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聖なる回転、ミラクル・スピン(タツノコプロは無関係)#パルプアドベントカレンダー2024
結局人間はここまで来てしまった。
政府による様々な脱酸素政策が全て虚しく失敗に終わった。北極とグリーンランドの氷が全て溶けて、ホッキョククマが絶滅した。南極では溶けた氷から名状しがたい不定形な怪物が甦り、ペンギンをすべて捕食して絶滅させたのち南アメリカに侵略し始めた。海が70メートル上昇して湾岸部に建てた都市が壊滅し、人類はより高い場所でより密集に住むことを余儀なくされた。例えば日本政府は群馬を新たな首都とし、ネオ群馬京を設立した。
インフラが崩壊して地理的に分断された日本諸島は再び軍閥割拠の戦国時代に突入したが、それはさておき、12月のネオ群馬京高崎区に、ひとりの男がソリを引いてこの街にやってきた。ほかならぬサンタ・クラウスその者だ。
ぎごごごご……元は雪上と飛行用に想定されたソリがひび割れたアスファルト地面に擦れて、痛々しいな音を立てた。
「ふぅー、はぁーっ!」
重苦しい呼吸と共に、サンタは怒りに満ちた表情で路面にソリを引きずる。おびただしい汗水が白い髭から滴る。その苦行じみた行動を目にした市民は驚愕を禁じ得なかった。
「あのぉ、クラウスさん……ですよね?なんで御自分でソリを引いているんですか?」
ひとりの若者が勇気を出してサンタに話しかけた。するとサンタはギョッと充血した目を見開いて彼を怒視した。
「俺がなぜ自分でソリを引いているだと……?」
「ひっ」
怯んだ若者の顔面を、サンタが大きな手で掴んだ。
「てめえらのせいで温暖化を進んで、トナカイが全滅したからだあっ」
「あががっ、痛いっ!痛いですっ!」
サンタは指に万力を込める!指が若者の皮膚に食い込んで血液が滲み出る!
「もう我慢ならん。人間全員悪い子!悪い子はこうだあっ」
「うっ、がっ」
サンタはさらに力を込めて、若者の顔の皮をひん剥いた!
「うぎゃあああああああ!!!」
白い軟骨と赤い筋繊維を曝け出して激しくのたうつ!
「ハァーッ、メリークソ死マス!惨たらしく苦痛に満ちた死を皆にプレゼントだあっ」
う あ あ あ あ あ あ あ あ あ 。異常暴力を目にした市民はPC書き文字悲鳴を発して逃げ惑う。
「一匹たりとも逃がさんっ」
サンタはソリに載っている包からベイブレードを取り出した。しかもメタルブレードとギヤギミック搭載した第四世代のベイブレードX。サンタは大きな手で一気に3個のワインダーランチャーを持ち、ベイを3個セットした。それぞれがドランソード、シャークエッジ、フェニックフェザー、どれも破壊力に特化したベイだ。
「3・2・1、GOシューーっ!!」
3本のワインダーを引いてベイを一斉にシュート!皿状のベイスタジアム以外だと大して機動しないはずのベイブレードはまるで自意識でもあるかのように市民を追尾!爆転シュートベイブレード漫画版仕様だ。
「な、なんだあっ」
「ベイブレードが、ぐわっ」
メタルブレードが市民の踵に接触して、破壊!う あ あ あ あ あ あ あ あ あ 、PC書き文字悲鳴が響き渡る!タカラトミーがベイブレードの説明書に必ずベイを人に向けてシュートしてはいけないと書いてある。高速回転するメタルブレードはいとも簡単にも柔らかい人体を破壊してしまうからだ!
ベイブレードが市民を蹂躙し、血か、断肢が臓器がクリスマス飾りの如く街をを彩る。さらには建物の壁を抉って貫通。倒壊、爆発!
「目標を目視で確認!」
「あれがサンタだってよ!」
「誰だろうか構わん、制圧あるのみ!」
現場に到着したSWATチームがフォーメーションを展開。防弾シールドを構えて防御を固めつつ、サブマシンガンで弾幕を張ってサンタに迫る。
「豆鉄砲が、真の男の射撃道具を見せてやろう」
小口径弾を皮膚で弾くサンタは包から一体のビーダマンを取り出した。
「あれは一世風靡したパワータイプの名機、バトルフェニックス!」
後方で待機している狙撃SWAT隊員がスコープ越しにサンタが持っているビーダマンを確認し、コロコロ少年だった彼の心がざわついた。
(懐かしいなぁ。9歳のクリスマスにサンタからバトルフェニックスを貰って、隙あれアルミ缶とかを撃って遊んでた。物を射撃することが大好きになった俺はとうとう警察学校に入って狙撃の訓練まで……)
狙撃SWAT隊員が思い出に耽る間、サンタがバトルフェニックスを構えて左右の人差し指に力を込める。人皮を剥く怪力をホールドパーツにかける。ビーダマン基本にして究極の技、締め撃ち。
「ビィーファイッ!」
ズドオオオオオン!おもちゃとは思えない爆発音と共にビーダマンが射出!ビー玉と空気が摩擦して炎が生じる!炎を帯びて飛ぶビー玉はまるで羽ばたく不死鳥の意匠を作りだす!
「あうっ」「ぐえっ」「がはっ」
不死鳥のショットは盾装備のSWAT隊員3人をまとめて貫通!威力を削減することなくそのまま後方の狙撃SWATのスコープを貫通!
「ぐうっ」
ヘッドショット殺!
「うおおおおお!」
ズドオオオオオン!ズドオオオオオン!サンタは不死鳥ショットを連射してSWAT隊員を薙ぎ倒していく!まさに爆球連発!ビーダマンを人に向けて発射してはいけない、モーターノートを軽々破壊できる威力を有するからだ!
「皆は下がれ!こっちで対処する!」
撤退する歩行隊員と入れ替わって、六輪暴徒鎮圧装甲車は重機関銃から.50BMGを連射しながら挺進!
「ぐおっ」
皮膚が石のように硬いサンタも流石に大口径には敵わず出血!
「……なんのっ!」
サンタが撃ち返す。ズドオオオオオン!装甲車は全面装甲にゴルフボールぐらいの凹みができただけ。
「こっちの攻撃が効いて向こうの攻撃が効いてない様子でありますっ」
「おおよかった!撃ち続けろ!ずたずたのミンチにしてスパゲッティに入れて食ったらあっ」
大口径弾を浴びたサンタは服が裂けて、ケルト風タトゥーを施された逞しい上半身が露になる。
「むぅ……なんのこれしきっ!」
今度は包からC4を括りつけたミニ四駆を取り出して電源をON!ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ!違法改造大出力モーターが騒音を立てる。
「レッツ&ゴー!」
ミニC4駆を装甲車をに向けて発進させる!
「何が来るでありますっ」
「撃って止めろ!」
機関銃でミニC4駆を狙うが、標的が小さいうえに違法改造大出力モーターのスピートが想像以上!やがてミニC4駆が装甲車の左第一輪のタイヤと接触、KABOOOM!車体が大きく跳ねあがって、重々しくバウンドした。ミニ四駆にC4をつけて人や乗り物に向けて走らせてはいけない以下略。
激しくシェイクされた乗員たちが前後不覚に陥るなか、サンタはハッチをこじ開けて、ベイブレードをランチャーにセットした。
「こ、このっ……!」
拳銃を抜いて応戦しようとする車長。サンタはワインダーを引いた。
「GOシューっ」
ベイブレードは車内を暴れまわって乗員たちをバーストした。
何ということか。度重なる天災と人災を乗り越え、やっとつかの間の平穏を手に入れたネオ群馬京は慈愛の運び手から殺戮の化身へと変貌したサンタによって滅んでしまうのか?この惨状を止めて、衆人を救いの手を差し伸べる者が居ないのか?
「その辺にしておくんだ、クラウス。殺しすぎだ」
「あぁ?」
声の方へ振り向くと、ベースボールギャップを被り、ロングのダウンコートを着ている小学生6年生ぐらいの少年がいた。爆発音やサイレンなど雑音が響くなか、少年の声はそれらを排してしかとサンタの耳に届いた。
「その透き通ってかつ存在感あふれる声質……ジーザス・クラストか」
そう、またこの男がいた。全て罪を背負い、我々のために死んで甦る救世主が。
「どうした、その姿は?プレゼントをねだるつもりか?」
「降臨時にちょっとしたトラブルで若返ってしまった。ヤング・ジーザス……ヤンジーとでも呼んでくれ。それとプレゼントは大歓迎だ。誕生日が近いだしね」
「そういえばそうだった。おめでとう。じゃこれを受け取れ」
ズドオオオオオン!サンタ突如ビー玉を発射してヤンジーの胸をぶち抜く!
「くふっ」
胸に大穴を開けられたヤンジーは倒れ込む。物理的に完全死亡と見られた。神の子が!
しかし忘れてはならない、かつてジーザス・クライストがゴルゴタの丘で磔刑を受けた3日後に復活を果たしたことを。見よう、生命活動が停止した途端に、破壊された骨格、内臓、筋繊維がみるみるうちに再生し、御体が修復されていく。
「はーっ、復活完了っ」
ヤンジ―が再び立ち上がる。不思議なことに服まで元通り。これがジーザス固有のリバイバルスキル、スリー・デイズ・アフター。かつては死亡してから復活まで三日かかったが、二千年以上時間をかけてスキルのアップして四次元を踏み入れた今のジーザスならばわずか数秒で再生プロセスを完了できる。
「GOシューっ」
「ちょっま」
復活したてのヤンジ―にベイブレードをシュート!幼い体がバースト!すかさずスリー・デイズ・アフター発動。
「おい話をっ」
「レッツ&ゴー」
復活したてのヤンジ―にミニC4駆KABOOOM!神の子が爆発四散!そしてすかさずスリー・デイズ・アフター発動。
「ふむ……ここまで破壊しても復活するとは、流石だといったところか」
「これでわかったろ、私を何回殺しても時間の無駄だと」
「だからどうした。その非力な姿じゃ俺を止められん」
「できるさ……こいつの力を借りてなっ」
ヤンジーはポケットを探って真紅のベイブレードを取り出した。
「このフェニックスウィング9-60GFで貴様にベイバトルを申し込む!」
「なるほどそう来たか……」
主にベイブレード(およびそれに準ずるバトルホビー全般)で挑まれれば汝、拒否するべからず。新約聖書にもそう書かれている。
「仕方ない、受けて立とう。おたく方が歴史が長いだろうが、おもちゃの扱いなら俺は誰にも負けん」
「では場所を変えよう」
🌀
数分後、高崎駅廃新幹線ホームで、サンタとヤンジーが相対していた。
「スタジアム有れ」
ヤンジーの言葉に応え、ホーム地面のコンクリートがもりもり迫り上がってベイスタジアムの形を作った。父の神(モーガン・フリーマン)から受け継いだ創造の能力。彼の力だと魚とパンの数を増やしたりベイスタジアムを作ったりするぐらいしかできないが、それでも十分すごい。どこでもベイスタジアムを創造できれば場所を取るベイスタジアムをしょって移動する必要なくどこでもベイバトルができる。ブレーダーなら誰もが後先争ってヤンジーとベイ友になりたがるだろう。
「ルールは4ポイント先取制。互いに使えるベイは一個のみ。さっき宣言した通り私はフェニックスを使う。君も使用ベイを出すといい」
「俺の相棒、シルバーウルフ3−80FBでふっ飛ばしてやるよ」
サンタが持っているシルバーウルフは元から円に近い形のうえに使い込んだことによりさらに角が取れて円滑になっている。超重量アタックタイプのフェニックスウイング対フリー回転刃による受け流しが得意とするスタミナタイプのシルバーウルフ。一見フェニックスの方が有利だが、バトルでは予想外の展開が起こることがベイブレードの醍醐味。勝負の行方は神(モーガン・フリーマン)も知り得ぬ!
「では始めよう。レディセットっ」
「ちょっと待った」
サンタはランチャーを構えるヤンジーを制止した。
「その前に説明とかないのか?勝ち負けで俺の処遇がどうなるとか……」
「いいんだよ。そんな無駄話より私は一刻も早くベイを回したい」
「……とにかく勝てばいいってことks。了承した。ではいざーー」
「「レディセット」」
両者が腰を落として、ランチャーを構える。サンタはワインダーランチャー、ヤンジ―はストリングランチャー。
「「3・2・1、GOシューッ!」」
両者とも強烈なシュートを決めて、ふたつのベイがスタジアムに放たれた!
「うおおおお!まだまだーっ!」
2回バーストフィニッシュによりフェニックスウィングの4点先取で勝利だが、熱が入ったサンタはもはやお構いなしでバトル続行!
「ハハーッ、そうこなくっちゃ。勝負など関係なく続きやろうぜ!」
ヤンジ―もノリノリで応戦!どうなってしまうのか!?
「燃え上がれ……フェニックスっ!」
『ギャオオオオ!』
全身から太陽フレアの如くオーラを発しながらヤンジ―が吼える!それと呼応するかのようにフェニックスウイングのギアチップが赤く輝きだし、聖獣・不死鳥フェニックスが顕現!
「うおおおお!食いちぎってやれっ!ウルフーっ!」
『アウオオオン!』
吼えるサンタに呼応し、シルバーウルフのギアチップが青白く光ってブリザードの如く冷気をまとう聖獣、狼神チェルノボーグが現出!
『ギャオオオオ!』
『アウオオオン!』
2体の聖獣がぶつかり合う!それに伴ってベイの動きが激しくなる!フェニックスウイングXダッシュでがシルバーウルフを弾きし、そして今度はシルバーウルフがエクストリームラインに乗ってカウンターXダッシュでフェニックスウィングを弾き返す。
まるでベイスタジアムという宇宙に回転する天体の如く。2体のベイがエクストリームラインに乗って加速し、回転エネルギーが蓄積していく。そしてエネルギーがありに余って、2体の聖獣がベイスタジアムの蓋を突き破って天高く昇る!
「なにっ」
「これが狙いなんだ」
驚愕するサンタとしたり顔のヤンジ―が白と赤の螺旋を描きながら飛んでいく聖獣を見上げた。
「フェニックスの動的エネルギー、シルバーウルフの凍結の力。ふたつの聖獣がブレーダーと共鳴してパワーが最大限に達した際、聖なる回転ミラクル・スピンが発生し、世界が救済される」
「ミラクル・スピン……なんだそれは?」
「まあ見てなって」
『ギャオオオオ!』
『アウオオオン!』
聖獣の螺旋長スピートで地球を飛び回り、フェニックスが熱で大気を循環させ、チェルノボーグが温度を降下させる。みるみるうちに南北極の氷が復元し、海水が降下してロストシティと思われた東京が再び陸上に姿を現す。
「テケリ・リィィィ……!」
南米を浸食する名状しがたい不定形な怪物は激しい寒暖差で体組織が劣化して崩壊!
「おお……!おお……!」
世界の変化を敏感に感じ取ったサンタは両膝をホームにつけて両手を広げた。
数十年ぶりに、ネオ群馬京の空から一片の雪が舞い降りて、サンタの鼻尖に触れて、溶けた。
「成った、な」
ヤンジ―は達成感のある顔でベースボールキャップを取った。その途端にヤンジ―の後頭部から白い後光が差してホームを照らした。ベイブレード公式ルールに『いかなる手段でシュートを阻害してはならない』があって、後光が眩しくてサンタのシュートミスを招かねないためあえて帽子を被ったのだ。
ヤンジースタジアム内に停まっていたふたつのベイを拾い、シルバーウルフをサンタに差し出す。
「私が赦そう」
「おお……主よっ」
祝福の雪の中、サンタはヤンジ―の手をシルバーウルフごと握って、涙を流した。後光が眩しい故ではなく、救世主として世界を救ったヤンジ―に対する感謝と、無辜なる人々を殺戮したことに対する懺悔の涙だった。
🌀
こうして地球の気温が数十年前程度に戻ったが、いかにキープするかは地球に生きている人類の手に託された。ふたたび浮上した東京では各地勢力が小競り合いしつつも、政府主導の再興プロジェクトが進んでいた。
サンタは旭川動物園で飼育されていたトナカイ数匹引き取ってグリーンランドに帰還し、新たなトナカイチームを育てつつ、サンタ業の復興に着手した。贖罪の意も込めてプレゼントを貰える年齢を23歳まで引き上げて、大人のおもちゃのリクエストも請け負うとか。
地球環境が少しマシになったとはいえ、ホッキョクグマやペンギン、ネオ群馬京でなくなった人々など、一度死したの命は帰ることなかった。死者は簡単に生き返らない、ジーザスでもない限り。でも幸いなことに、サンタが原因で犠牲となった魂はヤンジ―によってベイ獄(ベイブレード環境が充実した辺獄)に導かれて、天国にアセンションする資格を得るため日々ベイブレードの腕を磨いてバトルに励んでいる。
ここまで読んだあなたも、これでベイブレードの重要性が理解できたでしょう。ならば近くのAEON、ヨドバシカメラ、ビックカメラ、ヤマダデンキ、トイザらスに走ってベイブレードを購入するのだ(スターターセットがおすすめ)。年始年末は家族友達とベイブレード回しまくるのだ。友達がいない奴は暗い部屋で孤独にベイを回すんだ。
今度また怒れたサンタが襲撃してきた時、君が立ち向かうんだ。
🙅♀️We wish you a X' MAX!🙅♂️
これは #パルプアドベントカレンダー2024 に向けて投稿した作品です。今年も飛び入り参加の形で書かせていただきました。
十字架……X……ベイブレードX……つまりそういうことです。やりましょう、ベイブレード。
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