【#12 じめじめ】帰還のテーマ
もう二年前ですが、じめじめした季節がいつの間にか薄いジャンパーを着ないと寒いくらいになっていた夜のWWWXへceroとDC/PRGのツーマンを見に行きました。
先攻はDC/PRG。この挨拶が終わったら演奏終了までMCはないと冒頭のマイクを下ろした菊池成孔の指揮で演奏は始まり、喜びだけが、満員のフロアにいたワタシの意識をステージと自分だけの世界へ飛ばした。血が踊りだす感覚と、解放。気付くと演奏は終わっていて、長い転換時間のDJを任されていたOMSBが、これ以上CDJを触りたくないと叫んでマイクを握る瞬間だった。ライトを浴びた元フロアDJの黒帯ラップは血液を再び沸騰させて、身体そのものを興奮の器官に変身させた。一つの音も逃すことなく耳を傾け良質な音楽を嗜もうと目論んでいた客の三半規管も宙に浮き、地べたに引きずり降ろされ、振動を始めて猿になった。
・・らしい。二年前の日記はそこで終わっている。この日の結末はたしかこうだ。それから始まったceroの演奏はもちろん素晴らしかったけど、あの日のクライマックスをすでに迎えた感覚になった元ワタシは、そのまま潔くライブハウスからの帰還を決めて帰っちまった。そしてマジで帰っちゃったことを「別天」に行けなかった今、少し後悔している。
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働き方改革という、破ったらペナルティの存在する、イソップでいうところの北風がいくら吹き荒れようが東京の湿度は変わらないまま。ペナルティと気だるい罰が湿度に浮かぶ日本より、プレミアムフライデーというかつての太陽政策を今更ながら掘り起こしたい人工知能以下の金曜日の使者が、おばあちゃんから譲り受けた湯飲みで丁寧に入れたホットウーロンを飲みながら、ただいま素面でキーパンチしています。こんばんは。
そうそう、アララも再開しましたがワタシの就職活動もようやく終わって。ceroさえ途中で切り上げた奴が就職活動を半年間続けるギャグをかまし終わりました。ほとんど音楽も聞かない別人格が乗り移り、モンゴル嘘800の『小さなcoreの歌』を面接官の前で事務所を通さずエンドレスリピートして蒼井優と結婚したから20秒土下座をしたんでしたっけ?これは妄想?もう、そうとしか考えられない。
とにかく、就職することではなくて就職活動それ自体を目的とした別人格は、他一切の感傷や焦燥や憂いを受け付けないでいてくれたし、たった今、元ワタシが帰還してきた錯覚を楽しんでいるわけです。初めて3D眼鏡を装着した『アバター』からの帰りのような気分。もう二度とあの眼鏡はかけないし、就職活動も二度とごめんですけど。
帰還のテーマは、第六感コンピューター
就活最終日はどしゃぶりの最終面接、あいつの脳内はずっと同じフレーズの繰り返し。
第六感コンピューター
第六感コンピューター
部屋に入ったら笑っちゃったよコンピューター
だってそこには、かび臭い13人のおじさまがこちらを見つめていたんだコンピューター
これじゃレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」じゃねえか、いつの間に俺はサイゼに紛れこんじまったんだってパニックになったぜコンピューター
ブザーが鳴り、エレベーターが動き出す。急降下する感覚に合わせて自分の血の気も引いていって、気付いたら「MIRROR BALLS」ライブバージョン音源が終わって、フロアの拍手喝采が聴こえて、今のワタシが帰ってきた。大学受験の最終日は“雨は上がった”と歌い出す声を聴きながら、東京よりはるかに街燈が少ない街の濡れたアスファルトが眩しかった記憶も戻ってきた。
四季がある国に住む人間の色彩感覚に宿る魂なんて当てにならない。
赤と青も、交ぜて紫にしたらダメなんてデタラメで。
ハイと億劫は独立していない。
湿度が溶かしていく。
ハイオクは満タンって誰が決めたよ。
湿度も気温も北風と太陽に任せて、ミラーボールさえあれば大抵のことは何とかなる。
再会した時から、再生。音が流れる。
第六感コンピューター
だから今週は現実への帰還酔いなんで。正直梅雨も気にならない。
オケタニ