ふたりはPre-cure:MIRACLE DEALER
時は2021年10月23日。日本。千葉県。東京湾サイド。大型商業施設”MEGATON IRON”、映画館のロビー。午前の上映が終わり、観客がシアターから出てきた。
観客の大部分は幼い女の子とその家族。次は小学生や中学生の女子クループ。数が少ないが男の子と子供連れではない大人観客の中で、しれっと白人男性ふたりが混ざっていた。
ほかでもない、未然を防ぎ、不幸をハッピーなフューチャーに変える我らがPre-cureのふたり組だ。
今日は映画トロピカル~ジュプリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪の上映初日。重篤なプリオタであるサミーとクレイトンは抜かりなく一週間前にチケットを予約し、朝一番の上映に臨んだ。
気温が下がって、冬の先触れを知らせる時期だが、サミーは半袖ポロシャツと短パン、クレイトン伸縮性の優れた黒い半袖Tシャツで鍛えあげた逆三角ボディを締め上げて周囲に威圧をかける。高緯度育ちのふたりにとって気温が10度さえあれば十分にトロピカってる。むしろ今が動きやすいぐらいだ。
「いい映画だったね」
「そうだな」
ふたりはこれ以上映画の内容について語らない。なぜならこのロビーではこれからトロピカル~ジュプリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪を期待して目を輝かせる小さなお友達と大きなお友達がたくさん集まっているからだ。不用意に映画内容が含まれた感想を口走ってしまったら、ネタバレを食らった小さなお友達と大きなお友達が泣け喚いて絶望の折に閉じ込められかねない。リークとスポイルの撲滅をもPre-cure活動の一環とし力を入れている二人にとってあってはならないことだ。
「今日はPre-cureミッションがないし、僕はちょっとトイズロに寄ってから帰るよ」
「ああ。おれもこれから人と会う予定だ」
「じゃ今日はこれで解散。良い週末を!」
「Bye」
エスカレーターに乗って下の階へ行くサミーを見送ると、クレイトンはスマをを取り出し、メッセージを送った。
(アミューズメントってここのすぐそばじゃないか)
クレイトンは映画館ロビーの隣のアミューズメントに入った。11時の開店すぐなのでまた客がそれほど多くない。暇そうに受付で頬杖している中年女性店員と目が合ってメンチ切られた。
ターゲットはガチャポンのコーナーで見つけた。ダークグレイのパーカー、黒いジョガーパンツに赤と白2色のバスケットシューズ。ストリート的な出たち。ワルっぽっさを演出するためにパーカーのフードを被って黒いマスクを着用などの努力が見られるけど、わずかに露出している目元は若く、稚気が抜け切っていないティーンネイジャーであることが窺える。
「ヘイ、オッサン」
「ジェイジャック」
ジェイジャック。当然k偽名。推測年齢15歳。好きなプリキュアはキュアピーチ。彼女はプリキュア映画特典グッズの仲買人、いわゆるミラクルディーラーだ。
ミラクルディーラーとは何か?ご存知の通り、中学校卒業した人間は映画館でミラクルライトなどの特典グッズが貰えなくなり、BANDAIにミラクルライトを光らせてプリキュアを応援する権力を剥奪されてしまい、哀れな大きなお友達になってしまう。それでもどうしてもミラクルライトを手に入れたい、あるいは単にプリキュアグッズをコレクトしたいというプリオタのニーズに応えて、ミラクルディーラーというビジネスが生まれた。
「ブツは用意したか?」
「ああ」
ジェイジャックはパーカーのポケットからプラスチックの小包みを取り出した。中には雪の結晶を模したクリアブルーのリングが入っている。今回の映画トロピカル~ジュプリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪の映画館特典、スノーハートクルリングだ。リアルビョーゲンズが暴威を振舞って既に二年が立っても治まる日が見えないため、従来のミラクルライトに代わって応援行為につながらないものを配布されるようになった。
「また開封もしていない。配れたてほやほやのヴァージンリングだぞ」
「言い方……まあいい、サンキュー」
ミラクルディーラーの仕組みは極めてシンプル。中学生以下という条件をクリアして特典を貰い、それを値段をつけて必要としている人間に提供する。しかしビジネスが成り立った以上、それを悪用する者が必ずいる。ジェイジャックもかつてミラクルライトに高価をつけて転売したり、JCという身分の利用して客を貢がせたりするなど危険な橋を渡っていた。そしてある日、客を過度に刺激して貞操喪失の危機に瀕した彼女を、Pre-cureが助けた。激しい説教で息を切らして休憩に入ったサミーに代わって、クレイトンはジェイジャックにこう言った。
「サミーは子供がみんなプリキュアを観て愛と正義を学んで健全な育つべきだと思っているが、おれは違う。お前より小さい時、おれはもうストリートに出て稼いでいた。子供が小遣いを稼ぐのは別に悪く思わない。だが方法を考え直すんだな。今回はおれたちが間に合ってよかったが、次はないだろう。自分の体は大切にしろよ、Kid。それとお前が持っているミラクルライト、おれに売ってくれないか?」
狙ってやったわけではないが、Pre-cureの良いマッポ悪いマッポが功を奏した。ジェイジャックは深く反省して、業務を縮小した。
クレイトンは財布から一枚の映画チケットを取り出した。12:50上映のトロピカル~ジュプリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪とプリントされている。スノーハートクルリングと交換するための対価だ。
「まいどあり。これで午後はリングも一個ゲットできる」
「同じ映画を同じ日に2回観るとかきつくないか?」
「全然。一時間だけだし、面白い映画は何回見ても面白いっしょ」
「それかよかった。楽しんいってくれ。それじゃ」
「あっ、ちょっと!」
踵を返すクレイトンを、ジェイジャックは呼び止めた。
「なんだ?」
「あの、実はさ、ミラクルディーラーやれるのも、この映画が最後なんだ」ジェイジャックはもじもじしながら言った。「中学を卒業して、来年は高校生になる。ミラクルディーラーからミラクルディーラーが必要な側になるンんだ……」
「お、おう。おめでとう。それで?」
「ミラクルディーラー卒業のその、記念でさ、一緒に食事とか、どうよ?」
わずかに露出している目元だけでもわかるぐらいジェイジャックの顔が赤い。
「……いいけど。いいのか?面白い話題が出ないしたぶんずっと気まずいと思うぞ?」
「問題ないし!ごはんだけだし!」
「ちなみにおれはガールフレンドがいる」
「はぁ!?そういう意味じゃねえんだよ思いあがんなオッサン!」
ジェイジャックに連れられて、二人は施設内のお茶漬け専門店にやってきた。
「……ティーンエイジャーにしてはチョイスが渋すぎないか?」
「そうなの?ここの漬けマグロセット、醬油で漬けた赤身がだしの熱で表面がを少し熟させたらめちゃうまだけど」
「渋っ」
このあと、二人は食事しながらプリキュアを語って楽しい時間を過ごしたとさ。デリシャスパーティー。
(終わり)
ふたりはPre-cure、それはプリキュアファンによる紛れのないプリュキュアファン小説である。
当アカウントは軽率送金をお勧めします。