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【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第3話

 既にファーストフード店に入って2時間は経過していたが、成美と澤口達の会話はまだまだ終わりそうな雰囲気ではなく、むしろやっとエンジンが掛かってきた様子を呈し始めていた。

 「結局アノ人は、私と他人だから何も理解できないのよ」

 澤口はいつもの決め台詞を呟き、窓の外の遠くを眺めるような仕草をした。

 そのポーズを取られると、その場に残っている二人は暗黙の了解で重々しく頷くのが習慣になっており、さながら時代劇並のワンパターンでの締めくくりにも似ていた。

 澤口の両親は再婚しており、離婚して出ていった父親の代わりに新しい父親が家にやってきていたのだった。

 だから多感な時期の女の子にとって、年上の異性が家庭に入ってくる事はそれだけでも違和感があるのであるが、そういった類型パターンとは全然違い澤口の新しいお父さんは物分りのよい人格者だったので、働いている塾でも生徒から絶大な人気を得ている人だった。

 親の再婚というイベントは、子供にとって呑み込み辛く殻に閉じ込める要因にしばしば成り得るのであるが、まるで最初から一緒に暮らしていたかの振る舞いをされて澤口は人見知りするヒマもなかったようで、拍子抜けをすると共に解せない感情を抱えていた。

 何故ならやっと他人から一目置かれるような不幸なシチュエーションであるはずだったのに、それとは真反対の家庭円満を絵に描いたような家族になってしまった為、自分が目指しているキャラになれなかったのだ。

 成美は彼女が近所なので、しばしば新しい父親と歩いている仲の良い光景を見掛けた事があるが、澤口はそれを絶対に認めずに不幸で有る事をみんなの前で主張するのだ。

 このファーストフード店での会話の勝敗は、どれだけ自分が不幸で孤独かをアピールした者が勝ちになるので、澤口は両親の再婚をまことしやかに脚色してみんなの前で話す事にしている。

 成美はそれを聞いて、平凡な家庭の自分をちょっと悔しく思っていた。

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