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『映像研には手を出すな!』は最強の世界を思い出す窓。

新年早々、最高アニメが始まった。

町中に川が流れ、高低差激しい地形に家々が散らばった地区の中にあるレゴブロックのような芝浜高校。そこで出会った浅草、水谷、金森の3人が映像研究部を作ってアニメ制作を行う、アニメだ。

妄想を作品の設定や構想に変えていくエンジンの浅草、人物画が得意で細部まで作りこまれたアニメーションに惚れこむご令嬢の水谷、二人の妄想を現実に完成させる商売人金森の3人組による「妄想内冒険活劇」に、掻き立てられるものがあるのだ。

製作することの情熱や戦略性、高校の部活が目標に向かうRPGを描く作品は多々あれど、エンタメの消費者が、生産者の視点で創作を疑似体験する“お仕事系ドラマ”と『映像研』が異なるのは、ある種の無敵感覚への衝動だ。
主人公がスケッチブックの前で、妄想を現実物として生成する“魔法”を体験するときの興奮は、「そもそも好奇心や青春などとは別次元に存在していたよな」と視聴者のことをいてもたってもいられなくなくさせるパワーに溢れている。

映像研の3人が持っている魔法はイマジネーション。そして、想像が次から次へ創造される夢みたいなことが「最強の世界=アニメ内アニメ」で実現されていく快感がこのアニメの魅力になっている。

例えば、お互いの設定とキャラを見せ合っていたのに、気付くと作品世界に没入して戦車を動かしていたり、部室を掃除する自分のスカートにはプロペラが装備されていて、部室はそもそも宇宙船だった!なんて具合に、「アニメ内アニメ」の推進力が物語の展開と噛み合っていく。高校生の脳内にある完成形が画面を飲み込むと、手書き風の映像世界でガジェットが縦横無尽に疾走し、パーツが書き加えられ、風が吹く。「アニメってそもそも絵が動くから面白いんだよね」という初期衝動が、丁寧な作画によってメタ的に演出されるのだ。

それは昔、公園でケイドロをしたり、木の棒を仲間に加えたり、机の下に潜り込んだり、ヘリコプターから逃げたりしたときに感じた自由と似ている気がする。自分だけの設定を考えて、それは紙もペンもいらない創造の世界なのに、たった一人の遊びにワクワクする感覚が蘇る。それは、今の自分が再びアクションを起こしたくなるスイッチだ。

自由なイマジネーションはいつだって無限で、無敵で、最強なんだ。
そして、「こいつらいればヨユーだわ」と言える存在って、なんか歪でいいぜ。

そんなことを、日曜深夜に教えてくれるアニメが放送されている。明日は月曜なのにワクワクして寝れない。

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『映像研』の監督は『四畳半神話大系』『DEVILMAN crybaby』の湯浅政明だ。
『夜は短し歩けよ乙女』で見せた、ゴチャついた街並み、群衆、ナンセンスな動き、ダイバーシティ、リアルに介入する不可思議性などは、『映像研』の魅力にも直結していて、現実世界から妄想に突入する際の重力を取り払うのに適した1番の監督に感じる。

色使いや、3人の「人の形をした生物感」を濃縮したOPも素晴らしく、主題歌であるChelmicoの「Easy Breezy」がとにかく最高だ。

世界で何かを作っている人全員を肯定するパワーと、脳内に風を通す疾走感のバランスがうまくいきすぎていて、歌詞を全文掲載したいくらいだ。

こっちへおいでよ 一面からじゃ見せらんない

このPVのコメント欄は英語が大半を占めていて、どうやら『映像研』は海外でも好評らしい。Netflixで世界的になった湯浅作品ということも大きいだろうが、「映像が動いて、疾走する。」その興奮はやっぱり、万国共通なのだ。スマブラの新キャラ参戦が発表される瞬間のように、海外のYouTuberたちはリアルタイムで“eizouken”に興奮している。

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僕たち20代が子供の頃のNHKアニメといえば夕方6時からの『メジャー』だし、その前後世代もワクワクしたアニメがあると思う。

『カードキャプターさくら』(00年)、『メジャー』(04~10)、『未来少年コナン』(04年)、『電脳コイル』(07年)、『バクマン。』(10年~)、『GIANT KILLING』(10年)、『ベイビーステップ』(14年)

しかし、『映像研』は日曜24時10分開始で、子供がリアルタイムで見る作品としては放送されていない。
いわゆるサブカル界隈で注目されたスピリッツ漫画で、長期シリーズ物でもないことなどが理由にあると予想するが、こんなに子どもがワクワクするアニメってないだろ!!!と思う。ストレートな初期衝動を肯定するパワーを、大人が独占するなんてもったいない!!!

いつだって想像を働かせれば最強の世界が見えてくるし、欲望に従って実現に一歩踏み出せば、そんなに楽しいことはないよね。

(オケタニ)
https://note.com/laundryland

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