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人間中心設計の「人間」って誰のこと?
こんにちは。
シンプレクスのデザイン組織AlceoでUXデザイナーをしている亀山です。
「人間中心設計の「人間」とは誰のことか」
実は、このテーマについて過去に何度か考察を試みたことがあるのですが、これまでは一度も腹落ちしたことがありませんでした。今回はこのテーマに改めてチャレンジしてみたいと思います。シンプレクスに入社し、Alceoに来て3年たった今の、自分なりの解釈を書きます。
1. 人間中心設計との出会い
新卒で入社した会社は国内総合印刷会社で、私は2年ほど食品パッケージの法人営業を経験したあと、「ヒューマンリサーチチーム」という商品企画本部のチームに異動しました。人間工学に基づいた使いやすいパッケージやデザインを考えるチームです。そのときから私は、人間中心設計の考えに触れながら仕事をしていました。
その後、デジタル業界に転職し、UXリサーチャーとしてデザイン制作会社や事業会社を渡り歩きながらも、ずっと人間中心設計の原則を大事にしてきました。10年前までこの人間中心設計の『人間』とはイコール『ユーザ』だと思って疑わずにいました。技術中心主義に対抗して人間中心設計がうたわれはじめたころ、まだその意味合いが十分浸透していない時期に、誤解が生まれるのであれば、いっそのこと『ユーザ中心設計』でよいのではないかと提唱している黒須教授の記事もありました。
でもここAlceoに来て思うのは、やはりこの『人間』は、『ユーザ』ではなく、『人間』でよいのではないかということです。あえて言葉の定義を広く置かれている意味について、自分なりの解釈を勝手に書いてみます。
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2. 人間中心設計の人間とは誰の事?
何かプロダクトをつくるときの登場人物を書いてみます。
このときの人間中心設計の『人間』とは、どの人だろうと考えてみます…。
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10年前の私なら、疑わずに『ユーザ』と答えると思います。しかし、今の私の結論は、『ユーザ』『エンジニア』『事業部』『情シス』『経営層』です。
なぜ、開発者・事業部・経営層まで含めるのか。そんなところまで含めたら技術中心主義への回帰では?と言われそうですが、そういうことではなく、広域の思考の交換が必要で、ハイレベルなコミュニケーションを意図的に作り出さないと人間中心設計を推進できないということを言いたいと思います。
では、それぞれの目線に立ったときのプロダクトの見え方を書いてみます。
3. よくあるパターン
🤴経営層
「今期は商品カテゴリーAに対して競合がシェアを拡大させてきた。当社のシェアを確保するために、カテゴリーAを取引システムで押し出したい。」
🙍♀️事業部担当者
「上層部からの要望をすべて取り入れると、ホームの思想とのバランスが難しい。いろいろな部署からの要望も受け止めなければならず、詰め込みすぎて、ごちゃごちゃに。ホームは今後どうしていくべきから整理したくて。そこも考えていきたい。」
🙎♂️営業部
「この商品カテゴリーAの特徴を顧客に理解してもらうのが難しい…とても丁寧に説明しないと、あとで誤解につながり、クレームにとなる可能性がある。慎重に訴求エリアを作ってほしい。」
🙎カスタマー本部
「問い合わせが発生しにくい作りにしてほしい。」
🧙♂️情シス
「現行のデータベースを活かしたい。他案件も進行中のため、今回の改修は運営しやすいものにしてほしい。」
👨💻ユーザ
「取引に集中したい!新しい商品の紹介は最小限に抑えてほしい。」
プロジェクト組成のときって、いろいろな部署MIXで始まる場合も多く、もうこの時点で、今後どういう交通整理をすればよいか頭を悩ませてしまいます。
4. 絶妙な解決ラインをひたすら考え抜く
すべての人の意見を取り入れると、八方美人なデザインとなり、プロダクトとしての輪郭がぼやけます。あくまで満足させなければいけないのはユーザです。企業とユーザのちょうど交わる絶妙な解決のラインを、それはもう試行錯誤していきます。
ユーザへの深い洞察(商品の紹介は適切な文脈かどうか。どんな文脈なら刺さるのか)
クライアントも凌駕する勢いで業務理解をする
事業部内でのゴールの統一に奔走(どうしても設計上、破綻する意見はすり合わせを試みる)
クライアント側のマインドセットを改善(誰かが進めてくれるのではなく、主体的に意見を言い合う関係を構築する)
後出しを防ぐ、意見の発散(どのタイミングでどんなワークを入れるかの戦略を立てる)
アイデアの構造化、パターン出し(クライアントが判断しやすい仕組みづくり)
経営層の説得(予算投資のための合意プロセスの戦略を立てる)
クライアントの機微をキャッチ(何か不穏な空気となってもセッションで巻き返す調整力を持つ)
実装上の懸念を先回りしてデザインに反映(理想は描くも実現ラインを見極め説得する)
などなど、常に先回りした動きが必要となります。
キックオフから要件定義が決まるまでのこの期間は、クライアントも不安になる期間です。ここに他ベンダーがなど別のプレイヤーが加わると、さらに調整の難易度が上がります。クライアントからもいろいろご指摘をいただいたり、発散を繰り返すので、進め方の批判につながることもあると思います。
でも大丈夫、必要なプロセスなのです。
必ず収束できると、根拠なき自信をもって進めます!
発散、収束、混乱、批判、反省、修正を繰り返すと、あるポイントで「すっ」とまとまる瞬間がきます。UXデザイナーならわかりますでしょうか。この感覚。「きたー!」と感じます。
ここに至るまでのデザインプロセスは、まったく同じセオリーなことはなく、案件やクライアントが違うたびに最適なアプローチは違うので、毎回セッション前はどきどきします。
UXデザイナーとは、「デザイナー」とつくので、綺麗に画面を整える人くらいに捉えられがちなのですが、とんでもない量のコミュニケーションをする人と言い換えてもいい!途中くじけそうになるときは、そう自分に言って、モチベーションを上げていきます。
5. 要件定義の後こそ本番
要件定義が終わって実装に進もうとするとき、ここも結構落とし穴です。
Alceoでは、デザインと実装の連携については、デザインシステム向上委員会が向き合ってくれています。
Alceoが「ものづくりをする会社のデザイン」組織で、実際にハイレベルなプロダクトを作り切れるのはここにかかっているのかもしれません。現状もめちゃくちゃハイレベルなエンジニア集団だからこそ助けられている部分も大いにありますが、もっとよりよい実装につなげられるようなコミュニケーションや工夫もUXデザイナーとしての責務だなと思います。例えば、
UIデザイナーさんへデザインシステムの意図や重要性を伝える。開発・実装においてFigmaのどの部分を見て作り、それがどう効率に結びついているかをインプットするだけでも、作りやすいFigmaを整える意識を持ってもらえます。
Figmaで、共通コンポーネント化や定義以外のデザイン箇所がないかなどの管理・チェックを徹底する。
実装フェーズの伴走はもっと開発側のそばに行って積極的にサポートする(席を実装メンバーの隣に移動するくらいやる)
などなど…。
6. 人間=ユーザだけを見た結果の敗北
サービスの規模が大きければ大きいほど、関わる人の思いのベクトルが多様です。「ユーザに価値ある体験を!」と正義だけを振りかざしていた熱量高い10年前の私は、この全く違うベクトルの思いを受け取る立場にも立てておらず、鼻息が荒かったのだろうと思います。
特に私のコアスキルであるUXリサーチはとことんユーザに向き合うので、デザインを俯瞰してみたとき、それだけの役割では苦しい立場だったのだと思います。だからこそ、UXリサーチャーという肩書を捨てたくてAlceoに来ました。
他社のデザインファームさんでよく聞くのは、職種の縦割りです。
UXリサーチは○○さん、UIデザインは○○さん、コンセプト立案や進行管理はPM職で、など役割分担が担当フェーズごとにはっきりしているところも多いようです。
そうすると、前項までのようなコミュニケーションスタイルは取りにくく、作りきることが難しい状況が発生しやすいのではないかと思います。
どこかでプロジェクトが頓挫する(まとめきれなくてゴールを見失う)、絵に描いた餅で終わる(「そうそうやりたいよねー」からなかなか進まない)、思ってたのと違う(途中で企業思惑が強くなりすぎてコンセプトがぶれる)などといった現象が起きる原因の一つに、こうしたコミュニケーションの課題があるのではないでしょうか。
Alceoは職種の縦割りがなく、超広域な役割を任せてもらえていると思っています。
スピード感をもってプロダクトリリースやグロースを続けられていることは、改めて幸せだなと思います。そして作りきるためには、システムに関わるすべての「人間」の視点の絶妙なバランスが求められるのだなあと肌身に感じ、日々精進しています。UXデザインはまだまだ発展途上で、改善課題はたくさんありますが、毎回違う気づきがあってとても面白い仕事です。
Alceoに来て3年が経過したなと振り返っていたとき、悪戦苦闘しながらも自分らしくUXデザインの仕事に携わることができているのはなぜだろうと考えを巡らせていたら、人間中心設計のことに至り、自分の解釈として書いてみました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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Alceoという組織はまだ立ち上がって3年くらいの組織で、デザイナー25人、フロントエンジニア15人といった規模感です。
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