
【感想】自己の内界と向き合う/『serial experiments lain』②
【前回の記事】
あたしの知らないあたし
Layer:08 Rumors において玲音は、自己の記憶に不整合性が見つかったことで、自身の出生や家族に対する不信感に襲われます。さらに、"玲音の知らない玲音"が何か悪いことをしているという"噂"を、友人である瑞城ありすとの会話の中で知ってしまいます。
『lain』には、玲音の異なる人格のようなものが出現しますが、これらには公式による呼称があります。現実世界の「玲音」とワイヤードの「レイン」、そして今話に登場する"噂"の「lain」です。
「玲音」と「レイン」は次元を跨ぐことで入れ替わるため、フィクション作品にありがちな二重人格のイメージにも近いでしょう。しかし「lain」に関しては、単純な別人格として捉えると無理が生じてしまいます。
「レイン」は自立的ではあるものの、概ね玲音の意志に則って行動します。そして、玲音があまり見せないような強い「感情」を表わすのが特徴です。
これに対して「lain」は、玲音の意志とはかけ離れた行為をしてしまいます。その性質は人間的な感情とは程遠く、冷え切った「情動」に近いといえるでしょう。

自己の内界と向き合う
「lain」が玲音の中のより深く類心的な部分から浮かび上がってきたイメージであると考えると、この時点で現実世界とワイヤードが底の部分で融合してしまっていることが分かります。
これにより、玲音の存在は一段と脅かされることになってしまいました。これ以上の危険に晒されないためにも、玲音は必要な対応に迫られます。
自己が内包する情動的なものは、私たちの意識水準では認識できない領域にあります。しかし、玲音はワイヤードを通じることによって、自らの意志でその内界へと踏み込むことができました。
「あたしの知らないあたし」への底知れぬ恐怖に怯えながらも、玲音は相対することを選びます。それは、炎の中を突き進むような、常人では考えられないような苦難の道でした。
「lain」がありすに何をしたのかを知ってしまった玲音は、まさに"心をやすりにかけられる様な思い"をしたでしょう。レインは「lain」と対峙しますが、人格の統合は成されませんでした。

人格の統合
自己と向き合うことによる個性化の過程は、本来であれば、人生の後半に自然とやってくるものであるとされています。
しかし、まだ14歳の玲音は特異な存在であるが故に、自己の内界から次々と侵入を受けてきました。そして、今話のラストに玲音は「あたしは、あたしだよね…」と悲痛のなか零します。
「lain」がしたことは玲音にとって普遍的に正しくないため、何らかの形での統合が目指されるべきでしょう。実際、似たようなテーマを扱った作品の多くは、最終的には人格の統合が成されます。
しかし、これまた一筋縄ではいかないのが『lain』という物語です。

【参考文献など】
参考文献
使用させていただいた画像
『lain』20周年記念サイト「welcome back to wired」より