グリフィスの傷/千早茜


グリフィスの傷/千早茜/集英社

傷とその癒しをテーマに書かれた短編集。10編収録。
本書は体や心に傷を負った人が主人公として描かれているが、切なかったり読んでいて痛みを覚えるものだったり、逆に傷があることで前向きになれる、傷があることを肯定的に捉えている作品もあり、一口に「傷」と言ってもその有り様は様々。
読んで感じたのは、やはり「傷」というのはその人をその人たらしめるものであり、その人を形作るものであるということだ。肉体的、あるいは精神的に負った傷がその人の生き様であり、時には「どのように生きるか?」の指針ともなりえる。
傷付けば痛み、苦しんで何かを憎んだり恨みたくなることもあるし、その傷は死ぬまでずっと癒えることがないかもしれない。何もかも放り出して生きることすら諦めたくなる瞬間もあるかもしれない。傷はとてもパーソナルなものであるが故に、誰も自分に代わってそれを引き受けてはくれない。殆ど絶望的と言って良いこの状況に希望を見出すとしたら、誰もが大なり小なり見えない傷――グリフィスの傷を抱えているということ、そうして傷を負った果てに見えてくる真実があるということだ。
深く残った傷でさえ、その人を損なうことはない。傷跡は燦然と輝く光となってその人を彩るだろう。
痛みや傷が癒されることばかり注目される現代において、「グリフィスの傷」は傷を負う意味と価値を描き出した作品だろう。

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