ルーシー
日本を今一度せんたくいたし申候
坂本竜馬の言葉である。グローバルスタンダードを求める時代において、日本人特有の素晴らしき数多の美徳あれど、世界に指摘されて見直すべき閉塞的な島国の民の習性はいまだに存在する気がする。事なかれと見ぬふりは代表的な例であろう。
学生時代、通っていた学校にひとりだけ、外国人女性の英語教師がつとめていた。机に手をぶつけて「アウチッ!」が彼女の鉄板ギャグであった。箸転がり笑う青春時代の淡い思い出である。
ある日、男の教師が茶髪の友人に、ズボンのポケットに手を入れて歩いていた現行犯を理由に、廊下で長めの説教を始めた。生徒を叱りつけるのが趣味のようなヤツで、罪に対する罰の寸法おかしいやろ!と思いながら、その時も絶対にとばっちりを受けない距離を確保しつつ家政婦のように友人を見守っていた。
巻き添えをくらわぬ位置で見ていると、廊下を歩く人々は、まるでその光景が見えていないかのように通り過ぎていった。立ち止まり「もう、そのくらいでいいでしょう」誰もそんな優しい言葉を口にする事もなく、孤独であろう友人の胸の内に私は同情した。
流れ弾の被弾を避けるべく、男教師の視界から巧みに外れながら、その光景を見守っていると、ひとりの例外がそこに現れた。その金髪女性は男教師に「ハーイ!」と声をかけた後、そのままポケットに手を突っ込んだまま立ち去っていった。
男教師はわずかな沈黙の後、会釈だけして、引き続き説教を再開した。押された烙印の文字は『反面教師』
その目を世界に向けぬなら
日本の夜明けは遠いぜよ
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