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【小説】ケータイを変換で軽体(鬱) 第7話

 Re:k@へのメールを打ち返して帰路を急いでいると、目前の文房具店から眼鏡を掛けて化粧っ毛の無い女子高生が出てきたのに気が付いた。

 両手に画材を抱え込んでいるその子は、成美の立ち位地からは逆光で見えにくかったが、中学時代の同級生の川口美智子である事がすぐ分かり、虚を付かれたようにすぐに反応が出来なかった。

 美智子も成美の存在に気が付いたのか一瞬笑顔を向けたが、すぐによそよそしい態度になり足早に去って行った。

 成美の嫌そうな表情が、きっとあからさまに美智子にも分かってしまったのだろう。

 美智子とは中学を卒業してから3回くらい会ったが、最後に会った時はあまりにも子供染みた会話に嫌気が刺した為に、退屈を装ってアニメを散々馬鹿にした。

 今となっては少々反省しているが、その時は大人になった自分の感性に誇りを持っていた為、美智子に対しての根拠の無い優越感に浸って満足していた。

 でもバッタリ会って話し掛けてこられても困ったので、これでいいのだと成美は思い込む事にした。

 自分のこれから住む世界は馴れ合いと無縁で、孤独な魂を抱えたもの同士が惹かれあって運命の出会いに導かれるのだ。

 だから今は誰からも理解されなくていい。

 誰かに似ていたり誰かと共感し合えたりしていたら、きっと運命の出会いなんてやってこないに違いないのだ。

 ヒロインは天蓋孤独で複雑な環境を背負っていなければ、今の御時世では石ころ以下にも価値がない。

 そういった自分の理想像に浸り始めた頃に成美は家に着き、玄関を開けるとプライバシーの欠片の無いような家族の声が聞こえてきてげんなりした。

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