見出し画像

彼がそこに居る理由(わけ) #PPSLGR

注意:CODVID-19ネタが含めれています

「ホイズゥさ、確かにみなみの国に住んでるよね」
「あぁ?」

 アクリル板の向こう、ガンマニアのスカルがホイズゥなんか言ったが、周囲の喧囂と、アルコールで脳が鈍くなったせいで理解するまでに答えるまでに8秒要した。

「うん、そうだぜ」
「しかし未だに日本は国境を解禁していない」
「ああ、そうだな」
「じゃあホイズゥは何で居るんだ?」
「……」

 ホイズゥはCORONA瓶を傾けて一口飲んだ。ガラス瓶の中に気泡が昇る。

「誰も気付かないと思ったぜ。知りたければ教えよう」

 アクリル板をどかし、ホイズゥは上半身を乗り出して右頬をスカルにさらけ出した。

「殴ってみてくれ」
「は?」
「遠慮いらないぞ」
「あんたに遠慮なんかしてねえよ……」

 スカルがバーカウンターの方へ振り向くと。バーテンダー兼バーMEXICOの管理AI人格のMasterが左肘がカウンターについて、右手がガンホルダーに添えながら鷹のような油断ならない目でスカルを見つめている!

(ウッ!)

 スカルは肝が冷えた。とある乱闘事件以来、ここは店内暴力に対して厳しく取り締まるようになった。暴行が発見された場合、note運営に与えられた権限によりマスターが即座に懲罰を下せる。その多くの場合は膝を銃でぶち抜いて破壊し、車椅子人生をプレゼントすることになる。スカルの脳裏に片足の支えが失い、崩れ落ちる記憶が蘇った。彼は今まで2回もマスターに膝を破壊されたのだ。

「やめとくわ、もう手術したくないし……」
「今誰か『殴ってくれ』って言った?」
「「サカキ!?」」

 会話に割り込んだのは緑色のジャンプスーツの上半身をはたけて、屈強な両腕をさらけ出す自動車エンジニアじみた風貌のパルプスリンガー、サカキだ!彼女は荒くれものが集まるパルプスリンガーの中でも特に激しい方で、ホイズゥとスカルが思わず警戒した。

「いや、ホイズゥは国境が解放してないのになぜ普通にいるのかって聞いていたら、ホイズゥが殴ってみろって」
「マジ?ホイズゥはマゾの雄豚になった?」
「そうじゃねえ、もしかしたら3回目の膝破壊が見れると思ってのちょっとスカルをからかっただけだ」
「へー、じゃあ殴るよ私が」

 アルコールで自制が緩んで、暴力への渇望でサカキの目が爛々と光った!

「えっちょっと待」
「問答無用!デリヤーッ!」
「グワァ!」

 顔面にサカキの右フックが炸裂!ホイズゥはふっ飛ばされて床に2メートル転んでから止まった。

「やばッ」

 スカルは反射的にカウンターに振り向いた。マスターは肩をすくめて、ポケットから煙草の箱を取り出しただけだった(ちなみに店内は健康増進法に沿って禁煙になってるが、マスターを指摘する命知らずのアホはここに存在しない)。彼は女性に甘いのだ。

「うお!?なんだなんだ?」
「乱闘かおい!?」
「よせバカ!」
「いや、もう大丈夫だ」

 よろけながら自分の席に戻るホイズゥ。殴られた頬は仄かにクリスタルグリーンに光って、肉色の繊維が蠢いて皮膚を再生していく。

「なっ」「新手の怪異か!?」

 訝しむサカキとスカル。

「怪異じゃない、けど人間でもない」
「どういうことだよ!?説明しろホイズゥ!」スカルは腰にあるホルダーに手を添えた。
「言うから手を銃から離れろ。簡単に言うと、今あんた達の前に居るのは本当の俺ではない、アヴァターなんだ」
「アヴァター」
「noteのそこら中にいる管理AI人格の技術を応用で、本人に基づいてアヴァターを構築して遠隔操作している。怪我してもさ、この通り」

 傷口が徐々に塞ぎ、元通りのハンサム顔に戻った。

「ワーオ」サカキが感服した。「こんな技術があるなんて知らなかったぜ。私もアヴァター作ろうかな」
「残念、生身で来れるユーザーはこのサービス使えないらしい」
「チェッ、逆おま国かよ」
「活動範囲はnoteの領域内だけ。つまり新宿で辛い麺食えないしショッピングモールに行ってゲームもできない。note内なら飲み食いはできるけど生身に戻った時の虚しさときたら」
「ちょっと質問」
「なにスカル?」
「アヴァターつーことは、多少カスタマイズできるってことか?その自慢なクリス・エヴァンスのハンサム顔にクリス・ヘムワーズのマッスルボディ、クリス・プラッドのヒューモラスがカスタムで盛ったんじゃないか?」
「アッハ!つまり本当のホイズゥは暗い部屋でVRゴーグルを被って唾液を垂れ流すビール腹のおっさんってことか!キャハハハ!想像しただけで面白い!きひひひひ……ふ、腹筋か、つっちゃうッ!」
「それは……」

 ホイズゥは口を開けた途端、黒ずくめの影横から割り入って会話を遮った。

「よぉお前ら!noteのAIの話か?」
「「レイヴン!」」
「説明なら任せろ!俺は詳しんだ!」

 アルコールで自制が緩んで、彼の目は説明欲に爛々と輝いている!

「やべぇ、逃げろ!」
「捕まったら超短スクロールバー長文を聞かされる!」
「おい逃げんなコラァ!そっちが始めた話題だろうがー!」

 各々の方向へ走り出したホイズゥとスカルにレイヴンが2分身して追跡を開始した。そしてサカキは。

「つ、つっちまった。アザラシのポースアザラシのポース……」

 アザラシのように俯ぎ、上体をエビ反りの起こしてストレッチを始めた。

(終わり)


本家パルプスリンガーもよろしく!



当アカウントは軽率送金をお勧めします。