
ひとり酒の年ごろ
はじめてのひとり酒は、ほろよいだった。
私がひとり酒を始めたのは24歳のとき。
別になにか悲しい出来事があって現実逃避したくなったとか、ストレスでとか、そういうことは一切ない。
むしろ気分は良かったのかもしれない。スーパーのお酒コーナーを通りかかったときに、なんとなく、家でひとりで飲むのってどんな感じなんだろうって試したくなったのだと思う。
それまではずっと、それに手を出したら女として何かが終わるような気がしていた。女として世に売り出すピークだと思っていた20代前半にひとり酒を始めたら、一生嫁に行けないんじゃないかと。私の行く末は大久保佳代子や鬼奴やいとうあさこかと。まあ皆さん好きですけども。
ペットを飼い始めたら嫁に行けなくなる、みたいなかんじのジンクスがあるんじゃないかと決めつけていた。
決戦は金曜日。
風呂から上がり、髪の毛を乾かし、机にパソコンと『ほろよい』を置いた。アマゾンプライムで『マジックマイク』(チャニング・テイタム主演の男性ストリッパーの成長を描いた作品)を検索し、再生ボタンを押した。
準備は整った。
プシュ~とさわやかな音を立てて缶が開いた。
記念すべき人生1杯目のひとり酒、ゆっくり味わいながらチビチビいったほうが雰囲気が出そうなんだけども、せっかちな性格のせいかそれが出来ないので、怒涛の速さで飲み干してしまった。
2杯目、酔い足りなかったときのためにと念のため買っておいた『ストロングゼロ』を何の躊躇もなく開けた。
ゆっくりと頭がぼんやりしてきて、チャニング・テイタムの美しい筋肉を眺めながら、「はへへへ・・・」とにやにや笑った。
なんてことはなかった。
なにも罪悪感はないし、誰にも何にも気を使わなくて良くて、びっくりするぐらいリラックス出来た。明日は休みだし、寝坊が出来る。飲み会では味わえないちょっとした幸せ。
ーーー次の週、会社で隣の席に座る仲の良い42歳のおじさんにそのことを報告した。
「ついにひとりで飲み始めちゃったんですよ・・・!」
するとそのおじさんは
「いいと思うよ。ちょうどそのくらいの年齢でひとり酒始める人多いからねぇ。」
と言った。
本当?ひとり酒を始める年ごろ?
24歳にして同世代がやらないオトナな趣味を見つけられたと思ったのに、意外と世間の一般的な波に乗っちゃってるのか、自分?
安心したような、複雑な気分。