『ザ・ドリームマッチ2020』 若林の「その子ちゃん!?」が優勝
『ザ・ドリームマッチ2020』で放送された、くっきー!×若林のネタが未だ脳裏に焼き付いている。宇宙人対PK兄妹、攻防の一夜を描いたコントは、音響や美術、明かされない裏設定こそ充実しているものの、説明や筋、笑いどころを度外視したくっきー!ワールドそのものだった。
くっきー!(当時は川島邦裕)が『ドリームマッチ』でガラスを割るのは2011年以来二度目。前回の相方は矢作で、今回は若林だった。
ネタ終わりのコメントで松本人志は、「まきこまれたのは若林」とコメントしていたが、僕は少しむず痒かった。実際巻き込まれてはいるのだろうけど、「その子ちゃん!!」がこのコントの全てに思えたから。
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2008年のM1で披露した「ズレ漫才」で一大旋風を巻き起こしたオードリーは、そこに至るまでに時間がかかったコンビである。
『佐久間宣行のANN0』にゲスト出演した若林が「僕らの世代って、ネタを見ればいかに試行錯誤したかわかっちゃうシステム系の漫才が多いんですよ」と話していたように、ズレ漫才はオードリーが売れるためにたどり着いた境地だった。
その後、若林は「じゃない方芸人」「人見知りキャラ」といった負け顔をさらして先輩にいじられ、世間にもそう認定されるようになる。春日に邪魔される存在が目立つ漫才というきっかけは大きいはずだ。
時間をかけて「社会人大学人見知り学部」を卒業し、ナナメの季節に夕暮れを迎えた若林が活躍していることを視聴者は知っている。ただ、この人が焦燥感や衝動に溢れた人間であるということは広く知られてはいないし、本人も出さないようにしている部分のはずだ。
5年前、芸人としての夢を諦めようと思った(『ミレニアムズ』の失敗)直後、佐久間さんがプロデューサ-を務めたコントドラマ『SICKS』で、スモークがたかれるなか亀甲縛り姿の自分が堂々歩くというシーンが撮影できて本当に嬉しかった(結果はカットされてしまったが)と話していた。今でこそ、昨年南海キャンディーズ山里との「たりないふたり」で披露した漫才のように、衝動的なパフォーマンスをすることは知られているが、当時の人たちは恐らく、攻撃的なボケを衝動的に繰り出す若林の印象は持っていなかったはずだ。
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では、オードリーとしての変化はどうか。
『オードリーのオールナイトニッポン』が昨年10周年を迎え、それに伴う全国ツアーの最終日、武道館で披露された「いたこ」の漫才がこれだ。
昨年『オードリーのオールナイトニッポン』に千鳥ノブが出演した際、千鳥のネタ作りについて話が及んだ。大悟が持ってきたボケにその場でツッコみながらネタを作るというノブに対し、若林は「オードリーじゃ絶対できない」と返している。
しかし、「いたこ」の漫才について若林は、ある程度のルールを春日に伝えるにとどめて、春日の自由演技を多く取り込む作りになっているという。(山里不毛な議論2020年1月1日)
システム漫才だったオードリーが、あくまでズレ漫才のまま、二人がただ馬鹿話をする自然な姿をマイクのまえで見せるようになったのだ。
そしてそれは、『オールナイトニッポン』のオープニングで始まるミニコントが増えている点でも納得できる。
昨年何度も出てきたミニコントに「春日の作文」というくだりがある。小学生の春日俊彰くんが、若林先生に自分の気持ちを伝えるために作文を読み上げるという即興コントだ。
このコントが意外なカタルシスをもたらしたのは、昨年11月23日、若林が春日に隠していた入籍を発表した際の作文だ。存在しない妻が見えるようになったという話を継続していた若林に対していつも通りツッコむ春日から始まる。
春「どこまでが怖い話で、どこまでが本当なんだ、なんだこの話は!」
若「それは自分の気持ち大切にしてほしいよ」
春「なんだよ、私の気持ちってこと?」
若「作文でちょうだいよ。今どういう気持ちなのよ3年1組春日俊彰くんは。本当の気持ち聞かせてよ。頂戴よバカタレェ!!」
春「えー・・・「いまのきもち」3年3組、春日ァ俊彰。いま、若林君と話していて、またいつもの感じで、家にかみさんがいるといっていたので、聞いてみると、すごく、(話す)時間が長いなと、思っていました」
若「時間が長いと思っていたんだね、続けて」
春「いつもだったら、僕が、「ほんとうはいないのにこわい話だな!」と言うと、べつの話題にいっていたのに、その先もずーっと続けていたので、僕は、だんだん、本当に怖くなってきました」
若「怖くなってきたんだね」
春「はい。ただぁ」
若「ただぁ!?」
春「それでもなお僕が怖くなっているのを若林くんは分かっているはずなのにぃ」
若「分からないはずないよね、敏感な人だからね」
春「敏感で空気の読める、天才なので」
若「やめろぉ!」
春「分かっているはずなのにぃ、それでも続けるので、僕は「本当にかみさんがいるのではないか!」というところになり(中略)僕はとても怖いです」
若「怖いのね、それでどう思ってるの?」
春「なので、ちょっと(中略)この話は、今のところ9:1で、本当なんじゃないかなと、思っています。おしまい」
若「春日君ね、いま、若林先生が本当に結婚したんじゃないかって、9ほんとなんじゃないかなって思ってるんだよね?」
春「はい」
若「春日君、それはね、10にしてください。(校庭に)行ってきなさい」
春「わーーーーーーー!!!!!!(春日、校庭へ走る)(春日、本当に驚いている)」
文字に書き起こしても面白い漫才だなあ、と聞きながら鳥肌が止まらなかった。
話の主導権は春日にありながら、若林は第三者の目を気にしない自然な1対1のやり取りの中で、お客さんに対して強調すべきところでさりげなく相槌を打つ。
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さて。話を『ドリームマッチ』に戻す。
このコントで一番印象に残るのは、若林演じるお兄ちゃんが、妹のその子に対して何度も呼びかける部分だろう。
窓、棚、机の合計三度ガラスを割るその子に対して、驚きの、怒りの、そしてなだめるための「その子ちゃん」が発せられる。
兄「その子ちゃん!?その子ちゃん?」
その子「お兄ちゃん、ドア空いたよ」
兄「開いたね。開いたのお兄ちゃん嬉しいよ」
その子「ウン」
兄「でもガラス割っちゃだめだよ
その子「ウン!」
兄「静かにね、静かにね」
お兄ちゃんの感情は最初の「その子ちゃん!?」で出きっている。だから、その子に対して言葉を尽くすそれ以降は、お客さんに対する目線は邪魔になる。
東京03のネタ「家族会議」の飯塚さんではないか。震えた。
(「家族会議」:水商売の世界に入るという娘(豊本)をなだめていたはずの父(角田)が、徐々に風俗のオプション説明を熱く語り始めてしまい、娘も余計乗り気になってきてしまう様子を、間に入った息子(飯塚)が、「父さん!」「もとこ!」という台詞だけでツッコんでいくネタ。同じセリフでありながら、強弱やスピードを操りながら、息子が驚いたり、なだめたり、怒ったりするシチュエーションを華麗に演出し、かつ、笑わせるということで「七色の父さん」「感情でツッコむ」なんてキャッチフレーズとともに飯塚さんが紹介される)
感情でツッコむというのはおそらく、余計な説明台詞を排している前提があり、演じているキャラクターが本気で抱える感情を100%で出す。そのためにはお客さんに笑いどころを気付かせる客観性は捨てなければいけない。
フィーリングカップル終了時点で僕は、「くっきー!とのコントで若林がツッコむのであれば、多少状況を整理しながらボヤく感じになるのではないか」と予想していた。
それが、感情任せに芝居をする方に目が出たので驚いた。しかもそれが最近の若林のスタイルに共通するようにも思えた。
ネタ作りに関しては完全にくっきー!に巻き込まれた形でありながら、舞台上では完全に一対一のやり取りで感情を爆発させていた若林の姿が宇宙人以上に眩しくて興奮してしまった。それでいて、ダウンタウンに対しては、くっきー!に「巻き込まれた」側としてのコメントをキチンと提出するそのバランスもにくい。
TBSにはぜひシーズン2をやってほしい。
(オケタニ)
https://note.com/laundryland
【今週のテーマは#加熱でした】