『Too hot to handle』俺たちがガマンしてるのにコイツらときたら!!
新型コロナにより都市封鎖された香港にあるテーマパーク「海洋公園」に事件が起きた。飼育されているジャイアントパンダ、インインとリーリーが、なんと10年ぶりの繁殖に成功したのだ。来園者にさらされるストレスから解放されたためか、レス状態が続いた二頭が交尾をしたという。そしてなんと時を同じくして、オランダの「アウエンハンツ動物園」でも、シンシャーとウーエンが繁殖行為を始めたらしい。(ジャイアントパンダはなかなかムラムラしないので繁殖行為は珍しいのだ)
微笑ましいパンダのニュースが入ってきた一方、我々人類は新型コロナに負けないよう、濃厚接触をガマンしている。この時期で会えないカップルには同情する。
そんななか、配信が開始されたNetflixオリジナルドキュメント『Too hot to handle』が話題になっているのは必然ではないか。生死を賭けた禁欲状態に直面する2020春の人類が目撃するは、
”以前の世界”の南国リゾートに集められた超セクシーな男女10人。セックスする気満々の遊び人たちだったが、しかし、一ヶ月の共同生活のなかでセックスやキスを始めとするすべての性的行為は禁止。肉体関係以上の「深い繋がり」を獲得するよう促された彼らが足掻く様子を映すドキュメンタリーショー
ガマン知らず、非モテ知らずの彼らが、「ラナ」(かれらを監視するAI)のルールを守る動機は、賞金の10万ドル。違反行為による減額を防ぐべく、懸命に己の欲望を抑え込もうとする姿をカメラは映していく。
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目に飛び込んでくるのは、一般的に美しくセクシーとされる魅力的な容姿の数々。胸、筋肉、青い目、尻、タトゥー、黒い肌、金髪、筋肉、水着、白い肌、筋肉、筋肉、筋肉、筋肉、水着、水着、水着、水着・・・・・
時間ばかりあって悶々としている人が増加している時期だからだろう。邦題が『ザ・ジレンマ:もうガマンできない』という素晴らしいセンスのこの番組をついつい見てしまう人が多いのもうなずける。なんと、現在ネットフリックスジャパンのランキングで総合1位!!
そしてみんなこう思っている。
「俺たちはこんなにガマンしているのにコイツらときたら!!」
初日のインタビューで、ある女性が気になる男性についてこう語る。
「He’s got the muscles. He’s got the abs. Jesus Crist, pretty blue eyes. And great sexy British, London accents and…It’s a whole sexual…just,.... ball of fun」
性的に魅力的な相手を目視で確認した際の情報が溢れて「彼は私を楽しませてくれる・・エロい・・・球体」と無理やり例えるのが素直で可笑しい。(彼らの表現やリアルな言葉遣いはこの作品の笑いどころの一つ)
(登場人物の一人:Franchesca)
奇跡的な需要過多によってみんなが見ているとはいえ、番組自体は結構雑なつくりで、ネタ切れ感も終始漂う。
そんな中で、セックス・賞金・「深い繋がり」の三つ巴がこのドキュメントを興味深いものにしている。
企画開始当初は、ただガマンしたくない人と、努力を前向きにとらえる人に別れる。そもそもヤる気満々だったのだから当然だ。「深い関係」なんて知ったことか。だけど、賞金は意識せざるをえない。
ところが、ガマンした状態で成立するカップルが現れ始めると、不特定多数に向いていた性欲が、特定の相手に向き始め、それをガマンするフェーズに入る。ここでようやく「深い繋がり」に興味が向き、いくつかのワークショップや、関係を証明する機械によって、信頼とガマンを常に天秤にかけるようになっていく。
ここで興味深く新鮮に感じたのは、ガマンできなかった二人に対するチームの眼差しだ。賞金のことを考えるのであれば、キスをした存在は裏切り者であり、同じ努力を課せられている自分が損をする事態に他ならない。
しかし、彼らは、性的行為に踏み出してしまったカップルが罪を告白した際、笑顔で迎え入れることが多い。それは、両者にとってのキスやセックスがただのルール違反の行為であると同時に、単なる性欲を吐き出す行為ではない、二人の関係性を確かめたり確かにしていく大切な行為として認識しているからだ。
よって、初めにあれだけ賞金を禁欲の理由にしていた彼らは次第に、賞金減額を最低限に抑えながらも、パートナーと最大に分かり合えることを重視し、賞金と性的行為を収支計算のように考えていく。
減額しても、分かり合うきっかけになったり、想いを証明する道具であれば、それはプラスな金の使い方なのだ。そして、いまは裏切られたチームの一員である自分がいつ、彼ら彼女らのような立場になるか分からない。性欲も、パートナーを求める気持ちはみんな等しくあることをみんな分かっている。
「You should never walk in someone else’s shoes. You should always have your own shoes.(他人の立場で語るべきじゃない。自分自身の立場で語るべきだ)」
リゾート地でキスやセックスをガマンする特殊な状況下で、彼らが普段から持ち合わせている許しあう心のようなものが顔をのぞかせるシーンにはグッとくる。少なくとも、日本人に根付いていない、実践するのが難しい発想にえた。
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こんな時期だ。みんな疲れているし、悶々としてるし、きっとムラムラしてる。リーモコちゃんだ。この作品は「ガマン」だけど、「辛抱」と言い換えられるのはこの国のいいところだと僕は思う。みんな辛いのを抱えて何かを目指してる。
賞金は出ないけど、何かいいことがあったら拍手や歓声を送りあえるテンションで自然に過ごせないものか、先週の星野源のラジオのように。
だって、いつ自分が、画面の向こうの立場になるかなんてわからないから。
あれ、これ、セックスの話?
(インイン、リンリン、シンシャー、ウーエン、おめでとう!!!)
(オケタニ)
【今週のテーマは#我慢 でした】
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