辛い麺メント IN TOKYO [EPILOGUE] #ppslgr
「なぁ飲みもの来るの遅すぎない?」俺は空になったジョッキを見て言った。「注文してからもう……どれぐらい立った?五分?」
「人手が足りないのよ。日本全体の人手が不足すぎる」とR・Vが呟いた。なんか感傷的な気分に陥っている?もしかしてもう酔ってる?
あのあと、我々はケジメと称してM・Jを斥侯として遣り、何軒もの居酒屋に聞いた後、やっと五人が入れる店を見つけた。フライデーナイトだけあって店内は混んでいる。スタッフの案内に従い、五人の男が3メートル²もなさそうな個室に詰め込まれた。ちなみに王子は銀座の方に用があると、ダーヴィは魔の気配を感じたと言って二人ともニンジャのようにビルの間を跳んでいった。忙しい奴らだ。
「それよりさ、俺に一体何があったか教えてくれない?気になるけど。身体がすげえ疲れたし」M・Jは肩の筋肉をほぐすように腕を回した。
「そういうならM・Jはどこまで覚えているんだ?」
「担々麵を食べてむせたところかな」
「じゃあ殆ど覚えてないやん」
「知らない方がいいこともあります。語りだしたら、M・Jは自分ではないけど自分が犯した非道の数々で罪悪感に押しつぶされてしまうでしょう」
「罪ぃ!?俺犯罪したっ!?」
「尚更知らない方がいいぜM・J。ビリー・ミリガン事件を鑑みると、解離性同一性障害で押しと通せばまた勝訴のチャンスがある」H・Mはそう言い、ジンジャーエールを啜った。彼は法律に詳しいのだ。
「起訴されんの俺!?はぁー、禁辛い麺するかな……」
「そう気に病むなM・J。今日はフライデーナイトだぜ?しこたま飲んで、いやなこと全部忘れよう!」
「ありがとうA・K。てかさっきから端が止まらないね。ここのたこわさそんなに美味い?」
「仕方ないでしょう。あむ」俺は小皿に口をつけ、たこわさを掻きこんだ。「本当は焼き鳥とか唐揚げ食べたいけど、R・Vはさっきからたこわさと枝豆しか注文しない」
「店の込み具合から見て、それが最速で最適だと思ったからだ。しかしそれでもなお注文が遅い。Sigh……日本は人手が足りなさすぎる……」とR・Vが呟いた。なんか感傷的な気分に陥っている?もしかしてもう酔ってる?
ガラガラ、引き戸が開かれた。
「お待たせしました、生ビール4つとジンジャーエール一つでーす」
「ありがとうございます。早速ですが生ビールとハイボール四つずつお願いします」
「おいA・K」
「かしこまりました。ビールとハイボール四つずつですね。少々お待ちください」
ガラガラ、店員が引き戸を閉じて去っていった。
「おいA・K、なに勝手注文したんだ」
「勘違いすんなよ」俺はビールジョッキを掴んで、一気に半分まで飲んだ。「ガァーッ!たまんねえな!あれは全部俺の分だ」
「アルコホリックだなおい」
このあとはR・Vがナイフコレクションを披露したり、M・Jが密かに持ち込んだ激辛ポテトを分けたり、他のパルプスリンガーの愚痴を言ったりして飲み会が盛り上がった。流石に八杯の飲みのもが多すぎたので皆でシェアした。
「ウィー。それで、A・Kは明日どうすんの?」M・Jが尋ねた。
「コミコンだな。コミションで頼んだイラストをもらいに行くんだ」
「いいね。イベンとを楽しでんじゃん。俺は少し休んでからブックフリマ―の準備するわ」
「そういや日曜日だっけな。行けたら行くよ」
「『行けたら行く』はこの世に一番信用ならないけど待ってるよ」
「皆がちょうど酔って来たところで、A・Kさんから皆にプレゼントがあります」
「わーい」
「おれはジンジャーエールしか飲まないので酔ってませーん」
俺はバックパックから1ハンド、6本の缶ドリンクを取り出して皆に配った。
「なにこれ?くろまつ……すな……つかさ?」
「黒松沙士っていうんだ。日本人から飲む湿布と恐れられている。飲んだ後はぜひ感想を教えてくれ」
「ありがとうございます。帰ったら試してみますね。私からもA・Kにあげたいものがありま」
S・Gもまた自分のリュックから四方形の箱を取り出した。
「A・Kといえばイールですよね。喜ぶと思って買いました。どうぞ」
「ウォー……」
俺はうやうやしく箱を受け取った。透明の蓋を通して、それがきれいに並んでいる寿司だとわかった。ただの寿司ではない、アナゴ寿司、つまりイールの寿司だ!
「マスター、これ以上嬉しいことないですよ……!」
「長くは持ったないから今夜中に食べてね」
「はい!」
「おれもあげるものがある。鉄道会社が作った煎餅だぞ」
「これは……いい醤油の香りだ。良き昔を思い出させる」
「わかってんじゃねえかR・V。この煎餅はなんと、鉄道会社を倒産から救ったこともあるんだ」
「すご」
🍜🔥🌶
「アー、そんじゃ、今日は皆さんが集まっていただけ、アリガトウゴザイマス。少々トラブルがあったが、おおむねに円満でした。それでは時間も時間なんで、解散しようとえーと、思いまーす。帰りに気をつけてください」
と店外でR・Vは気だるい口調で言った。
「楽しかったです!またバーで会いましょう!」
「いい辛い麺だったぜ!また食べに来るわ!」
「また飲み足りねえな。この付近にもメキシコバーがあるんだけど一緒に来る奴いる?」
「A・Kはどこに泊ってんだ?」
「詳細は教えないけど、チバあたりで」
「なら早くさっさと帰った方がいいぞ。終電が過ぎちゃう」
「マジか!?じゃあもう帰る。オツカレサマデシタ!」
四人と別れ、俺は駅に向かって歩き出した。先ほどの騒ぎがまるでなかったのように新橋の街が賑わっている。さすが日本、ヴァンパイアと生物兵器と超能力者と古き神が跋扈する国。妖狐ぐらいで何ともないようだ。駅前広場で何度も通ったメキシコバーを見上げて、名残惜しく駅に入った。
京葉線に乗って40分、泊まり先付近の駅に降りたのはちょうど11時になった。やはり飲み足りてない、それにイール寿司をより楽しみために飲み物が必要だ。アルコホリックに飢えている俺はコンビニに入った。冷蔵庫からビール、酎ハイ、酎ハイを掴み取り、レジへ。その途中にある物が俺の注意を引いた。
(What?)
赤い基調のパッケージに、「台湾ラーメン」のどでかい文字が書いてある。なるほど、これは名古屋発の台湾ラーメンてやつか。可笑しいね、台湾に台湾ラーメンがないのによ。
と思いつつも、実は前から味に興味があった。辛い麺みたいだしついでに買っておこう。俺はカップを一つバスケットに入れた。
『一つだけじゃ足りないだろ?最低は三っつ買っとけ』
ポトン、ポトン。バスケットの中に2カップの台湾ラーメンが入った。入れられたのだ。
「ちょっとなに勝手……ファッ!?」
俺は振り返り、勝手にバスケットに麺を入れた奴をみた。
「ワッ、ダッ、ヘゥ!?!!?」
鎧は所々に飾り気がなくなり、大幅に弱体化されたように見えた。狐を模した両肩鎧も失い、単純なプレートになっている。しかしその狐頭、間違いない。
マラーラーだ。
『幽霊でも見たような顔だな。言っただろ。辛い麺は二度も楽しめる。伏線を回収しに来たぞ』
(終わり)
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