見出し画像

【REPORT】2021年独身の日「ロレアル価格差事件」に見る“ブランドのTOPライバーへの向き合い方”の変化

こんにちは!中国マーケティングカンパニーのaland/エーランドです。

2021年の「独身の日セール(W11)」が終了しました。報道ではこれまでの“拡大一辺倒”からの変化が大きく取り上げられていますね。一方で、今回のW11からは中国マーケティングの大きな変化の萌芽が見て取れます。

騒ぎが続くロレアル価格差事件

特に、独身の日セールの期間中にネットを賑わせたのが「ロレアルの価格差事件」です。事件の内容についてはUnbot様が作成された下記の記事が詳しいのでぜひご覧いただければと思います。

事実を簡単にまとめると…

 独身の日セール期間に、TOPライバーの李佳琦(Austin/オースティン)がロレアルのフェイスマスクを『今年最安値!』と販売。ところが、数日後にロレアル店舗が半額(429元/約7,670円⇒257元/約4,590円)で販売

李佳琦のみならずTOPライバーで双璧をなす薇婭(viya)が共同で24時間以内にロレアル側が対応策を出さないと、ロレアルの商品はもう紹介しないと発言。そこで、ロレアルは『差額補填クーポン』を発行。しかし、再度購入を促すものとネットでは不満が爆発。政府に対する消費者クレームは2.5万件に。人民日報やCCTVなどメディアからも批判止まらず。

今後、罰金は避けられない見通しであるが、CCTV系のメディアによると20万元以上100万元以下の模様。

画像5

今回の「TOPライバーと中国マーケTOP企業」の間で行った事件は、“ライバーとブランドとの関係性の変化を示す非常にメモリアル出来事”と考えられないでしょうか。

TOPのライバー&ブランドの関係性の変化

TOPライバーである李佳琦(Austin/オースティン)、薇婭(viya)は今年も大きな売上をあげ、引き続き影響力は強い状況にあります。

例えば、今年新たに「独身の日に向けて、ライバー自身が販売する商品セットをブランド側と交渉する様子を記録した番組」を事前に放映。番組でライバーは「自分を見てくれる消費者のために!」という姿勢で終始ブランドと交渉、最安値や多数のおまけを獲得するなど、番組を見た消費者から「やっぱり彼から買うのが一番お得で信じられる!」とライバーへの期待値は高まっていました。

画像2

画像5

しかし、おまけなどに留まらず、番組では描ききれないほど、TOPライバーの要求はブランド側にとって非常に厳しいものです。“独身の日に販売する商品セット”は、なおさら様々な要求が追加されます。

こういった複雑で過剰な要求は、独身の日のみならず、販売チャネルを多数持つトップブランドを中心に大きな負担でもあったことは事実です。だからこそ、「TOPライバー一辺倒から脱却し、自社ライバー(KOS)を育成する」などは、2020年~2021年にかけての一つの潮流となってきていました。

TOPブランドのドライな対応、価格決定権は誰が握るのか

そうした中で、今回の事件は(ロレアル社内での情報共有不足といわれているが、真相は不明)事故的な形で発生します。

もちろん、TOPライバーがブランドに対して謝罪を要求したことは、自分を支持してくれる消費者やメンツに対して正当なアクションです。

一方で、ブランドは謝罪をしていますが、提示したのは「クーポン補填」です。この謝罪・責任のとり方は、正直いってトップライバーからの要求に対する対応としてはとてもドライにうつります。中国マーケトップ企業であるロレアル社内でこのような意思決定に至るまで、様々な議論がなされたはずなのに...と憶測が広がらざるを得ません。

画像5

ここ数年のトップライバーを通じた販売では、「大きなトラフィックを持つトップライバーは最安値/最お得で売りたい」しかし、「ブランドはそれだともはや儲からないから自社で一番お得に売りたい」という、価格主導権をめぐるジレンマが発生しています。

消費者から見ると、「独身の日」はずっと欲しかった/必要なモノを一年分まとめて決済するタイミングでしかなく、値下げやお得感のある買い物が当たり前です。

一方で、ブランド側からすると、価格主導権を常に握り、値下げせずに安定的にかつ過度な競争に陥らずに販売することが理想です。

特に昨今外資系美容メーカーにとって価格自体が非常に敏感な問題となっており、その背景にあるのは中国国産ブランドの品質向上と投資マネーを背景とした急激な成長です。低価格帯~中価格帯の国産ブランドの勢いはすさまじく、外資ブランドにとっては高価格帯(高利益)のプレステージラインで市場シェアを維持することは中国市場での最重要命題となっています。だからこそ、“最安値・最お得の象徴だった「独身の日」”は、プレステージブランドを中心に、今後急激な変化が生じる可能性があります。

画像5

ECサイト上で強調される中国ブランド

今回、ロレアルグループはこうした事件を起こしながらそれでも「化粧品売上トップ」を維持しており、グループ売上は100億元(1,800億円)に達し、クライシスがあっても影響は一次的なものに留まるものと想像します。

画像6

そうしたロレアルにとって、トップライバーが“今後も必要かつ重要”と考えているかは疑問と言わざるを得ません。トップブランドにとって、「独身の日」に「トップライバー」を起用し“価格競争で消費者をつかまえるマーケティング・プロモーション”の時代は、売上及びプロモーション効果から見て終焉を迎えることになるかもしれません。

中国マーケティングの「見えない変化」を捉える

化粧品業界のTOPに立つロレアルのこうした動きは、中国でビジネスを展開する外資のプレステージブランドを代表するものであり、すでに中国市場で知名度を有するブランドはより自社で消費者を囲い込む方向に進んでいくものと思います。

もちろん、TOPライバーとのタイアップを完全に終了するのかというと恐らくそうではなく、適度な距離感を保つ形にまずは落ち着きそうです。また、この出来事を通じて既存ファンからより一層の信頼を集めたトップライバーは、「中国の消費者のため」という視点で合致する中国ブランドとの距離がさらに縮まっていったり、オピニオンリーダーに近いインフルエンサーとしての活動が、現在の販売チャネルというポジション以上に増えていく可能性も高そうです。

これに留まらず、政治も含めた社会環境の変化が特に激しい昨今、中価格帯からプレステージブランドまで幅広いラインナップを有する私たち日本企業も、今回の出来事のような「見えない変化」を捉えて、中国市場戦略を常にチューニングしていく必要があるとあらためて感じました。

---------------

私たちエーランドは、中国へのタレントを活用したマーケティング活動をはじめ、日本のブランド・メーカー様の中国向けマーケティングや販売をサポートしています。ご興味のあるブランド・メーカー様はぜひ下記HPよりお問い合わせください。

中国版TwitterのSNS「Weibo」のその日のトレンド。特にエンターテイメントやマーケティング関連の話題をご紹介するPodcast「中国リアルタイムトレンド」を発信しています。こちらもぜひお聞きください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?