エンジニア採用のエージェントリレーションについての私見
こんにちは、すべての経済活動を、デジタル化したい大石(@akyun)です。LayerXでエンジニア採用担当をしています。
役割上、他社の方とお話するとエンジニア採用の具体的なhowについて聞いていただくことが多いので、私はこうしていますという内容の文章を書いておければと思い、このnoteを書くことにしました。今回はエージェントリレーションについて書きます。なお、前回はダイレクトソーシングについて書いています。多くの方に読んでいただけたので、そちらも良ければご一読いただけると嬉しいです。
前提
私の採用活動では、主にソフトウェアエンジニア(Webフロントエンド、バックエンド等)を対象としています。ビジネス職の採用では前提が異なります。
このnoteの想定読者は、エンジニア採用を担当するリクルーターやIT企業の経営層の方をイメージしています。
日頃はエージェント様と敬称をつけているのですが、この記事ではチャネルとして記載しているので敬称略で統一します。エージェントから紹介を受ける方も同様の理由で求職者という呼称で統一します。
エージェントに依頼する目的
私が考えるエージェントにポジションを依頼する目的は、以下2点です。
1. 転職顕在層に対するリーチの強化
2. 多様な候補者との接点強化:自社のネットワーク外の方や想像を超える範囲の紹介をいただくため
1点目は、リファラルやソーシングを徹底して行っていたとしても、どうしても自社が扱うチャネルのみでリーチできない方がいます。そういった転職顕在層の方との接点を持てるようになることがエージェントから紹介をいただく最大のメリットの1つだと考えています。エージェントは転職顕在層との接点を最大化しているので、事業会社がこれを上回ることは難しいです。
また、直近はリファラルで声をかけられていなかった方、具体的には会社の役職についていたり重要プロジェクトに参画していて、まだ転職タイミングでないだろう考えていた方も水面下ではエージェント経由で転職活動をしているということがあります。そういった方を紹介いただけることは貴重です。
2点目は、自社社員がリファラルできる方は属性や経歴が似通る傾向があることに加えて、ネットワークは有限で先細りします。また、ソーシングで私たちがメッセージを送る方も似たような経歴の方へ偏ります。こちらも対象となる方の数はすぐに頭打ちします。
エージェントからの紹介は、私たちのネットワーク外で想像しなかった経歴の方との新しい出会いを生み、組織に新しい可能性や示唆をもたらします。
エージェントが求職者にどの企業を提案するかを決める構造とは
エージェントが求職者に対して数多くの企業からどの企業を提案するかを決める構造について少し解説したいと思います。
人材紹介ビジネスを表すのに最もわかりやすい図はリクルート社のリボンモデルです。求職者と企業が、エージェント(リクルート社)が提供するサービスによってマッチングし、3者がWin-Win-Winとなる状態を表した図です。
この図の中で現在強い立場にあるのは求職者です。スキルが高いエンジニアは売り手市場で求職者が選択肢を持ちます。選ぶ立場にある求職者をエージェントは重要視するため、紹介しづらい/紹介しがいのない企業の優先度は下がります。
エージェント個社ごとに異なりますが、業界と企業規模でコンサルタントが担当する企業が分かれていることが多いです。例えばLayerXであれば、概ねはIT企業(自社サービス、Fintech、AI等)で人数規模300人以上1,000人未満などのカテゴリーで担当コンサルタントが決まっており、そのコンサルタントは同様の競合企業を数多く受け持っているという形になります。その中から優先的に求職者に自社求人を提案されるようにならなければなりません。
エージェントが求職者に企業を提案するかを決める構造としては、基本は以下によって紹介する優先度・注力度が決まります。
平たい表現をすると、採用に積極的で選考を通過しやく、高いフィーを払ってくれて、求職者が行きたいと思ってくれる魅力的で紹介しやすい企業、ということになります。ウェイトとしては選考通過の容易さが最も重いです。
企業の魅力
企業の魅力を構成する要素は、知名度やブランド力、働きやすさ/働きがいがある環境、競争力のある報酬水準などがあります。企業の知名度やブランド力が高ければ、求職者がその企業に興味を持つ可能性が高まります。エージェントは候補者に説明する際、企業の魅力を強調しやすく、応募に前向きになってもらうことができます。報酬水準が高いとオファー承諾率が高まるので効率が上がります。
また、エージェントから企業への定性評価として、企業側のフロントに立つリクルーターと一緒に仕事がしやすいかという点も重要です。エージェントとの関係性の質を高めるための大きな理由の1つはここにあります。
フィーレート(料率)の高さ
これはより料率が高い企業で求職者をマッチングさせることが優先されるという意味です。
選考通過の容易さ
エージェントは、その企業の選考プロセスや採用基準がどれほど高いかを考慮します。基準が高い企業では、候補者を多く送っても不採用になる確率が高く、効率が下がります。そのため、エージェントは求職者のスキルや経験に対して選考通過の可能性が高い企業を優先することが多いです。
選考通過の容易さを構成する要素としては、必須要件の基準が高すぎない、採用人数が多くいつまでに何名採用したいか明確、選考回数が少ない、過去の採用決定実績、選考結果通知のスピード感がある、などが挙げられます。
エージェントからすると、紹介している企業で見送りになっている間に求職者が自身で利用していたスカウトサービスや別エージェント経由で転職が決まるような機会損失は避けたいです。
また、担当コンサルタントも営業なので自身の月次目標に対してヨミが立てられる状況を作っていきたいため、選考通過の容易さは重要な点になります。
※構造についての自分なりの説明であり、リボンモデルやエージェントビジネスを否定する意図はありません。
エージェントエクスペリエンス(Agency Experience)の必要性
IT業界全体の人材不足により、どの会社も多くのエージェントと取引をするようになっています。大手IT企業やメガベンチャーでは、エンジニア特化のエージェントのみではありませんが、合計で200社以上のエージェントと契約していることもあります。
多くの企業の中から優先的にイメージされ、良い方を紹介したいと思われる関係性を築くには良質なエージェント紹介体験、エージェントエクスペリエンス(Agent Experience)の提供が必要だと私は考えています。
エージェントエクスペリエンス(Agent Experience)の詳細については以下noteを参照ください。エージェントリレーションについて教科書となる内容です。
記事内では、エージェントから見た企業側の好ましい好ましくない振る舞いがGood action/Bad actionとして記載されています。
どのようにエージェントエクスペリエンスを高めていくことができるかについて一部記事を引用しながら私見と、具体的に行っているアクションをここから紹介します。
エージェントから見た好ましくないアクション
好ましくないアクション=記事内「Bad action」はアンチパターンなので、もし自社がこれを行ってしまっている場合は改善していきたいところです。
アクションに加えて企業側のスタンスを付け加えるとすると「徳の低い駆け引きをしないこと」に尽きると思います。
エージェントはプロフェッショナルサービスの提供者であり、前提として取引先企業の採用成功のためにサービス提供しています。そのプロの仕事にリスペクトを持ち、小賢しい駆け引きをせず、できる限りの情報提供を行い、しっかりとフィーを払うことが最も合理的だと私は考えています。
フィーレートが低いことの弊害として、お金の出し渋りをする企業という印象をエージェントに与えます。前述の通り、他社より紹介するインセンティブが低いという前提となり、求職者へ競争力のあるオファー金額が出せないのではという懸念も与えます。こうなると、エージェントは優秀が故に高い報酬を受け取っている方やミドルハイクラス以上の方の紹介をしづらくなり、企業側としては求める紹介がもらえず、両者共に不幸な行き詰まりが起きます。そして、このあたりの具体的なフィーレートやオファー金額の多寡については性質上、情報が流通しないため、企業は気づかないままエージェントから見放されていることがあります。
実践している具体的なアクション
具体的な施策や特に注力している取り組みをいくつか紹介します。
■定例の開催
前述のBad Actionリストにあっても、これは必要なものとしてやっています。
事業環境や組織状況が目まぐるしく変わるスピード感のある企業では私は必要と考えています。一部エージェントを対象に隔週30minで開催し、事業と組織のアップデートや採用進捗とその振り返りについて話します。現在定例を開催しているエージェントは私が依頼するより先に先方から定例の提案いただきました。
お取引をしているコンサルタントの中には2週間の間のサーチや求職者との面談でLayerXについて説明しづらかったところ等をフィードバックしてくださります。非常に有益で参考になります。
以下の記事内で加藤恭輔さんが話されているような内容を初回に質問し、継続的な定例で自社がどのように改善アクションによって解像度を高めていただけているか、説明はしやすくなっているか振り返ると実りがあると考えています。
「今一番紹介したい会社、紹介している会社はどこですか?」
「なぜそこに紹介しているのですか?」
「そことうちの違いはどんなところですか?」
「もしうちが紹介したい会社ランキングNo.3以上に入れるとしたら、具体的に何がどう変わることが必要ですか?」
「うちを紹介する時に詰まるポイントってどこですか?」
■エージェント向け説明会
エンジニア採用でご支援いただいているエージェントを対象に一斉にご参加いただく説明会です。説明範囲が広範になりますが、開発組織の全体像、私から依頼する全てのポジションの概要を理解いただく会としています。開催頻度は半期に1回程度です。いつもエージェントと対面している私ではなく、役職者からの熱意も伝えたいので、バクラク事業部 部門執行役員 VPoEの@makogaさんに話していただき、Q&Aの時間を設けるようにしています。
■個社エージェント向け説明会
自社に対して体制を組んでご支援いただいているエージェントや、多くのキャリアアドバイザーの方がいてキャリアアドバイザーの方に解像度を高めていただくことによってより良い紹介につながるエージェントを対象に実施しています。事業、組織、タレント、企業文化について1つずつ特徴的なストーリーやエピソードを覚えていただけると理想です。個社に対して解像度の高い会をするので、選考を担当するEMやmakogaさんから詳細なQ&Aを行います。
■資料提供
上記説明会ではエージェント用に資料作成をします。ポジションの詳細、図解した選考フロー、エンジニア採用における会社の魅力を整理して記載していたり、求職者の関心に応じて共有いただきたい発信をまとめた資料集、担当いただくコンサルタントにご一読いただきたい資料集(羅針盤や代表福島のnote等)、私の連絡先とSpir打ち合わせリンクなどを含めています。
また、求職者に自社を説明いただけるようにするための資料として、以下の動画URLとそのスライドのPDFを共有してお使いいただけるようにしています。
(※以下の動画は2024年4月時点の内容になります)
小さいですが具体的なテクニックでは、お互いが普段使っているスカウト文章や検索軸を提供して意見交換をします。
意図としては、エージェントがサーチするサービスも基本的にはLinkedInやビズリーチで私も同サービスを利用しているため、同じプラットフォーム内で一定どう住み分けるかや、お互いの返信率の改善のために情報交換を行います。
※求職者に関わる内容は性質上noteで公開できないとしたので割愛します。
スタートアップのエンジニア採用をエージェント経由で行う場合の考え・設計
エージェントとの取引におけるベースとなる考えや予算、設計について関心を持っていただくことが多かったので、ここからはその私見を書いていきます。
エージェント経由での採用予算の引き方
はじめにエージェント経由での採用の人数比率と依頼ポジションを定めます。仮に年間の採用人数の4割をエージェント経由とした場合に、その4割に含まれるポジションの等級から入社時年俸を決め、フィーレートの35%をかけることで形になります。
※注:私は現職で採用予算を自分で引いていないので、記載の内容はLayerXの予算の引き方と関連するものではありません。
流入経路から何割をエージェント経由とするか
次に何割をエージェント経由とするかですが、従業員規模と前年度実績を判断材料として決めます。
目安として100名未満のスタートアップではエージェント経由での採用人数比率は1割未満など低く、100~300名は2~4割、300名から1,000名に向けては規模拡大に比例して3~5割程度まで高まると思います。
個社ごとにステージや事業と組織の特性が異なるので、この範囲が比率として最適であったり範囲内に抑えるほうが良いとするものではありません。
これからエージェントとの取引を始めるというスタートアップであれば、ステージや採用人数によりますが計画に対して15%程度の比率で引いてみると良いと思います。
反対に、エージェントとの取引が活発だがコスト観点で依存度を減らしたいという企業であれば、エージェント以外のチャネルの比率を15%引きあげる、例えばソーシングとリファラルで13%、イベントで2%あげて、もし余裕があればRPOにソーシングを依頼するといった形で計画を検討するのが現実的かと思います。エージェントへの意識はあまり変えず、他のチャネルへ注力を増したいところです。
下記の調査のようにエージェントに対して予算を割く資金力のある大企業でも、現在多くがエンジニア採用目標未達の状況のため、エージェントと取引が活発な企業もエージェント経由での採用は厳しくなってきていると言わざるを得ません。そのため、エージェントに「加えて」ソーシングやリファラルを強化する考えが現実的には必要だと思えます。私はエンジニア採用に関して、計画上の採用人数が同じだったとしても昨年度と同等の予算で昨年度と同数の採用を実現することは年々難しくなっていると感じています。
アクティブに取引するエージェント数
自分の経験からは、エンジニア採用に限定すると15~20社とのお付き合いが同時並行では上限に近い肌感です。この中でも連絡を取る頻度にグラデーションがでます。広げて紹介をたくさんもらえれば良いという考えでなく、あくまで前述のような形で相互のフィードバックを主としたコミュニケーションが取れる範囲に留めることが重要だと考えています。
私がメガベンチャーでEnglish Speakerも含むエンジニア採用をしていた時でアクティブは15社ほど(基本は両面型で半分は外資系エージェント)でした。この15社は、前述のエージェント向け説明会へ参加を依頼する企業が対象の範囲です。その中から3~4社と定例を行うような密な連携をしていました。
現在はお取引させていただいている全体数はもっと少なく、数社との取引を密にさせていただいています。
戦略、戦術を共有し、パートナーとして共栄する
最後に私が理想と考えるエージェントとの関係性は「戦略、戦術を共有し、パートナーとして共栄する」です。エージェントとの関係を単なる取引ではなくパートナーシップと位置付けることで、スタートアップは採用力を強化し、エージェントと共栄していくことができます。
企業のビジョンや採用ニーズをエージェントと共有し、共通の目標に向かって採用戦略・戦術をすり合わせることが大切です。ポジションの要件や優先度を共有し、定期的なコミュニケーションを通じてエージェントの専門性を提供いただきながら、スタートアップはタレントとの接点を最大化し、生産性の高い採用を実現していくことができます。
また、長期的な視点で信頼関係を築くことにより、企業とエージェントは共に成長を続けることが可能となります。エージェントの市場知識と企業の実行力や働く場としての魅力の改善を組み合わせることで、より良い候補者に出会える確率が高まり、採用プロセスの効率化も進みます。このような共栄関係を構築することで、スタートアップはスピード感を持って優秀な人材を獲得し、エージェントも長期的なパートナーとして価値を発揮し続けることができます。
We're hiring!
情報が流通せず、ブラックボックスになりやすいエージェントリレーションについて書いてみました。エンジニア採用を担当するリクルーターのみならず、IT企業の経営層の方にも読んでいただけると嬉しいです。
この記事を読んで何かのヒントを得ていただけるようなものがあれば嬉しいです。より詳細を知りたいという方は情報交換歓迎です。思い浮かびつつも書けなかったことも多かったので、それらを誰かに話せたら良いなと思っています。記事への感想もお待ちしています:)
働く場としてのLayerXにご関心ある方は以下よりお気軽につながりやメッセージをお送りください。役割上、ソフトウェアエンジニアやEMの方、リクルーターの方とはスムーズにお話できると思います。
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