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東京にこにこちゃん 『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』

引っ越してから下北沢が少し遠くなった。
どこかの街に暮らす誰かとして居を移した自分のように街も変わるので、濱口特集を見にK2へ行ったときのハ?という気持ちも、換気扇を回したら下水臭くなる部屋にア?と思う気持ちも同じかもしれない。
場所には変わってほしくないくせ自分は変わりたいと思う。そして何かをおいていく、思い出せないけど。
家に帰って部屋に広がる板の山を組み立てたら、本が詰まった段ボールを開ける。箱にいれず、おいてきたものを思い出すことはあるのかないのか、靴の裏にはANDYの文字。

東京にこにこちゃん「どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード」

タイトルから分かる通り「ときめきメモリアル」を舞台にした、主人公の安藤、クラスメイトの馬図からわかる「トイストーリー」だ。発話の独特な三姉妹はリトルグリーンメンか。
ギャルゲーの登場人物たちは、主人公が教室以外のイベントにいそしむ間、自我のままに喋り出す。 自分はいつ選ばれるのか。

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インターネットは君に愛を伝えるために生まれた

安っぽくも懐かしいBGM、幕に投影される学校風景(校門、教室、廊下、職員室、保健室)、その後ろには教室のセット。場面転換の度に幕は上げ下げされて、主人公は選択肢の言葉を復唱しながら各所でストーリーを進めていく。桜の下で告白する共通エンドを攻略対象全員に繰り返し挑むのは、全クリすると隠しキャラが出ると保健室の香坂先生が教えてくれたからだ。彼女は各ヒロインの情報を教えてくれるサポートキャラ、攻略対象ではない。
ゲーム主人公のメタ視点を持った自我は、プレイヤーとリンクしたものとして観客の前に立ち現れる。彼が桜の季節をループするなか現実では高校卒業まで3年の月日が流れている。

「ときメモ×トイストーリー」で想像しうる場面と物語が展開され、「選択肢にない恋愛をつかみ取る」ど真ん中な作品になっている。これが下北沢80人キャパの小劇場で、東京にこにこちゃんという業のような名前を背負った劇団の公演だと忘れないでほしい。
ウッディは自分の存在がばれたらどのような罰を食らうのだろう。「どきメモ」では「選択肢」からデリートされてしまう。終盤には「俺のことはいいから桜の木へ走れ!」安藤(アンディ)に伝えながらドット絵の画面上から消されゆく級友たち。
桜が舞い、流れるHave a nice day!「わたしを離さないで」、回転台の上でキスする高校生と保健の先生。
「ブラボー!」が響いた小劇場の会場に居合わせることはもう二度とないと思う。

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この作品のわかり易さや、俺のことはいいから先へ行け展開などのノスタルジー感満載(客入れBGMが大塚愛)の構成は、作品が演劇シーンをフリにしているが故のエモさでもあると想像する。同様のテーマで新しい(ゲーム世界と現実世界の二重恋愛、その根拠にAIとプログラマーが重なる)構図を用意した2021年隠れ傑作『フリーガイ』に歓喜した経験と照らし合わせると、そんな実感があった。

良く言えば象徴として、悪く言えば免罪符として「笑い」が用いられる。
キャラ渋滞の金髪少女、会話をスキップされたメインヒロイン、登場の度にコスプレをしたバグ。デリート演出や回転台に使用される小道具はどれもチープだ。

システム通りの言動に制限されたキャラの説明として、先生が黒板にチョークで弧を描くことしかできない冒頭のシーンは最高だった。だけど、話が進むにつれその先生が無能だっただけで、対比される有能先生がスラスラ数式を書いたところであの笑いは物語のルールから独立したものになった。
『フリーガイ』の配信者やサングラスのような背景とルールを表すギャグとは意義の強度が異なる。
(本作はコロナ禍で二度の延期、二年越しの上演であり、元ネタとなるショートコントの初披露から考えると「フリーガイ」公開より早いことは断っておく)

ただし雑な「笑い」の積み重ねが単なる〇〇らしさ、として捨て置かれない素晴らしさが東京にこにこちゃんにはある。真剣でクサい感情をラストに開放するために、「笑い」で焦点をずらす意図がある。
それは前作、エンディングプランナーの元に集まった人たちの群像劇『ラストダンスが哀しいのはイヤッッ』で、死それ自体の悲しみをラストまで温度のないものにできていたのが、ナンセンスなキャラやボケの数々だったことにも共通する。
今回もゲーム攻略のルールを笑いで曖昧なものにしていたからこそ、あまりに当たり前な、桜、ハバナイ、キスを全力で迎え入れられるのだ。高校生と保健室の先生に無条件で感動してしまうのだ。『Angel Beats!』最終回に泣き崩れた自分があそこに居た。

シーンや観客の予想に沿いつつ裏切る形としては正解、しかしそれでも苦しさは感じえない。そんなアンバランスさを象徴するのが、作演ツグトヨさんがアフタートークで放った「売れて―!」であり、全部が込められていた。


主人公とキャラクター全員に共通する気持ちは「自由に話したい」だった。
話したいがゆえに存在意義と外れた言動をとってしまう、ウッディがこっそり箱の中に隠れたように。しかし彼らが活動できるのはどうやらゲームが起動された間だけらしい。そこが『トイストーリー』や『シュガーラッシュ』とは違う。全クリして起動されなくなることは、すべてが断絶されることと等しいのだ。

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コロナ禍であの規模の劇団が公演を予定通りに敢行する難しさ、そんなことも脳裏にあってキスシーンに感動したのかもしれないと張り替えながら、
手指に負かしては可哀そうだと口に酒を運ぶ、桜色のアサヒがコンビニにら並び始めた。2019年のりんご音楽祭で聴いたであろう曲と「ミッドナイトタイムライン」を交互に聴く。日中も夜も最近は感じ方が違う、光、匂い、温度の順で季節は変わるらしい。匂いの一歩手前のところで五感は春を感じている。

告白でねじ伏せる後味や、絶対悲しいことにはさせない劇団を知った嬉しさは数日自分の中に残るだろう。そうやってノスタルジーは積み重なっていく。


東京にこにこちゃん「どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード」
下北沢シアター711 2022/2/16~20 

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作・演 萩田頌豊与
青柳美希・・夏子先生
赤猫座ちこ(牡丹茶房)・・メインヒロイン
踊り子あり(はえぎわ)・・香坂寧々(保険の先生)
尾形悟(マグネットホテル/東京にこにこちゃん)・・バグ
釜口恵太・・安藤笑悟(主人公)
澁川智代(右マパターン)・・砂川明菜(暴力)
鳥島明(はえぎわ)・・来栖先生
てっぺい右利き・・たつお(バカ)
四柳智惟・・馬図来人
新山志保(盛夏火)・・西園寺鈴香(安牌)
矢野杏子・・琴吹海江(3姉妹)
宝保里実(コンプソンズ)・・日下部雛子(怪我)
Hocoten(地蔵中毒)・・ジョセフィーヌ

役者陣が本当に素晴らしかった。宝保さんが少しツッコミ気質なキャラだったところもっと見たかった。

(オケタニ)

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