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変わってほしくない景色ばかり移り変わる。
「ビーっビーっ」とサイレンの様に部屋で鳴り響くアラームを消したいつもの朝。
眠たい目を擦りながら洗面所へ行き、顔を洗って歯を磨く。ひんやりした水の冷たさで無理やり身体を起こした後は、コーヒーを啜りながら観葉植物達に水をあげる。プログラムされたロボットみたいに毎日同じ時間に同じ景色を見ながら同じ動作を繰り返す。
でも今朝仕事へ行く為に家を出た時、いつもと違う景色があった…。
***
私が住んでるマンションの前には、年配のご夫婦で営まれている小さなうどん屋さんがあります。
私はこのマンションに住み始めてまだ4年ほどですが、そのご夫婦はもう15年ほどお店をされているそうです。
『きつねうどん』や『天ぷらうどん』『かきあげうどん』などメニューも豊富でうどんが美味しいのは勿論のこと、私はそこのお店にあるカレーが大好きで、たまに時間がある時は4年間で何度もお店に行かせて頂きました。
コンクリートで冷たく包まれた住宅街の中で、そのお店だけはポツンとどこか懐かしい暖かみのある雰囲気を醸し出していました。そして明るい笑顔と共に気さくに話しかけて下さるご夫婦に、私は遠く離れた実家の両親にどこか姿を重ねていたのか、お話する度に実家に帰った時の様な安心感や安らぎを頂いていました。
このお店がほんとに大好きでした…。
でも今朝家を出た時、そのお店には『私情により3月末で閉店とさせて頂きます。』という大きな張り紙がありました。
内容を全て読むまでもなく、閉店という文字で瞬時に全て理解してしまった。仕事に行くまでの時間に追われていることも忘れて、「そっか、閉店か。」と少しの間張り紙をじっと読んでた気がします…。
電車にゆらゆら揺られている間も、閉店の文字が頭に残る。車内には学生もいて賑やかなはずだったけど、ほとんど聴こえてこない。
心にぽっかりと穴が空いたみたいだった。
やっと気持ちの整理がついたのは次の日の朝を迎えた時でした。お店を閉めることは悲しいけど、もしかしたらお二人はポジティブな気持ちで前向きに決断されたのかもしれないし、悲観な気持ちでいるのはやめようと思いました。
どんな理由でお店を閉められるのかなんて失礼なこと口が裂けても聞けないので、私がその理由を知ることはこの先ないでしょう。
今はただ今までありがとうございました。と伝えたい。あと約1ヶ月、何度顔を出せるか分からないけどあの安らぎの場所を提供して頂いた恩を少しでも返したい。
お互いの連絡先も知らず、閉鎖的で人で溢れかえったこの街であの店を介さずに私達が出逢える可能性は、ふつうに考えれば限りなくゼロに等しいと思うから。あなた達の透き通った未来に私はもういないと思うから。
今あなた達の明るい笑顔に触れさせて頂けることが出来る、この時を大切にしたいと思いました。
今週末、あのうどん屋さんに行ってきます。
人が人である限り、そこにはいろんな出会いがあって、いろんなお別れがある。
でも決まってお別れって突然です。だからこそ自分が身体や心で触れ合える距離にいる人との時間は瞬間瞬間で大切にしなくちゃならないなと思いました。
当たり前のことだけど、いざ訪れると辛くなってしまう。
今を大切にと、強く心に刻みこんだ。そんな1日でした。
では今回はこの辺で終わりたいと思います。 最後まで読んで頂きありがとうございました!
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