見出し画像

フワちゃんのスタンスは令和バラエティの新スタンダードになるか

シソンヌのフワちゃん

 『有吉の壁』を見ていたときのこと。
スタジオの有吉を自宅から笑わせる中継企画「なりきりスターのおもしろ自宅公開選手権」のなかで、シソンヌ・じろう扮するフワちゃんが、カメラを持ったディレクター(長谷川)の提案に従って“空気を食べる”ネタがあった。
宙を摘まんで口にもっていくフワちゃんが「甘い~!」「しょっぱい~!」一緒に食べて「砂糖醤油~!!」と味の感想を叫ぶ。
昨年後半から“芸人YouTuber”として活躍するフワちゃんの無邪気で活発な側面を「おバカキャラ」の方向で強調したネタだ。

画像1

 2000年代に島田紳助がプロデュースした『クイズ!ヘキサゴンⅡ』によって火が付いた「おバカ」ブームは今なお強い影響を残している。
常識を知らない、漢字や敬語が苦手な存在として登場した彼らは、MC役のツッコみで場が回る構成の番組を完成させる重要なピースだった。
その過程でため口、ハーフ、奇抜な衣装などわかりやすい特徴を装備した「おバカ」は次第にキャラクター化した。
 しかし、「おバカ」たる由来や背景について深堀されない「おバカキャラ」は飽きられるのも早い。「おバカキャラ」のメディア回転率が上がった結果、もうクイズ番組での「おバカ」な珍回答より、「おバカキャラ」を装う無名タレントや「おバカキャラ」の真面目なプライベートの検証企画が主流となり、「おバカ」は素材に等しくなった。

 そうした変遷を見てきた私たちにはおそらく、シソンヌの演じたフワちゃんが「どうにかしてテレビで売れたいタレントが、おバカタレントを無理に演じている様」に映ったはずだ。
指示を出すディレクターを同じ画角に配置したことから、シソンヌの意図もフワちゃんのキャラクター性を誇張することにあったのだろう。有吉の「全然似てない(笑)」というコメントも、そのことを素早く視聴者に伝えた。


新「おバカキャラ」?フワちゃんの快進撃

 フワちゃんの活躍を見ていると、M-1で優勝したミルクボーイがかわいそうになる。
賞レース優勝芸人によく使われる表現よろしく、昨年『うちのガヤがすみません!』でブレイクして以降、フワちゃんは数多くのバラエティを「1周」し、その勢いのままコロナ禍のリモート収録期の「2周目」まで敢行してしまった。

 スタジオ収録が行えず、出演者が自宅からの慣れないリモート出演を余技なくされているなかで、YouTuberの地肩を持つフワちゃんは重宝された。
分割されたテレビ画面に映る蛍光色のスポブラとヘアピン、自撮り棒を持った「キャラクター感」満載のフワちゃんが持つ画の強さや元気の良さは、視聴者視点でひな壇にツッこむMCよりも求められる存在だった。
テレビ画面のYouTube化により、テレビが彼女の土俵になったと言っていい。

リモートでのCM撮影やナレーション録りもこなし、キャッチフレーズ化しつつある「最悪ゥーーー!!!」なミスを連発しながらも、フワちゃんが登場することへの期待や安心感を持った視聴者も増加傾向にあったのだろう。
テレビの今後を討論するNHK特番『あたらしいテレビ』にまで出演したフワちゃんは、土屋敏男、野木亜紀子、佐久間宣行らと混じりながら、求められる完璧なパフォーマンスを披露した。

画像2

 場の空気を無視した無邪気なふるまいでスタジオを走り回っていたフワちゃんは確かに令和の「おバカキャラ」に見えた。しかし、コロナ禍の特殊な状況で「二周目」を成功させたフワちゃんは、MCにイジられてなんぼの「おバカキャラ」以上のポテンシャルを示した。
爆笑問題・太田の言葉を借りるなら、フワちゃんはあの期間の「申し子」と言っていいだろう。


「実はマジメ」による無力化

 とはいえ、フワちゃんがテレビに出始めた頃を振り返ると、誰がここまでのブレイクを予想できただろうか。
それどころか、フレンドリーなため口で先輩に近づき、「自撮りしよ〜」と素人ノリ全開でスタジオに登場するフワちゃんにアレルギー反応を起こす人すらいたはずだ。
“芸人YouTuber”としてテレビに出てきた彼女が発する「ヤバいやつ」オーラは強烈なものでありながら、YouTube時代に出てきた「おバカキャラ」の焼き増し程度に見えても仕方なかったはずだ。

 しかし、バッファロー吾郎Aのリモート番組で「テレビ番組って、プロデューサーやディレクターの単独(ライブ)なんすよ」と千鳥ノブが話したように、出演者が企画の1ピースに過ぎない番組が一般的なものになっているいま、フワちゃんの「明るい破天荒キャラ」も番組の1ピースであり、彼女のパフォーマンスもスタッフが求めた「誇張」や「虚像」を含んでいるのだと考えることもできる。

 素人の無邪気さを振りまくフワちゃんへの嫌悪感があるとすれば、それは、あの姿が「キャラクター」に過ぎないと理解することで少しは解消できるかもしれない。
「スタジオであれだけ騒いでいたくせに、Zoomの画面では大人しくしていられるじゃん」
「実はマジメなんだろ」
といったふうに。

「おバカキャラ」がどこかのタイミングで「実はマジメ」「実は常識人」へ転じることはいまや何も珍しくない。『ゴッドタン』で初のテレビ出演を果たしたEXITが一撃で「実はマジメ」のタスキをかけられるところまで来ている。
リモート企画の救世主として多用されたフワちゃんを見ていると、この「実はマジメ」ブームがフワちゃんのもとにやってくる日も近いと容易に想像がつく。

 だけど、僕はフワちゃんを「実はマジメ」「実は常識人」の方向に切り返すことはできないと思う。
逆に言えば、タレントがディレクターの単独ライブの1ピースになることが当たり前だったテレビが、バラエティが、この先フワちゃんをどう扱うかによってテレビの展望が見えてくるような気がするのだ。


規格外の『ゲラニチョビ』と自己プロデュースに溢れた『フワちゃんTV』

 そもそも、大勢のYouTube視聴者の前にフワちゃんが綺羅星のごとく現れたのは2017年6月、Aマッソの冠番組『ゲラニチョビ』(静岡朝日テレビ)のはずだ。

“Aマッソのヤバい後輩”という形で登場したフワちゃんが繰り出す暴挙の数々。動画が公開された当初から、彼女のヤバさが本物かキャラかの論争は激しく盛り上がった。
「FUWA」と題されたその回で注目を集めたフワちゃんは、その後も同番組の「23区・積極・ツアー」「台湾・タイマン・ツアー」に再登場し「あ、こいつマジでヤバいヤツだ笑」とコメント欄の住人を安心させるに至る。僕らが勝手に妄信していた“お笑い芸人”という生物の枠の外にいる存在は危うく、つまらなくて、面白くて、楽しそうだった。

 そんなフワちゃんがYouTubeチャンネルを開設したのは2018年4月。
『フワちゃんTV』最初の動画は、僕にとって大きなインパクトだった。

『ゲラニチョビ』で見たフワちゃんのヤバさは、瞬間最大風速的な奇怪さだった。
しかし、最初の投稿から独自の編集センスに溢れた動画は、この先の予告編になっていた(しかも6本、すべてロケ)。さらに、アナウンスされた動画で初の連続モノ「渋谷からガソリン満タンでどこまで行けるのか」では冒頭に自ら流暢なナレーションを入れている。
 この時点で『フワちゃんTV』にはしっかりとした戦略やこだわりが設けられていることがわかるし、フワちゃん自身、自分のどこをどう笑ってもらいたいか、ピントがはっきりしていることにも気づく。


島田紳助は最初から答えを述べていたではないか

 話を戻すが、そもそもMCが優位に立つための「おバカ」を生み出した島田紳助は、「おバカ」のキャラクター化なんて乱暴なことは考えていなかったはずだ。
引退以来8年半ぶりに姿を現したmisonoのYouTubeチャンネルで『ヘキサゴン』立ち上げ時のオーディションをこう語っている。

「(ヘキサゴンのオーディションを行ったとき)知識がなくて知恵があるやつを探した」
「テストをして、間違えている答えの意味を聞く。わかりませんというやつは知識も知恵もない。知恵のあるやつは、なぜって聞かれたときにそいつなりの理由がある。その理由が面白い」
「おバカなだけではあかん。そこに理論があるやつじゃなきゃ」

紳助の作った「おバカ」はいつしか「おバカキャラ」というアイコンとして消費されるようになったが、紳助の言う「おバカ」とはそもそも、おバカに至る思考回路を含めた"個人"に焦点を当てるものだった。

フワちゃんは「おバカ」だが、知恵があり理論がある個人であることを"芸人YouTuber"として証明し、テレビに逆輸入された。
 しかし、瞬間的なキャラクター性の強さとは別に、卓越したプロデュース力も併せ持ったフワちゃんの幅を受け入れる器量がなかったとしたらどうかるか。この先テレビは彼女を「実はマジメ」の枠に括りたがるだろう。
「おバカ」をキャラとして持ち上げ、時間を空けてから「実はマジメ」のサイクルで消費し続ける空虚さは何も生まないのに。

「実はマジメ」の先輩EXITとの対談

フワ:そもそも「実は○○」っていうのがパッケージ化しすぎてるから、ここらで一回整理させたくね?被害者が生まれてますよ~。
兼近:実際俺ら元から「マジメじゃないですよ」って言ってたからね。それなのになんかあったら「お前、マジメ売りしてただろ」って。してねえよ!
フワ:それな!あたしこないだ台本見てディレクターにキレたよ!!
りん:マジ!なんて言ったの?
フワ「番組的によくても、私のタレントとしての方向性が限られてくるし、その返しもブランディングに反するからイヤです」って言った。
兼近:それは確かに。

 決して悪態をつくだけの会話に終着するわけではないが、近年最も「実はマジメ」の被害を受けたEXITとフワちゃんの対談は、今のテレビ文化に対するノーを隠さない。
リモート収録が落ち着いたところで「実はマジメ」「実は英語力に長けている」=「だからしっかりしている」という公式に彼女を当てはめようとする企画が出てくるかもしれないが、 この対談を読むと、フワちゃんが断って実現しないかもしれないとさえ思えてくる。

テレビタレントであるならば、どんな企画でも与えられた役割を全うする。
ディレクターが指示するのなら空気すら食べて「甘い~!」とコメントする。
そんなタレント像は過去のものになるはずだ。

『フワちゃん完全攻略本2020』

 EXITとの対談も収録された『フワちゃん完全攻略本2020』をご存知だろうか。「見る抗うつ剤」とうたっているが、どちらかというと健康診断で無理やり飲まされるバリウムに近い。
とはいえ、フワちゃんのヤバさと自己プロデュース力の共存を一度で理解できるクオリティは保証できる。

 2017年の時点で「テレビを1周したい」と展望を持っていたことや、海外進出が長年の目標であること。そう言いつつ(現代の女芸人像を確立させた)『世界の果てまでイッテQ』への出演が夢であること。
フワちゃんが持って生まれてきた破天荒さと行き当たりばったり感が強調されていながらも、しがらみのない世界で上昇志向を維持する現実的な理想像が垣間見える内容だった。

「フワちゃん(YouTuber)とフワちゃん(TVタレント)の対談」が収録されていることからして、彼女が自身のキャラクター性の手綱をテレビにゆだねていないこともわかる。

 「おバカ」「実は○○」「女芸人」パッケージ化して消費するテレビのサイクルをどうサバイブするかではなく、生まれ持ったモノや、一つの地点で築きあげた才能(=タレント)として別の場所へ進出するフワちゃんの軌跡は、おそらくもう少しテレビで見れるはずだ。
 楽しさや自然さに勇気づけられるならまだしも、「ここではこうだったのに別のところではこうじゃないか!」のように押し付けてバッシングする世界ではあまりに狭すぎる。なんでそうだったのか、が大切ではないだろうか。
 カジサックでもなければUUUMクリエイターでもない。YouTuberと名がつくタレントとして、テレビでいち早く暴れたのがフワちゃんだったことが、いつか必然だったとわかる日が来ると思っている。

(オケタニ)
https://note.com/laundryland



いいなと思ったら応援しよう!

アララ
サポートは執筆の勉強用の資料や、編集会議時のコーヒー代に充てさせていただきます