『青葉家のテーブル』映画化決定だと!
噴水が止まった小さな池が、目の前の信号機の光を反射して変化するのをベンチから眺めています。スポーツウェアを着た人たちが、池をぐるりと囲むベンチに集まってきます。きっと総合体育館から出てきた彼らは、それぞれのメニューをこなして等しく汗をかいて、家路に向かうまでを思い思いに過ごします。
「暑っ」と言いながら素早く髪を後ろに結んだ女性が煙草に火をつけます。カチッ。
先ほどまでの復習か、無言で空手の型のようなものをやりあう二人組がいます。ザッザッ。
「酒の誘惑に勝ちゃいいんだ」と続けながら大柄の男はペットボトルの水を飲みます。ドプン。
聴き馴染みのない音がします。
ドプン。
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2リットルペットの水というのは家の冷蔵庫で冷えているもので、持ち歩くものじゃない。2リットルのペットボトルは、水分補給をものすごいペースで行わなければパフォーマンスに支障が出る人たちが、現場に持っていく武器。力仕事に汗を流す人や、暑い体育館で練習に打ち込む人。そして、しょっちゅう泣いてしまう女の子、とか。
『青葉家のテーブル』の長編映画化が決定した。
(株)クラシコムが運営する“北欧、暮らしの道具店”という通販サイトのPRの一環で作られた一話完結のwebドラマが『青葉家のテーブル』シリーズだ。現在4話までがYouTubeに更新されていて、全て100万回再生を超えている。“日常にひとさじの非日常を届ける使命”というコピーをそのまま広げた世界観の家族の物語で、監督・脚本・編集を松本壮史が担当。松本さんはロロ・三浦さんとタッグを組む機会をよく目にするが、彼も日常の暮らしの中で、ロマンスや関係性が生まれる瞬間を物語にする職人、と私は勝手に思っているのだけど、この作品もそんなシーンや道具が連発なのだ。
小説家としてなかなか成果を出せないソラオに焦点を当てた、第三話「僕らの才能」のワンシーンが好きだ。毎年挑戦する新人賞に今回も挑むソラオは、担当編集に言われるがままに修正を重ね、出来上がった作品は読みやすいけれど“ソラオらしくない”作品。それでも受賞候補にノミネートされたがゆえに複雑な想いを抱えるのだが、そんな時のライバルとの会話がシーンがいい。
ライバル「今日、私はぬるい誉めあいにきたわけじゃないので。ソラオ君の『ワンダールーザー』を改善すべき点を27コ書いてきました。えー、今話しながらさらにもう一つ思い浮かんだので、合計28コ。・・いきます」
ソラオ「よし、こい」
以前読んだ、舞城王太郎『私はあなたの瞳の林檎』収録「うんこサラダ」に出てくる登場人物たちのやり取りを思い出した。
自分の作品のダメなところや改善点を容赦なく指摘される苦痛を、笑顔で我慢する天才。見るに堪えないその様子に助け舟を出した主人公は、彼に怒られる。本質的な話に茶々入れるな、批評するされる両方に失礼な行為だ、と。その作品では、他人からのダメ出しや指摘がただの感想ではなく批評の場合、全力で受け止める覚悟を持つ人の強さが描かれている。
相手からの宣戦布告に対して笑みを浮かべ「よし、こい」とだけソラオが言うシーンは本編にそこまで関係するわけではないが、彼の人格がにじみ出るシーンとして心に残っていた。
そして、ソラオに対してずけずけと宣戦布告したライバルを演じているのが、ロロの森本華だったのだとさっき気付く。なんという偶然だろう。
先日、ロロの『はなればなれたち』を見た際、主人公“淋しい”を演じる森本さんが完璧すぎてすっかりファンになり、そのまま彼女が出演する、東葛スポーツ『78年生まれ、宮部純子』を見に行った結果、この人は声がいい。ナレーションきれいすぎる、ラップもうまい、声とリズムと表情が好きだから俺もうこの人の芝居大好きだ!と気付いた。
「森本華」と検索すると、柴田聡子のPVに出ている。ついでにサニーデイ・サービス「卒業」のPVも見返す。ロロメンバー全員出演で最高の映像だ。何周でも見れる。
『青葉家のテーブル』は主題歌がサニーデイ・サービス「甲州街道の十二月」で、OP曲は小田朋美が担当。第四話の挿入歌を担当するGirlish Sportsというバンドは小田朋美・石若駿・西田修大によるものでこれも当然最高。二話ではラバーガール大水さんが出てくる。なぞなぞっぽくなんでもいう大水さんも好きだ。大きい水。
2リットルのペットボトルを抱える女の子が出てくるのは第四話。
フジロックに行っていないそこの貴方、是非見てみて下さい。
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「練習、外だったら溶けてたねえ」ポニーテールの女性が言うとみんなが笑います。
『サマーバケーションEP』を読み終えた。あの人たちも実は、チームなのかもしれない。だってもう、夏休みだから。
(オケタニ)