薬剤師に憧れていたこともあった。
給料が高いからという理由だけで、薬剤師に憧れていたことがあった。だが、成績が良くないということもあり、それよりもパソコンに、もっと言えば明朝体にハマったために、Webデザイナーになる道を選んだ。結果としてSEになったものの、Webデザインの仕事もあるので、まあ良しとする。
僕の家の近くには内科クリニックがあり、インフルエンザの予防接種はいつもそこで打っている。また、風邪をひいたときにもお世話になっているが、出される薬の数が多い……いや多すぎる。風邪ひいてるんだぞこっちは、とツッコミたくなるくらい、多い。まあ、何も言わず、隣にある薬局に行くんだけど。
内科クリニックの隣にある薬局には、凄い薬剤師さんがいる。何がどう凄いって、患者一人一人の名前と顔をしっかりと覚えていることだ。僕がその薬局に初めて行ったのが中学三年生の頃で、それから十年近く経っているが、その薬剤師さんは僕を未だに「悪嵐ちゃん」と呼ぶ。僕がコンビニでバイトしていたときもそう呼んだ。休みの日なのに僕を呼べるのか、すげぇ、仕事しながらそう思った。
バイトから帰って母に報告する。今日あの薬剤師さんがコンビニに来た、と。僕のことを「悪嵐ちゃん」とまだ呼んでくれてる、と。母はびっくりした顔をし「あの薬剤師さん、凄いね」と言った。続けて「そういえば」と話を切り出す。
「あんたが大阪に行ってから少し経ったくらいに、近くの大型スーパーで偶然会ってね、そのときにあんたが大阪に行ったことを言ったんだよね」
「あ、だからいつ宮城に帰ってきたのって聞かれたのか」
「多分そう。でも私、そのときあの薬剤師さんだと気づかなかったから、しばらく思考停止したんだよね」
(お母さん、僕と違って、人の顔と名前覚えるのめっっっちゃ苦手だからだな……)
その日から、その薬剤師さんを見かける度にこう思うようになった。「薬剤師ってめっちゃ人間観察してる職業じゃね?」と。名前に関しては渡された処方箋に書いてあるが、それ以外の情報に関しては、人間観察しない限り把握することはできない気がする。もし成績が良くて、人見知りが激しくなくて、メンタルが強かったら、本当に薬剤師になって、人間観察しまくってたかもな、なんて思うのだった。