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生成AI時代のリクルーターの役割についての私見
LayerXでTech Recruiterをしている@akyunです。
昨年から採用業務における生成AIの活用について調べたり、考えを巡らせたりしてきましたが、想像以上に急速なペースで採用業務の自動化が進むと感じています。率直に言えば、今の自分の仕事の大半が生成AIで代替される可能性があり、「このままでは技術的失業するかも」と危機感を覚えました。
メディアではホワイトカラーの多くの業務が生成AIによって代替されるといった話がなされますが、より具体的にホワイトカラーの中で「リクルーター」の業務がどのように生成AIに置き換わっていく可能性があるか、“採用業務の中で人にしかできないこと”とは何なのかを、言語化してみることにしました。
ちなみに前回は共催で技術系イベントを開催する際の企画書テンプレートと段取りのHowについて書いています。そちらも良ければご一読いただけると嬉しいです。
前提
このnoteの想定読者は、生成AIの進化と共存しながらどのように自分たちの実務や役割が変わっていくのかを考えたいIT業界のリクルーターの方、リクルーターをマネジメントするHRの責任者や経営陣の方をイメージしています。
日頃は候補者さんと敬称をつけているのですが、この記事では表現として冗長なので敬称略で統一します。
既存の採用業務の6割、もしくはそれ以上が生成AIによって自動化できる
現在多くの中途採用チームが膨大な時間をかけて行っている採用業務は以下です。
調整業務(日程調整、Q&A回答、社内コミュニケーション)
ソーシング(候補者サーチ、文章作成、送信、返信対応)
面談(カジュアル面談)
調整業務は採用アシスタントの方が、ソーシングはソーサーが、面談はリクルーターがといったように分業して人が担うこともある業務ですが、これらのほとんどは生成AIによって代替可能です。国内外のサービスなどを紹介しながら私見を書いていきます。
調整業務は9割自動化可能、1割の例外対応は人の手で
調整業務には日程調整、候補者からのQ&Aの回答、社内コミュニケーションなどが含まれます。
調整業務のほとんどが現時点の技術で自動化可能なもので、2025年にはATSに生成AIが機能的に組み込まれるようになる、もしくは新しいサービスの登場によりその流れは加速します。人が行う調整業務は、例外的な個別対応と自動化した業務の運用監視が中心となります。
日程調整は、候補者と面接担当の予定をあわせてオンライン会議用URLを発行したり、オフィスで面接実施する場合は会議室の予約などを行います。現在は多くの企業では日程調整用のSaaSを利用して行われています。
日程調整用URLを候補者に送るというシンプルな業務のため、この業務はATS(採用管理ツール)から「候補者Aさんを、社内Bさんとの面接(60min, オンライン)で調整して」と生成AIに指示出しすれば調整業務を代行することは技術的に可能です。おそらく2025年内に既存のATSからこういった機能の提供が開始されると思います。
海外のサービス事例ではGoodTimeが挙げられます。GoodTimeはAIによる面接スケジューリング、業務フローの自動化プラットフォームで、面接担当者の空き時間やカレンダーに入力されているキーワード、GoodTimeの登録情報を基に面接を自動で振り分けて日程調整を完了させるサービスです。
設定した面接担当者情報に基づいて有給、出張、アポイントなどの予定を避け、1週間の面接設定上限数を考慮して日程調整を自動で振り分けてくれます。人事は、求職者へのリマインドや日程確定などの通知など定型業務を自動化できます。
候補者は専用ページで面接に必要な情報を閲覧して準備を行ったり、ワンクリックでのリスケジュール、人事へのチャット問い合わせやアンケート回答ができます。
Spotify、HubSpot、Shopifyなどグローバルなテックカンパニーにも導入されています。
候補者からのQ&Aの回答は、採用サイトを読んだりしただけではわからない内容の質問をいただくことがあり、それに対する回答を行います。現在はリクルーターが回答したり、HiringManagerに確認して回答しています。
これは個社の情報を与えた生成AIに対して自由に質問できるChatbotに質問してもらう形で実現可能で、すでに採用サイトに実装している企業もあります。
わかりやすい例はNotion AIで、社内ドキュメントから必要な情報がどこにあるか教えてもらったり、実際に探している情報をチャットで直接教えてもらえたりします。このNotion AIのような形で、企業が候補者に開示する情報をChatbotで人が返答するのと変わらない品質で対応することが可能になります。
社内コミュニケーションは、候補者についての申し送りの共有や、滞留している採用タスク(例えば面談メモをATSに入力してもらう等)のリマインドです。リマインドは自動化できますしATSにリマインド機能がついていることもあります。申し送りの共有は人から人に対して特記事項の共有などを行うため残り続けそうな印象を持ちます。
リクルーターとして生成AIによるATSの進化には大きく期待を寄せたいところで、SlackでAさんとBさんの面談をX月X週に調整してと投げたら日程調整業務を自動で完遂してくれる機能が早く実装されるようになることを願っています。調整業務はその業務単体で価値を生めないのに対して人為的ミスが比較的に起きやすく、そのミスによって候補者や社内からリクルーターが信頼を失ってしまう業務なので、ミスのない自動化がなされることが期待されます。
ソーシングは急速に価値が出しづらくなっていく業務に
ソーシングは、ビズリーチやLinkedinのようなスカウトサービスを使って、候補者をサーチしてリストを作成し、スカウト文章を作成して送信および返信対応などを行う業務を指します。このソーシングはリクルーターが担っても価値が出しづらい業務になると考えています。
すでにほぼ自動化を実現するMoonhubのような海外サービスが出てきています。Moonhubは、10億人以上の公開プロフィールを学習しており「ベイエリアにいるアイビーリーグ出身者を抽出して」といったプロンプトを入力して人材を探したり、面談の日程調整までを自動で行ってくれるAIエージェントです。
国内でもスカウトを送る候補者のリスト作成自動化、スカウトメッセージ作成機能を持つサービスの登場や、スカウトサービスが生成AIによるスカウト文章生成機能をリリースしていたりと、ソリューション提供が進んでいます。
そもそも、これらのソリューションが出てくる以前より、採用コンサルティングやRPO(Recruitment Process Outsourcing)などの名目で採用業務から切り出される代表的な業務はソーシングでした。ソーシングは業務の単位がそれ単体で完結していて切り出しやすく、ノンコア業務として位置づけた企業が多いという文脈がありました。ソーシングの自動化サービスがどんどんと登場してくると、それら自動化サービスとスカウト代行の競争が起こり、コストメリットで自動化サービスが勝っていくという形となりそうです。
個人的に、このソーシング自動化の流れはスカウトサービスを衰退させる可能性のある強い力を持つように捉えています。
生成AIはすでにリクルーター(例えば私)と同等かより詳細な内容を含んだパーソナライズされたスカウト文章を書きます。受け取る側は生成AIで完全自動化された文章をもらうことはあまり嬉しい体験ではないと思う人もいるかもしれませんが、人間が書いたスカウトと生成されたスカウトの見分けがほぼつきません。そうなると生成AIでスカウト文章を生成したほうが企業は工数削減でメリットが大きいので、生成AIによるスカウト文章作成は加速すると考えられます。
現在スカウトサービスでは(エンジニア特化型などではなく、特に大手も利用する総合型で)競争激化によって返信率の低下が一部見られます。理由はシンプルで、ユーザーが受け取るスカウト数が多くなったからだと考えられます。今後も採用難によってこの競争は激しくなる一方です。
ここに生成AIを活用して自動化含め効率的にガンガンとスカウトを打つ企業が現れると、ユーザーが受け取るスカウト数は更に増えるので、企業のリクルーターが自分でスカウトを打つ工数対効果、費用対効果はどんどん合わなくなっていくと考えています。
話がそれますが、スカウトサービスを提供する各社には生成AI時代に適した企業、ユーザー、サービス提供者の3社が最もWin-Win-Winとなるプラットフォームづくりをしていただけることを期待しています。
繰り返しになりますが、ソーシングの自動化は可能で、すでに自動化を実現するサービスは海外、国内共に登場しはじめている。ソーシングを事業会社のリクルーターが時間を投資して行うことは合理的でない状況になってくる可能性がある、ということを強調しておきたいと思います。
人間にしかできないと考えられていた面談もAIアバターが代替可能に
私は面談は人間にしかできないと考えていましたが、HeyGenで生成できるAIアバターを見てその考えが変わりました。HeyGenをご存知ない方は、ぜひHeyGenで適当なデモのAIアバターを選んで会話してみてください。日本語でも綺麗にリップシンクされており仕草も自然で、スムーズに会話できます。 人と会話しているのと見分けがつかなくなる水準に到達するのは目前です。
![](https://assets.st-note.com/img/1736068764-qUQGS9zth2vWunlbk67spH3r.png?width=1200)
このHeyGenでは自身で動画をアップロードして編集したり音声のセリフを与えることで、AIアバターに話させることも可能です。AIアバターをリクルーターやHiringManagerなど自社の実在する人にして、会話の内容を与えれば、自然な会社説明が可能です。生成AIによってインタラクティブな会話も可能なので、あと少し精度が上がればカジュアル面談まで代替可能です。
AIアバターによるカジュアル面談の代行は、日程調整の必要がなく、いつでも何名でも同時に面談可能で、対応品質も均質にできます。
候補者側に立った場合、面談相手がAIアバターであることで集中して会話するモチベーションが上下することは人によってありそうですが、制限時間を気にせず確認したいことを自由に聞いて説明を受けることができます。技術的な内容も話せるように設定しておけば、HiringManagerと話すことと変わらないレベルで事業、技術、組織についてAIアバターが説明することも可能になります。
ここで強調したいことは、人にしかできないと思われていた面談、特に企業側の説明的な時間が一定の割合を占めるカジュアル面談は生成AIによって代替されうるということです。過渡的にAIアバターによる面談実施に賛否は分かれつつも、候補者と企業両者によって合理的な方法になりうると考えられます。
生成AI時代のリクルーターの役割とは
現在のリクルーターの主要業務の多くが技術の進化によって自動化できることがわかっています。ただ、現状はまだ過渡的で生成AIによって完全な自動化はできない(そして人が担い続ける領域がある)中で、リクルーターの私たちはどのような役割を担っていき、どういった価値を発揮していけばいいのかを考えてみました。私が考える今後重要度が高まる役割・業務は下記です。
生成AIの活用を前提とした業務設計(業務コンサル的な役割)
場づくり、ネットワーキング推進
食事をしてお互いを社会的に知り、握手して体温を伝える
生成AIの活用を前提とした業務設計(業務コンサル的役割)
2025年のリクルーターには暗黙知、経験、勘で行っている業務を言語化・構造化し、生成AIフレンドリーなオペレーションを構築して生成AIに業務を代替させていくことが求められます。
多くのオペレーションは自動化しやすいように構造化されていません。まずはそれら業務を構造化してオペレーションルールを設定し、シンプルにしてみることが重要です。ある日急に自分に何かあった時に他の人が運用できるようにしておくという事業継続性の観点でも重要です。
次に構造化された業務はツールを使って自動化できないかを考えていきます。そして、多くのタスクは生成AIのみならずGAS、Zapier、Slack BotやWorkflowなどを使って自動化していけることに気づくことができます。LayerXではそれら自動化を行うことを「Bet Technology」として称賛しています。以下はそういった自動化の事例の紹介になります。
生成AIを採用活動に活用するためのポリシー策定、そのポリシーの社内外への浸透、自社の選考に進んでくださる候補者へ同意を得ること、生成AIを採用活動に活用することを前提として候補者体験設計をすることは、今年リクルーターにとって重要な業務になると考えています。実際にLayerXでも生成AIを採用活動に活用するためのポリシー策定についての議論をはじめています。
特に候補者体験の設計は重要で、例えば書類選考をAIが行う、AIアバターが面接を行うなどの仕組みを作ったとして、不合格となった候補者がAIが導き出した不合格の理由の開示を求めた時にそれをどう考えるのかや、自分がリファラルした友人を自社選考を担うAIが不合格と判定した場合どんな気持ちになるのかといった点に向き合って自社なりの結論を出して体験設計をしていく必要があります。
場づくり、ネットワーキング推進
採用活動の原点回帰のような話になりますが、人と人とのつながりはAIに代替できないので人と会うことの価値が低くなることはありません。(むしろより重要性が高まる可能性がある)
新しい人とのつながりが生まれる場を作ること、すでにつながりのある方との関係性を深くできる場を作ることで、人とのネットワークという価値(資産)を作ることができます。
オンライン上で自社や社員を知ってもらうことから、さらに深くオフラインでも知ってもらうことで、より働く場所として自社を認識してもらうことができると思います。この場をつくること、社内外のコミュニケーションを生み出したり促進する旗振りをすることは今後も重要なリクルーターの役割となってくると想像できます。
自社の取り組みになりますが、LayerXでは技術イベントを半年で39回実施しました。すべてを採用のために行っている訳ではなく、自社の取り組みを技術コミュニティに還元していくことや、自分たちが知的に楽しいからやっている部分もありますが、そういったオンライン/オフラインの交流からLayerXを働く場所として認知いただけることもあります。
食事をしてお互いを社会的に知り、握手して体温を伝える
採用プロセスが生成AIに合理化されたとしても、人が入社を決めるのは人という点は薄れません。食事をしてお互いを社会的に知り、まっすぐに夢を語り、あなたと一緒に働きたいと伝えて握手をする、こういった時間をしっかりと作るためにAIによって自動化を進めていくことが理に適っていると考えられます。
生成AIによって合理化を進めてより人が人らしいことに時間を使うことができ、感情報酬のある組織づくりをすることが大事です。
人事業務の至るところでAIの提案を人間が解釈する時代に
あるサービスのAI機能を利用してみると、私は自分の経験から意外だと思える提案をAIから受け取りました。「おもしろいな」と思い、なぜだろうと考えたくなりました。私が経験則から意外だと思うことには必ず私のバイアスが含まれていますが、AIはバイアスなく提案してくれます。なぜその提案をしてくれたのかを考え、ここに新しいヒントがあるように感じました。
非常に高い次元では、囲碁や将棋でAIが考えて示した最善手を人間が検討するということが行われています。これが日常の業務レベルで起こる時代になってきていると言えます。AIが与えてくれる示唆を楽しんで、自分たちの業務の質を高めていけることは今後重要なマインドセットになりそうです。
We're hiring!
今回は、生成AI時代のリクルーターの役割について自分の考えを書いてみました。この記事を読んで何かのヒントを得ていただけるようなものがあれば嬉しいです。より詳細を知りたいという方は情報交換歓迎です。記事への感想もお待ちしています:)
働く場としてのLayerXにご関心ある方は以下よりお気軽につながりやメッセージをお送りください。役割上、ソフトウェアエンジニアやEMの方、リクルーターの方とはスムーズにお話できると思います。
情報交換やよもやま話でもカジュアルにお話ししましょう:)
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