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終電の小窓からみた景色は、三原色でも表せない

朝。ずっと大切に育てていたパキラが枯れた。

前々から弱っていたから、そろそろかと思ってたら今日がその日だった。一枚、また一枚と乾ききって落ちた葉を、部屋の中を霞める加湿器の蒸気がそっと湿らせる。

『藍色』

昼下がり。仕事の打ち合わせがてら、数年ぶりの友人と会った。

会話に出てくる懐かしい名前と共に、かつての記憶が朧気に頭の中で沸き上がってくる。中には海外へと旅立ち、遠い異国の地で家庭を築きあげ生活の拠点とし、中々会えない友人の話も…。インスタの投稿を見返しただけでは、決して折り合いのつかない遠い記憶が、心と身体を温めてくれた。

『薄い橙色』

一日を区切って色で表してみたくなったのは、昨日電車の小窓からみた景色が、とても言葉ではいい表せない色をしていたから。私の稚拙な頭では、とてもじゃないけど抽象的な表現しか出来ない。そんな色だった。

何ヵ月かぶりに終電に乗った。

いつもみる景色とは全然違う。やっぱり違和感のある景色だった。人はまばらに。でも最終を逃すまいと、次から次へと駅へと集う人達。

街の灯りと夜の暗闇が交互に服を染め上げる。少しずつでも活気を戻しつつある飲食街を抜け、その集いに私も加わった。駅に着いた時、さっきみた飲食街の光景が頭をよぎる。まだまだ傷は深いけど、少しずつでも元に戻ってきてる。きっと数年後には、何事もなかったのように街は活気を戻しているんだろう。過去の歴史からみても、何度も人類は同じような出来事を乗り越えてる。「人は強いんだな。」そう思った。

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しばらくして最終の列車が動き出した。何人もの人と人生を乗せて。

普段乗る時間帯の電車とは、全くの別世界。「疲れた。」「眠たい。」「酔った。」耳を澄まさなくても、そんな声が電車の中を漂ってるので聴こえてくる。勿論端からみたら、私もそんな声を発してる一人だと思う。

「今日は、ほんとに長い一日だった…」そう思いながら、窓辺に目をやる。

携帯をみる気力もなかったので、気付けば窓越しに映る景色をぼーっと眺めてた。白くもやのかかった、10倍速で流れる景色をただ眺めてた。点々と散りばめられた家々の灯り、真っ暗な夜道を静かに照らす街灯、夜空、それら全てが刹那の如く一瞬で流れていく光景をみながら、昼間友人との会話に出てきた海外へ旅立った友人を思い出してた。

「今どうしてるんだろう。」

インスタの投稿で並べられた写真でしか近況を知らない。高校の時は毎日一緒にいたはず。今思い返せば、その時からいつか海外に住むと言ってたな…でもお互い社会に出て、濁流のように押し寄せる毎日と人間関係が、いつしか私達を遠ざけた。いや、それはきっかけの一つに過ぎなくて大人になっても続くような関係じゃ元々なかったのかもしれない。そう思うと、すごく切なくなった…。

その瞬間、電車からみえた景色の色は、照明で照らされたもやのかかった白色でもなく、夜を包む黒色でもない何か。朝焼けがみえる少し手前の時間の空のような、淡く青みのかかった橙色が、黒と白と同化している温かくも冷たい不思議な色だった。

電車の小窓から眺める景色をみていると、過去の記憶が走馬灯のように同じ速さで流れる時がある。今日みたいに会話がきっかけになる時もあれば、一度降りたった場所や建物を目にした時、ふっと頭の中で記憶が流れる。そんな時は、だいたいちょっと切なくて、過去を懐かしみ取り戻したくなる。何でなんだろう。

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最終電車から降りたった駅は、いつもより肌寒い。

深みのかかった夜が、人気のない改札を更に哀愁を漂わせ、冷たい風だけが吹き抜けていく。

身体を縮ませながら、ポケットに入れた手を温めて思う。「きっと友人の住んでる国はもっと寒いんだろうな、いつかまた会いたい。」

「今日の午後会った友人と同じように、懐かしい話に花を咲かせたいな」

人との関係なんて何がきっかけでまた以前のように、連絡を取り合える関係に戻れるか分からない。なら自分からそのきっかけを作ろう。

寒空の下、強くそう思うと、いてもたってもいられず、自宅に帰ったと同時にLINEのトーク画面で友人との最後の会話を、指でスクロールし探してる自分がいた。


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