【剣闘小説】万聖祭り、IRONの死闘2
「これは美味い!」「「乾杯!」」「ヌワァハハハ!」「おい誰だよ!エッセンスを吸った後の殻テーブルに戻したのは!?」「おお、済まない」
テーブルを囲んでいる幽鬼たちがスーパーが提供した供物ありつけていた。ある者が直接料理にかぶりつき、ある者は口の前に持ち上げてエッセンスだけを吸収している。エッセンスを失った料理と果物は水気と艶を失い、乾いた残滓になった。
羽付き兜を被った幽鬼のソーはアップルパイ最後に一切れをくちゃくちゃと咀嚼し、1999年のエスト・エストで流しこんだ。
「ふう、食った食った。さて、そろそろ行くとするか。なあへー君」
「んあ?」ソーの隣に、筋肉でできた山のような豪壮な幽鬼、ヘラクレスは五段のホールケーキに埋まっていた顔をあげた。「もう行くか?少々待ってくれ」
ヘラクレスがぱくぱくとケーキをかきこみ、手と顔についたクリームをも丁寧に舐めとった。
「よぉしじゃ行くか!」
「OH YEAH、目指せアーケードへ!」
ぶっ厚いカードバインダーを持って、ゲーセンが所在するB棟へ出発した。
「なんでわしらがァ!」
「女にされた上に慰めものされとるんじゃァーッ!!!」
「ひぇぇぇやめてください!」
アニメグッズショップで、アーサー王と織田信長の幽鬼がうずくまっている店員を蹴り入れている!
「……収まらぬ、この怒り。わしが女の気持ちを解らせてやろう」
「Let's衆道!どっぷりファックしてやろうぞビッチボーイ!」
「ほれ、エクスカリバーじゃ。お前の肉鞘に収まってもらおう」
「ギニェェェェ!!?」
「おうおう、アーサーとノッブ、今年もお盛んだわ」
「界隈でもっともファックされてきた歴史人物だ。さぞかし腹と股間が立っておろう」
前と後ろから店員を責めるアーサーと信長に手を振って、二人は進む。ナイフショップでは、宮本武蔵と沖田総司の幽鬼がナイフを吟味している。
「ほう、これが佐治武士の最新モデルか。どれ、武蔵が試してみよう。フッ」
佐治武士の鍛造剣鉈を水平に繰りだす武蔵、刃は吊るされている店員の喉を通った。一秒後、店員の喉に赤い線が浮かんだ。二秒後、線が広げて、血液がチョコレートファウンテンみたいに垂れ流す。
「ごぼぼぼ……」
自分の血が気管に入り、店員が溺れて、悶える。
「うむ、いい作りだ。日本がまたこれほどの刃を作れる職人がいるとわかると拙者も安心でござる」
「武蔵さんは和風推しすね。私はなんかこう、新しい物が好きな口ですね。みてくださいよこれ」
沖田総司は武蔵にTOPS社の肉切り包丁を見せた。
「この武骨とテックニシャンを合わせた感じ、かっこよくないすか?」
「それは刀剣というより調理器具では?」
「そんなことないですよ!ほら」
沖田は未だに噴血している店員の脳天に向かって、包丁を振り下ろした。額から顎にかけてパックリと切り口が開いて、色々零れた。
「こんなに切れ味がいいですよ~」
「現代の鍛冶は侮なれんのう」
沖田のパフォーマンスを見て、武蔵もTOPSのナイフは優秀であると認めざるを得なった。
「おうおう、剣豪ども子供みたいにウキウキしておるわ」
「解る。我もホームセンターのハンマーコーナーで稚児の如く目を輝かせた」
次のナイフに手を伸ばす武蔵と総司に手を振って、二人は進む。
「「サルー!」」
フードコートでは、掛け声と共に、ブラト・ツェッペリンよ酒吞童子が同時に店員の頭をチョップで刎ねとばした。頸動脈から血流が噴き上がる。
「「ワハハハハ!!」」
二体の幽鬼が切断面に口を当て、店員を快飲!死体が忽ち涸びていった。
「ぷはー!おいらの勝ちィ!」先に飲み終わったのは酒吞童子!
「クゥーッ!もう一回だ!」悔しがるブラド、飲み比べしていたようだ。
「おうよ!とことんの飲もうぜ!」
「「ONE MORE!!」」
二人は次の店員を掴み、首を刎ねた。
「鬼とヴァンパイアか、相変わらずやり放題だわ」
「ある意味一番ハロウィンを楽しんているのは彼らやもしれんな。うん?」
ソーはフードコートの隅に目を向けた。タコス屋が二本のマチェーテを振り回して幽鬼の侵入を拒んでいる。
「グリンゴ!ベンデッホ!店は触れさせねえぞ!」
「嗚呼、勇気ある人間もいる。心惹かれるな」
「昔の自分の思い出すぜ……」
タコス屋の健闘を祈り、二人は進む。
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「で、食事飲み会略奪殺戮が一回で全部済ませるのでここがワイルドハントに気に入れられてしまって、ハロウィンの時が必ずやってきて款待を求めようになったとさ。わかったか」
VAPEを吹かしながら、弩木が少女に概ねの状況を伝えた。
「いやわかんねえよ。何なんだよワイルドハントって」
「だからハロウィンの時期になるとあの世との境界線が曖昧になって」
「そっちじゃねえ!幽霊って本当に居んかよ!?」
「いたさ。私も見たまで信じなかったけど」
「しかも人を殺す?なんで警察を呼ばないんだ?」
「ハッ、警察が幽霊相手に出動するわけないだろ。政府が幽霊の存在を認めることになる」
「政府が幽霊の存在を認めていない?なんで」
「さあ。幽霊まで健康保険を使い出したら国庫が大変になるからじゃない?」
「幽霊が来るってのにおばさんがなんで出勤してる?BULLYされてる?」
「シフトを決める時に当たり引いじまったよ。心配しくれてる?きみ優しいね」
「っるせー!てかアタシ今めっちゃ危ないじゃん!帰るッ!」
「やめな」
かばんを拾って外に出ようとしている少女を、弩木は警棒を翳して阻止した。
「止めんなよおばさん。こう見えても喧嘩は強いんだ」
「喧嘩が強いか?本当か?」弩木は警棒で廊下を指した。「アレに勝てる自信が?」
警棒の先端が示す方向を見て、少女が息を呑んだ。
蒼白く揺らぐ人影が3つ。両手に短剣を持った痩躯の男、背が低い少年、そして二人の間に立つ、薙刀を提げて、鬼の角、天狗の鼻、般若の口を合わさった面を被った、着物姿の鬼女。三者とも、身体から白煙じみた冷気を発してる。
少女は身震いした。