終結したのか?いくつかの可能性があげられる。選挙に行った人の少なさ。Facebook等のSNSでの人々と直接「語り合った」こと。今まではいくつかあった過激派政党がすべてなくなり、一つになったこと。コロナの経済的影響による、一部の人々の過激化(+半マスク主義などが受けた)。

最高のタイミングで最悪の政党が誕生してしまったわけだ。

彼らは反システムを掲げ、どの既存の政党ともかかわりはしないと公言しているが、実際にそうであってほしい。そして、政治に全く介入できないような状況になることを願うばかりだ。

この政党に対しては、個人的にも、これから注目していく。何かあればすぐに記事にする予定だ。とにかく今の状況が続けば、国会の中でもたくさんの人数を確保しているわけでもないので、過激的な法案が可決されることは限りなく低いといえるだろう。そのままであってくれればいいが。。。

激動の時代を過ごすルーマニア。2021年はどんな年になるのだろうか?

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