『乃木坂どこへ?』はなぜ面白かったのか。番組MC、さらば青春の光から考える。
先日、日本テレビ系列のバラエティー番組『乃木坂どこへ?』が一応の区切りを迎えた。4月以降も継続するらしいが、先日の放送をもって第1シーズンの終了となった。
この番組はタイトルからわかる通り、アイドルグループの乃木坂46の冠番組である。が、登場するのはその4期生たちのみである。そして、この番組のMCがお笑い芸人のさらば青春の光だ。さらば青春の光といえば、ボケ(たまにツッコミ)の森田が『メンタル童貞ロックンロール』というタイトルで自身の非モテエピソードを綴ったエッセイ集を刊行し、ツッコミ(たまにボケ)の東ブクロは他事務所に所属する芸人の妻を寝とったことをスクープされた過去をもつ。
また、
そんなコンビが、「清楚」をパッケージ化している乃木坂46の番組MCを務めるということを知った時は驚いた。
(▲『乃木坂どこへ#1』でのさらば青春の光の個人事務所でのシーン。乃木坂46と、本棚の『メンタル童貞ロックンロール』が同じ画面のなかに。)
結論から記すが、この番組はめちゃくちゃ面白かった。多分その面白さは以下のように因数分解できるだろう。基本的にアイドルバラエティー番組(とりわけ、この枠で過去に放送されてきた『BINGO』シリーズ)は「男性から《視られる》/《承認される》べきアイドル」というのを強く意識した構造になっていた。(「妄想リクエスト」はその象徴だ)
しかし、今回の『乃木坂どこへ?』はさらば青春の光のキャラクターが、はたまた森田の「下品(笑)」な笑い声が、これまでの「男性ファン→女性アイドル」という視線を無効化し、メンバー同士の関係性やグループの空気感を純度高くカメラで映すことに成功したのではないか。そして、それがこの番組の面白さに繋がったのではないかと思うのだ。
特に、#19#20で放送されたモルック対決での「世界大会だよ」という掛け合いにはそれが顕著に現れている。
(▲モルック企画は、さらば・森田がモルックというスポーツの日本代表ということで企画されたもの。『ガキ使』でもダウンタウンらとモルックを行なったが、その際と近い雰囲気を感じた。アイドルバラエティ番組と、純バラエティ番組の垣根がさらばによって溶けたように感じた。)
ここでアイドル番組のMCはどのような芸人が最適なのかということを考えたいが、思うに「ツッコミが主体の芸人」は適していないのではないかと考える。その象徴が『KEYABINGO!!』MCの小籔千豊や『欅って書けない?』の土田・澤部の機能不全である。
なぜツッコミを武器とする芸人がアイドル番組のMCに適していないのか。それは「自分の裁量で笑いの枠組みを決めてしまうから」である。例えば、先週の『欅って書けない?』内のくだりを見て欲しい。
(テロップ:「天ちゃんは謎の絵を描いている」)
澤部:どういうこと?
山崎:目ん玉の絵……。
土田・澤部:目ん玉?
山崎:ふふっ……。
(テロップ:怖い。)
土田:サイコパス(笑)?
澤部:なんでそれは?
山崎:普通に目の絵を描くのが好き。
土田:それはなに、無意識にバーっと絵を描いているときに無意識に絵を描いてしまうの?
山崎:(頷く)
ナレーション:小さい頃から描いているという目玉の絵、実際に見せてもらいましょう。
澤部:うわああ。
土生:想像していたのと違う。
テロップ:独特なタッチ。
土田:違うね。
澤部:ツルンとした目を想像していたから。
土田:これは何かを物語っているね。
澤部:これはなんかあるの?
山崎:考えすぎちゃって。この(絵の)人が。もうぐちゃぐちゃ。
(略)
澤部:これはもう心配なんですよ。うちの相方もなんかあったら目を描くんですけどね。
最終的には心理学者の方が寄せたコメントにツッコむかたちでオチをつくる。のだが、ここにボケがいれば……と、ハライチ・岩井がいれば……とどうしても思ってしまった。「怖い。」というテロップのツッコミは最も不適切な笑いの枠組みである。
さらば青春の光は、バラエティが苦手なアイドルであっても自らがフリをつくることで無理くりにでもポジティブな笑いを起こそうとしていた。例えば、それは熱海ロケの大喜利で
東ブクロ:気になるわ、お前。なにしてんねんお前。
森田:いや、違うねん。全然(答えが)でえへんからっていうて、俺が答えをこれを書きって言ったらそれに文句言ってくるねん。
東ブクロ:(笑)。
(テロップ:アドバイスに納得できず)
東ブクロ:我、出してきてるやん。(森田が答えを教えた)掛橋さんいけた?
掛橋:はい。
森田:行ったれ。
東ブクロ:丸天さんが突如閉店その理由とは?
掛橋:お母さんが仮想通貨で大儲けした。
(テロップ:... ...)
森田:ダメ!
東ブクロ:いや、お前が答えたんやろ(笑)。
また、番組後半のモノボケで。
森田:やってみる一回?これやってみる?
柴田:はい
東ブクロ:あ、いく!柴田さん!どうぞ!
柴田:すいません、ウミガメの卵、砂浜から二つ盗んできました。
森田:あかんあかん!そんなんしたら
(間)
一同:(笑)。
東ブクロ:お前、もっとちゃんと考えてやれよ(笑)。
と短尺のなかで、いわゆる「定食」を完成させて笑いを取っていた。
『日向坂で会いましょう』のオードリーしかり、冠番組のMCがどのような個性をもつかはそのアイドルのクリエイティビティの発露の仕方を嫌が応にも決定づける。第2クールでは、さらば青春の光と乃木坂46 4期生はどのような笑いをつくってくれるのか、楽しみである。