炒飯神太郎⑧
「炒飯神バンザイ!バンザイ!」
「「「バンザイ!バンザイ!」」」
「チャーハンこそ最高の米料理!」
「「「チャーハン最高!チャーハン最高!」」」
村中に響き渡るチャーハン礼賛!教祖のように祭り上げられる炒飯神太郎!新興宗教的熱狂!
「おーおー、なんか面白いことが起こってんじゃーん」
その様子を1300メートルの上空から覗く者がいました。
「チャーハンで精神支配だぁ?料理バトル漫画かよ」
上昇気流に乗って廻旋しながら、ひとりごとをつぶやくその者は山伏装束を着た青い羽毛の鳥人でした。彼らは屠韋汰天狗。安全な距離から人を見下ろし、煽ったり批判したり嘲笑ったりすることで知られている妖怪です。
「なんかだかこのネタ場狡りそうだしもうちょっと近くで見てみないか?いや、あの炒飯神太郎って奴ちょっと正体不明だしやめようかな……いや、やっぱ行くか!」
ビューン!鳥人は翼を畳み、獲物を狙いさだめた猛禽類めいてサルベージ村に向かってダイブしました。場狡りそうなネタを見かけたら放っておけない、彼の性分です。
🐦
「むっ!?」
接近してくる気配を感じた炒飯神太郎は身構えた。上空に見える3つの影がだんだん大きくなる……近づいてきている!速い!
鳥人は地面にぶつかる直前に翼を広げて減速し、軽やかに降り立った。土埃が舞い上がりました。
「関心の外から失礼しますよー」
翼を折り畳んで、悠々と歩きだす鳥人。
「天狗……」
「天狗だわ!」
「げっ、よりによって屠韋汰かよ」
村人が驚きや険悪の表情を示しました。炒飯神太郎がチャーネットの支配レベルを下げて「As usual」の指令を与えることで、村人は普段通りの反応を見せました。
そして炒飯神太郎は別のことを考えていました。
(天狗だと?天はともかく、狗の要素がどこにあるんだ?どう見てもガルーダやハーピーの類だが……)
村人と犬たちの記憶で構築したチャーネットデータベースに検索をかけみましたが、『翼が生えた人型生物だいたい天狗』『空を飛べる』『基本山に住んでいる』『怪しげなモージョーを操る』『なんか偉そう』『なんか不可解なことがあったらまず天狗を疑え』『天狗とは、日本に古来から存在するフェアリー』ぐらいの結果しか出ませんでした。
(狗の要素は一体どこに……うぬぬ)
とか考えているうちに、鳥人は炊事場までやってきた炒飯神太郎の前に立っていました。
「関心外から失礼します。炊き出しとはいい心掛けですね。自分もそれ、いただけないでしょうか?」
太くて厚みがあり、指のように見える羽で鍋の中に残っているチャーハンを指さす鳥人。炒飯神太郎はハッと我に返りました。
「はい、もちろんですとも」営業スマイルの炒飯神太郎はチャーハンを盛り付けて鳥人に差し出しました。「どうぞ召し上がってください」
(予想外だが、こやつの単独飛行能力は斥候に大いに役立つだろう。逃す手はない。さあ、チャーハンを食え!チャーネットで支配してやる!)
と心の中で打算する炒飯神太郎。彼は屠韋駄天狗の恐ろしさをまた知っていません。
「ふーむ、ふーむふーむ」
鳥人はすぐにチャーハンを口にせず、ただスプーンで米をかき分けたり翻したりして弄ぶだけでした。
「あの、お客様?チャーハンは熱さが大事なので、なるべく早く召し上がっていただければ……」
「うるさいね。いつ食べるかは僕の勝手でしょ?ミシュランガイドにランクインでもない無名シェフが口出ししないでもらえます?」
「むっ」
態度が豹変!以前の炒飯神太郎ならすでに激昂し、鳥人に殴りかかっていたでしょう。しかしおばあさんとおじいさんと過ごした一年間は辛抱強くなりました。
「すみませんでした。ごゆっくりと」
営業スマイルを崩さず、炒飯神太郎は頭を下げました。航空戦力を手にするためだ、これぐらい耐えろと自分に言い聞かせました。
「ふーん、肉も海鮮も入ってないじゃないか、しけたチャーハンねぇ」鳥人の嫌がらせはまた続く。「米も碌に食べられないおサルさんならともかく、僕はそう簡単には騙されないんすよ。そもそも米を炒めるだけで、料理と言えるかね?浅はかすぎません?」
(好きなだけ言えばいい……チャーハンを口にした瞬間、チャーネットの奴隷にしてやるッ!)と思ってじっと耐える炒飯神太郎。
「あ、やっぱ要らないすわ、これ」鳥人が傾けた皿から、チャーハンがこぼれ落ちて地面に落ちていく。「そもそもこんな炭水化物の塊、食生活に気を遣っている僕が食べるわけがなっ」
「刹ァーッ!!」
炒飯神太郎はようやく耐えられなくなりました。炉台に手をついて飛び越え、飛び蹴りを繰り出す!
「よっと!」
鳥人は即座に反応し、後ろへ飛び下がりました。翼を広げ、グライドしてさらに距離を開きます。
「ウ~ケ~ルゥ~~~!キレちまってさァ!げひゃひゃひゃ!!」
鳥人は心底たのしそうに嘲笑をかけた。
「いやぁ~チョーおもろかったわ!お前のことは僕が責任をもって国中に晒してやるからねぇ!ばいならーー」
離陸すべく、鳥人は垂直にジャンプして翼を振りだしますが、彼が思うような加速を得られませんでした。
「うぉ!?な、なんだお前らっ!?」
なんと、一人の村人が鳥人の両足を掴んでいます!
「えい!離せー!」
力を絞って羽ばたく鳥人!しかし彼の足を掴んでいる村人の足を、また一人の村人が掴み、またもう一人その足が掴んでいきます。まるで組体操のように、ヒューマンチェーンが伸びていく!
「高度が……上がらないっ!地に這うしか能がないサルどもにこの僕が!」
狼狽える鳥人!チャーネット支配下の村人たちは一斉に言葉を発しました。
「「「これが炒飯軍団だ、屠韋汰天狗。炒飯神太郎様が授かったチャーハンカロリーによる身体強化、そしてチャーネットの意識統合によってこの連携を可能にした」」」
「くっ!こうなったらまとめて地面に叩きつけて……」
「「「それはできない」」」
ヒューマンチェーンを構成した村人たちの肩や背中を蜻蛉が尾で水面を突くように軽く踏み、駆けあがる人影がいました。
「ーー先に落ちるのは貴様だ」
同じ高度に到達し、炒飯神太郎は鳥人の両肩にV字チョップを叩き込みます!
「ぐぇっべあああ!!」
肩甲骨粉砕!羽毛が散るなか、飛行能力を失った鳥人は墜落し地面に重くぶつかりました。炒飯神太郎は軽功で落下衝撃を吸収して着地。その後ろで崩れて落下してくるヒューマンチェーンを地面で待機していた村人がチアリーディングめいて受け止め、フォーメーションを変えて「チャーハン」の文字を作りました。
「炒飯神太郎様」
「うむ」
犬の一人が持ってきた鍋からチャーハンを手で掬い、ボールに握ったそれを痙攣している鳥人のくちばしに入れて、押し込みます。
「おめでとう。貴様も今から炒飯軍団の一員だ」
「くぇ……けけ……」
かつて人間を見下ろし、挑発的な目からハイライトが消えました。
「すべては……炒飯神太郎様……仰せのままにっ……」
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