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愛猫との死別から目指した、より良い世界の創造──400名強の生産性向上に努める彼女の計略

「ペットは大切な家族」。そう考える人が増える一方で、獣医療の現場には課題が山積しています。医療の質の向上、獣医師不足、デジタル化の遅れ......。そうした課題に真正面から立ち向かい、ペットとオーナーの幸せな未来を実現しようとしている企業があります。日本とアジア諸国で事業を展開するA'ALDA Pte Ltd,.(以下、A'ALDA。読み方、アルダ)です。

A'ALDAで、CSO(最高戦略責任者)を務めるのがLei Jiangです。SMBC日興証券やクレディ・スイス証券といった投資銀行での経験を活かし、2023年4月にA'ALDAに参画しました。M&AやIPOなどの資金調達アドバイザリーを中心に、グローバルに企業の成長戦略を支援し、あらゆる企業で“秀才”と評価されていたLeiが、次なるフィールドに選んだのはペット関連産業でした。

A'ALDAの将来性に惹かれた理由の一つが、創業者である奥田昌道の熱意だったと言います。日本最大の動物病院グループへ成長した今、A'ALDAは新たなステージへと踏み出そうとしています。

動物病院という「リアル産業」の変革に挑むA'ALDA。そのダイナミックな変貌を、戦略面からLeiは支えます。彼女がジョインした理由は、ペットと人が共に幸せに暮らせる世界の実現と、人生を懸けるミッションの重なりにあったようです。

CSOの仕事は、「全体最適」の視点で橋渡しをすること

A'ALDAのCSOに就任して、最初に取り組んだのは、ビジョンやパーパスの整理でした。ビジョンやパーパスを戦略としっかり結びつけて、会社がこれから何を目指し、どのようにM&Aを進めていくのか。私自身も理解したかったですし、そういった説明をステークホルダーに対して行うことが喫緊の課題だったのです。

私の役割は、資金調達をしながら会社内部で整理しきれていない部分を整えて、新しい事業の方向性をディレクションしていくことだといえます。各事業のプロダクトオーナーは自身の領域に集中しますが、「全体最適」の視点で橋渡しをするのが、私の仕事なんですね。

投資家との対話で出てきたアイデアや戦略は、各事業にフィードバックしていきます。時には私自身も見落としていた点に気づかされることもあります。こうした整理を通じて、実際のアクションにつなげていけると感じています。

例えば最近、投資家との会話で最も聞かれるのは「動物病院のM&A」についてです。日本の動物病院業界を取り巻く状況をデータとともに説明すると、この分野へ参入する意義や将来性を理解してもらえます。

まず、日本は高齢化と人口減少に伴って、実はペットの数も緩やかですが減少傾向にあるのです。一方で、この5〜6年間で動物病院の数は増加しています。ペットを飼う層の年齢が上がり、子どもが独立した後、ペットを我が子のように可愛がる傾向があるためです。ペットにかける消費金額も増えており、寿命の延びに伴って、医療ニーズも高まっています。

Lei自身も大のペットラバー

ただし、開業医でなければ獣医師としての生活が成り立ちにくいのも現状です。開業のハードルは高いものの、収入面の魅力から、徐々に開業する獣医師が増えてきたのです。しかし、開業医の平均年齢は56〜57歳と高齢化が進んでおり、8割以上の病院が獣医師1〜2人の小規模経営です。

つまり、ペット医療に対するニーズは高まっているけれど、供給側の高齢化と引退が進んでいるのが課題なのです。獣医師が引退する際にどうするのか。その問いが、A'ALDAの動物病院M&A戦略のきっかけになっている、と考えられます。

もっとも創業当初はそこまで意識していたわけではありません。たまたま、ある病院のお話をいただいたことから始まりました。しかし2病院目、3病院目とご紹介が広がり、ある動物病院グループのM&Aによって状況は一変しました。日本国内で40病院以上を有するナンバーワンのプレイヤーとなったことで、業界におけるプレゼンスが格段に高まったのです。日本の獣医療を進化させたいというパーパスへの「本気度」が業界内に認知されたのでしょう。

他の動物病院グループからすれば、A'ALDAは競合となる存在に。小規模な病院にとっては、傘下に入るメリットがより明確になりました。獣医師の視点からすれば、自分の病院を継続的に経営し、より良いサービスを提供できることが重要です。A'ALDAの考え方に共感できれば、参画への心理的ハードルは下がるでしょう。

A'ALDAが持っている2つの勝ち筋

次に対外的、要は投資家とのやりとりをする上で大切にしていることをお話しできればと。私たちA'ALDAの勝ち筋は大きく2つあると、投資家の皆様へは伝えています。

1つ目は、PE(プライベートエクイティ)ファンドとは異なり、原則的に時間軸の制約がないこと。5年、7年、10年のスパンで計画を立てられるため、長期的な視点を持てます。事業のエグジットを迫られる心配がないので、獣医師から見ても安心感があるはずです。それが事業承継の成功確率を高めることにつながるでしょう。

2つ目は、グループとしてのシナジー効果です。日本企業の場合、子会社を束ねるだけではシナジーが生まれず、企業価値が適切に反映されるケースが少なくありません。しかしA'ALDAは、グループ内のシナジーをプラスに働かせることを重視しています。

具体的には、私たちが展開しているB2C、B2Bの事業で共通の顧客基盤を持てることです。

簡単に説明させていただきますと、B2Cはライフスタイルサービス(屋内型ドッグラン、未病・予防のための施設運営など)と、B2Bの動物病院事業です。

ライフスタイル施設の顧客は、自然と病院の顧客にもなり、その逆もしかり。最終的には、全ての施設で物販や様々なサービスを提供することで、ペットマーケット全体へのアクセスが広がっていくのです。

B2Cで得た知見をB2Bに提供するだけでなく、B2Bで発展させたノウハウをB2Cに還元することもできます。例えば、マーケティングのノウハウや、人材紹介の仕組みなどがそれに当たります。他の動物病院グループにはまだできていない、A'ALDAならではの強みになり得ると考えています。

これらの勝ち筋について、投資家の理解も得られつつあります。時には新しいアイデアをいただくこともあり、それを事業部と議論しながら展開しています。

経営層はもちろん、現場との対話を重視するスタンス

最近は、M&Aの案件が増える中で、インバウンドで相談を寄せてくださる獣医師の方に納得していただき、効率的にお話を進められる仕組み作りの重要性を指摘されました。すでにA'ALDAでは8割方、その仕組みができあがっていましたが、投資家からのアイデアを取り入れて磨き上げ、100%の状態にできたと自信を持っていえます。

こうした投資家とのやり取りでは、フォローアップが非常に大切だと私は考えています。例えば、A、B、C、Dと投資家へ説明した内容があったとして、そのすべてを実際に行動へ移し、約束を守ることが信頼にもつながります。AとBだけでは不十分ですし、それならば次の展開や改善をどうするかを伝えないといけません。そのため私の仕事では、KPIの可視化や数字の推移を、事業部ごとに分析することにも力を入れています。

金融と経済は、“飼い主と散歩中の犬”の関係

私がA'ALDAのCSOになるまでの道のりを、すこし振り返ってお話ししますね。

出身は中国です。大学進学の際、イタリアのボッコーニ大学の説明会に参加したことが、私の人生の転機になりました。経済学や金融学、経営学を専門に学ぶ私立大学で、奨学金を提供するプログラムがあることも知りました。その当時の私自身に、特に明確なビジョンがあったわけではありませんが、面白そうだと思い、面接を経て入学を決めたんです。

大学2年生の終わりに、経済学、経営管理、金融の中から専攻を選択することになるのですが、私は金融経済学を学ぶことにしました。金融は「経済を前に進めるための重要な役割を担っている」と実感したことが決め手です。ある例えで、経済を「人」に、金融を「散歩中の犬」に喩えるものがあります。経済と金融は一緒に進むこともあれば、金融が先行したり、経済に引っ張られたりと、相互に影響し合う関係にあるのだと。この例えに、金融の面白みを感じました。

経済学も経営学も、さまざまな理論があり、サイエンスとアートの両面を持つ学問ですが、金融はよりサイエンス寄りの印象があります。一見ランダムに見える株価の動きにも、背景にある思考は整理されています。その仕組みを学べば、現実世界をより深く理解できるのではないかと考えたのです。

一方で、経済学は壮大すぎて、個人の力では到底及ばない。経営管理は定性的な要素が強く、運の要素も大きい。その点、金融は数字を使って未来を予測するアプローチが確立されている。現実により近づくためにモデリングを行うことが金融の本質であり、その理論は他の分野でも活用できると感じています。

そうした考えから、金融を専攻し、知識をさらに深めるためにオックスフォード大学の大学院へと進学。修士号を取得した2013年当時は、リーマンショック後の金融危機の最中にあり、欧米の金融市場は厳しい状況でした。

就職先を探す中で、友人から日本の楽天がグローバル採用していると聞き、応募しました。もともと日本のアニメが好きで、『機動戦士ガンダムSEED』なんかをよく観ていました(笑)。高校時代に交換留学で日本を訪れた経験もあり、興味を惹かれました。

楽天時代のLei

約1年半、楽天証券でオンラインブローカーとして働きました。ただ、楽天証券には投資銀行の機能がなく、自分のやりたい仕事とは少し違うと感じるように。そこで、改めて投資銀行での仕事を求め、SMBC日興証券を経て、外資系のクレディ・スイス証券に転じました。

「どうせやるなら、人を幸せにする仕事」「ペットは幸せを運ぶ存在」

クレディ・スイス証券で働く中で、当時の上司からA'ALDAを紹介されました。投資銀行の仕事は、喩えるなら登山ガイドです。クライアントが掲げる目標という山を、一緒に登りながらサポートするアドバイザーなんです。A'ALDAのパーパスを初めて聞いた時、ペットのパートナーとして共に理想の世界を作っていく、という素晴らしさに胸を打たれました。

私自身、愛猫を病気で亡くした経験があります。投資銀行で忙しい日々を送っていた私は、癒しを求めるために、2018年に「睦月」という子猫を迎えました。睦月は生活に明るさと喜びをくれたのですが、数ヶ月後、猫伝染性腹膜炎(FIP)と診断され、早くも虹の橋を渡ることになりました。睦月を亡くした経験と共に、私は当時のペット医療に対しての限界も痛感しました。だからこそ、ペットのためによりよい世界を作ろうとするA'ALDAの理念に、より惹かれたのかもしれません。

縁あって、CEOの奥田とランチをご一緒した際、A'ALDAのビジョンや事業について説明を受けました。さらに、動物病院の見学もしたのですが、そこで出会ったのが、あるゴールデンレトリーバーに心を奪われました。ガラス越しに私を見つめ、尻尾を振る姿に、言葉にできない幸せを感じて......ペットという存在の素晴らしさを、改めて実感した瞬間でしたね。

すごく大きな話になってしまいますが、「どうせなら人生、楽しいことをやりたいな」とも思ったんです。人をハッピーにさせることを仕事にしたいな、と。その中で「ペット」という領域は、とても相性が良いと感じました。

そこから約3ヶ月間はアドバイザーとしてチームに関わりながら、会社の雰囲気や仕事ぶりを肌で感じました。そして、正式に入社を決めて、2023年4月にA'ALDAの一員となりました。

入社してみると、A'ALDAには動物を心から愛する人間が本当に多いことに驚かされました。その動物愛を原動力に、プロとして仕事に取り組む姿勢にも感銘を受けましたね。

もちろん事業の成長可能性も転身の決め手です。自社の動物病院を起点に、アプリなどを通じてオーナーにリーチし、将来的にはB2Bにも展開していく。日本のペット市場は、人口減少に伴い縮小していくことは避けられません。ただ、その中でもシェアを拡大することで、会社の成長は十分に見込める。市場が縮小傾向だからこそ、シェアを取ることの重要性は高まります。

また、A'ALDAはインドを含む海外展開もすでに進めています。正確には、海外起点で事業がスタートしているわけですし。グローバル市場にも目を向けることで、当然さらなる成長の可能性が広がるでしょう。

わずか数ヶ月で虹の橋を渡ってしまった、愛猫・睦月

BornGlobal、プロフェッショナルの存在、そしてCEOの凄まじきペット愛

A'ALDAのビジネスモデル自体は、とりわけ斬新というわけではありません。動物病院運営のオペレーションを改善し、グループ内でシナジーを生み出す。共感いただいた獣医師に参画いただく。一見、当たり前のように思えて、地味に思えるかもしれません。しかし、それを着実に実行していくことは容易ではありません。

A'ALDAがこれまで積み重ねてきた実績には大きな価値があるのです。動物愛に溢れながらも、ビジネスのプロフェッショナルとして冷静に舵を取っていく。日本企業には珍しいグローバルな視点も持ち合わせている。多様なバックグラウンドを持つメンバーたちが集結したA'ALDAだからこそ、大きな変革を起こせるはず。そう思ったんです。

あと、改めてCEOの奥田の話も。一緒に仕事をするようになって、まず驚かされたのは、その熱量の高さ。私より2つ年下だというのに、とても同年代とは思えないほどで、何より勉強熱心なんです。ペットに関することはもちろん、それ以外の分野でも、あらゆる知識を吸収しようとする姿勢がある。私自身も好奇心が旺盛な方だと自負していますが、奥田の探究心にもいつも驚きます。

加えて、決断力も印象的でした。誰もが迷うような場面でも、サッと結論を出せるんです。私は投資銀行時代に、アドバイザーとしてクライアントに意見する立場が長かったので、この点は特に学ぶところが大きいと感じています。クライアントが望む方向が、必ずしも最善とは限りません。でも、アドバイザーはあくまでクライアントの意向に沿うのが仕事。一方、経営者は自ら意思決定をしなければなりません。彼と話していると、その難しさと面白さを実感させられますね。

そして忘れてはならないのが、奥田さんの「ペット愛」の強さ。自他共に認めるほどのペット好きで、ビデオ会議をしている最中にも、よく画面にワンちゃんや猫ちゃんが登場しますね。飼っているペットの数もたくさんで、関連する知識も物凄い。私もいろいろと聞くのですが、本当に何でも知っているんです。

あらゆるインフラを整え、高い生産性を発揮できる組織へ

CSO就任後、私が特に注力しているのが「数値の見える化」です。A'ALDAグループには2024年6月時点で40以上の施設がありますが、それらを可視化してKPIを設定し、PDCAサイクルを回していくことは容易ではありません。でも、組織としての理想の姿を実現するためには欠かせないインフラだと考えています。

目指すのは、少人数でも高い生産性を発揮できる組織。M&Aや動物病院の運営、B2B事業など、あらゆる領域において、これを追求していきます。もちろん、CSOとしての私のゴールは、A'ALDAの企業価値を高め、グローバル市場から高い評価を得ること。企業価値には主観的な要素も多分にありますが、客観的な数値としての成果を示していきたいですね。

具体的には、今後1〜2年をかけて、経営基盤を磐石なものにしていきたい。3年後、5年後を見据えれば、日本市場におけるA'ALDAのポジショニングは不動のものになっていたいです。今のA'ALDAにはインドでの事業基盤があり、そこを足掛かりにグローバル展開を加速させられる。インドが黒字化を達成すれば、一気に世界が広がるのではないかと期待を寄せています。

実際、香港やシンガポールなど、アジア各国からはペットヘルスケア事業への高い関心が寄せられています。B2Cのサービスを核に、各国の市場特性に合わせた事業を展開できるはずです。

A'ALDAのカルチャーがわかるスライドはこちら
全方位で、新たな仲間との出会いを心待ちにしています!

(文・構成/長谷川賢人)


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