【#3 食べたことない】似非のグルメ
グルメ好きに憧れる。
いや、アンジャッシュ渡部の話じゃない。
きっかけは昨年秋、Netflixドラマ「マスターオブゼロ」(Master Of None)を観た。
主人公は売れないインド系アメリカ人俳優、デフ・シャー。
ニューヨークを舞台に、彼の友人や恋人、そして仕事仲間が些細な出来事にドタバタする、1話完結のコメディードラマだ。
粋な会話や演出。登場人物たちの付かず離れずな人間関係、そして30代を前にした主人公のリアルな悩み。
例えるならコメディ版「獣になれない私たち」だろうか。
デフ・シャーは劇中で暇をもてあまし、友人たちとともによく食事に出かける。
タパスやイタリアン、タコスを介して交わされる会話がまた、粋なのである。
僕は確信した。
「グルメな人は、粋である」
デフのような粋な人間になりたい。
いや、アンジャッシュ渡部、お前じゃない。
ともかく、僕は「マスターオブゼロ」を観てグルメな人になろうと決意したのだ。
しかしひとつ困ったことがある。
グルメになるためには、たくさんの美味い店に行くことが必須だ。
肉好きで知られるホリエモンは稼いだお金で一晩に肉料理屋を10軒ハシゴするという。
対して、しがない学生には美味い飯をたくさん食べるほどの余裕はない。
そこで僕が編み出したのが「似非(エセ)のグルメ」という手法である。
「似非のグルメ」
用意するもの スマホ、およびパソコン
1.まずは任意の場所と料理名を検索
(例 吉祥寺 ピザ)
2.出てきたサイトの「食べログ」を順に閲覧
(評価の高い順に見るのが望ましい)
3.メニューとレビューをしっかり熟読
(だいたいレビューにオススメが書いてある)
4.店の雰囲気や料理の味を想像する
5.別の店舗(のページ)に行く
これを1時間ほど続ける。
たったこれだけで、10店舗を回ることができる。
するとどうだろう。あなたの想像によってお腹は満たされないまでも、舌は肥えてきた気がしてこないだろうか。
そして、想像力をフル回転させると食べたことのないはずの料理のレビューができるようになる。
「食べログを見続けた結果、あたかも食べたことがあるように記憶が改竄される。
これが似非のグルメの妙味だ。
スマートフォンやアプリケーションといった文明の利器や想像力を用いることで、食事という体験をも凌駕するのだ。
さらに情報を食べ続けると、ある境地に達する。
情報の味に病みつきになるのだ。
料理を味わうのではなく、食べログ上の情報を味わうのである。
もはや、お店に行く必要はない。
食べログだけで腹を満たすことができるのだ……
ちなみに最近のオススメの店は新宿の和泉屋だ。
昔ながらの洋食屋でありながら、バーの様な雰囲気も漂わせている。
特に美味いのがオムライス。卵焼きのようなオムレツにチキンライス。意外な組合せが最高だ。
……
「でも、これも食べたことはないんだろ?」
「いや、食べたことある」
「ここまで話してたことなんだったんだ?特に目新しくないし」
「いや、まぁ、マスターオブゼロの話をしたかっただけだからさ。特になにもないんだよ。ちなみに、あれって『なんにもない男』って意味らしいぜ」
(ボブ)