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小説を一人称で語るか三人称で語るか

一人称の小説を書いたことがありませんでした。
二十代の前半くらいに小説公募を頑張っていた時期があるのですが、三人称でしか書けませんでした。
理由は心理的なものです。

(いや、技術的なものもあるかも)

「怖い!」

どうして怖いのかって言うと、「僕」とか「私」とか書いているうちに小説の内容と「作者である私」の現実が溶け合って影響を受けるんじゃないかと思ったから。

頭大丈夫か? って思われるかもしれません。
多分当時は大丈夫ではなかったのだと思います。


言葉の威力に翻弄される

子供の頃から「言葉」が映像で脳に焼き付いて離れなくなる強迫観念のようなものがありました。例えば、

身を削る
顔から火が出る
はらわたがちぎれる


こういった慣用句があるじゃないですか。
全部映像変換しちゃって、ずっと引きずってしまうんです。
多分誰でもあると思うんですよね。
でも私の場合、これが身近な人で変換されるものだから、だいぶ後味が悪くて、忘れるにも忘れられず、大事な人たちにそんな映像をあてがった罪悪感も半端なくてずっと怯えていました。

これが二十代の時に色々あって、さらに強烈な強迫観念となったのですが、私は「自分に殺される」んだと思いましたね。あのときは本当に。

でも同時に、こういう強烈な敵をいなすためには「表現」「創作」で外に吐き出す以外にないと思っていたので、「怖い怖い怖い怖い」言いながらもミステリーとか推理が書ける作家になりたくて、有名な作家先生の小説もたくさん読んだし、自分でもたくさん書きました。

私の敬愛する作家さんに皆川博子先生がいるのですが、先生の小説は毒が強すぎて簡単に致死量に達するんです。けど、あまりに甘美で耽美でその世界観に浸らずにはいられなくて、まるで中毒患者状態。
「怖い」と怯えながらそこから抜け出せないって、どんな魔力なんでしょうか。

三人称だけじゃなく一人称でも書けるようじゃないと作家にはなれないと思い、「僕」とか「私」って書き出すんですけど、途中から自分が作ったキャラクターに侵食されるような気持ち悪さがあって、

「無理でした。グスン」って挫折。


一人称は避けて通れない

途中結婚したり出産したり育児したりで創作活動から退き、創作大賞2024をきっかけに再び完全オリジナルの小説を書き始めるようになりました。

応募作はなんの躊躇もなく三人称。(選ばれませんでしたよ、もちろん)

けど、世の中の受賞作って、肌感でしかありませんが、一人称がやけに多くありませんか? (気のせいですかね?)

あれ、これ、一人称怖いなんて言ってられないんじゃないの? とここで初めて深刻に考え始めました。

実は今も時々「言葉」の映像が迫ってくるやつがあるのですが、だいぶだいぶコントロールできるようになってきました。
それは、こちらの拙著でも紹介しているある方法を根気強く続けたから。
(興味ある方はぜひ読んでみてください)
↓↓↓


もう二十代の頃のメンタル病に苦しんでいた自分じゃないし、大丈夫だ! それに、あの頃は頭カッチコッチでミステリーしか書いちゃダメだと思い込んでいたけど、今私が書いているのはどっちかっていうと純文学寄り。

人も死なんし、悪い奴もそれほど出てこないし、大丈夫だろう!

ってことで、早速一人称の小説を書き始めました。
そうしたら……。

「あれ、スムーズ。かつ楽しい!」


なんか、一人称書きやすかったです。
まあ、主人公が十代ってのもあるかもしれないけど、ちゃんと創作と自分の間に距離感を保てていたし、二十代の頃のあの気持ち悪さはいったいなんだったの? ってくらい客観的にストーリーを動かすことができました。


文学賞に応募完了

思い込みって嫌ですね。
一人称の書きやすさに味を占めて、もう三人称では書けないかも。いや、これも思い込みか。

本日、とある文学賞に一人称で書いた純文学小説を出してきました。初めての一人称小説。どうなるかな。ドキドキ、ドキドキ。

純文学を書くのも実は初めてです。
まだまだ初心者なんですが、エンターティメント小説となんとなく違うな、と思ったのは、エンターティメントは擬音は外側のものを表現するけど、純文学は内側を表現するものが多いんだなぁということ。


【エンターティメント】
 ザクザクと霜を踏みしめる音が俺の鼓膜を震わせる

【純文学】
 ザクザク、ザクザク。霜を踏みしめる音が足の裏から体全体に広がっていって、私はそのひんやりとした音にブルっと身震いした



みたいなね。今パッと思ったのを文にしただけなので、表現力に関してはあまり突っ込まないでください。

ストーリーを楽しむか、人物を楽しむかの違いなんでしょうかね。

奥が深いです、純文学。


小説家にさせてください


今なら三人称も一人称も書けるし、悪い人も書けるし可哀想な人も書けるし、破綻しているイカれた人も書けるし、殺人事件もなんとか書けそうだし、エンターティメントも純文学も書けるので、神様どうぞ小説書く人にさせてくださいまし。

頭のキャップがどこかに飛んでいったようで、物語が溢れ出して私の中だけじゃ収まりきらなくなっているので、書く人にさせてくれるなら今ですよー

あ、でもホラー小説はまだ読めないし書けません。ごめんなさい。



★極度の緊張から人前で話すことができなくなる不安障害の一種『場面緘黙症』。
当事者視点から人生がラクになる方法について書いています。(Unlimited対象です!)


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月縞翠夢
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