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少年探偵UT 第二話

(これまでのあらすじ)学校で人気者の中学生UTは修学旅行中同級生のミホに好意を告白し、恋人となった。その夜、二人の関係を更なる段階へ進めようと寝室から抜け出し女子部屋へ忍び込むUTだが、彼が目にしたのはミホを含めた四人の女子生徒の死体だった!容疑者として逮捕され警察局に連れて行かれたUTの前に、現れたのは、ナハトと自称する人語をしゃべるネズミであった。ナハトがUTに真犯人は超常の力を用いて完璧な密室殺人を実行し、警察に捕まることが決してないと告げた。冤罪を晴らす唯一の方法はナハトに協力し真犯人を突き止めることである。だがUTが躊躇する間も与えられず、警官に変装した敵が警察署を襲った!UTが身を守るためナハトに協力を許諾し、デモニックディテックティブ変身して戦う!

 「ハァ……ハァ……何なんだこいつ等?!」警官服を着た2人が床に倒れている……正確は人間の形をした何かだ。顔の部分がフルヘッドヘルメットに覆われ、割れたコーグルから紫色の液体流出し、中を覗くと湿った肉塊が詰まっていることが分かる。 

 「カイメンか、もう嗅ぎてついで来たとは……急いだ方がいい」

 「おい、今出ていくのはまずいって……あ、そうでもないか」廊下に出ると、倒れた警官が数名いた。

 「もしかしてこれ、死んでんじゃ……」

 「睡眠ガスで気を失っただけみたいだ、それよりあそこだ!」ナハトが前足で廊下に突き当たりを指すと、そこから新手の警官姿カイメンが出現!

 「オッシ任せろ!」UTが右拳と左掌を打ち鳴らし、敵にダッシュした。

 「ボルルルーッ!」ヘルメットのコーグルが開かれ、得体知れない器官から濃紫色の粘液を噴射!「きめえ!」スライディングで回避、そのまま勢いでメアルーア・ジコンパッソを繰り出す「オラァ!」「ブオロロー!」ヘルメットが粉砕され、紫色の汁が飛び散らす。

 「うわっ、気持ちわっる」

 「……やはり君には才能があるな」

 「へへ、まあな」UTは自慢げに山高帽を被り直した「ところでよ、ナハト。襲ってきたからやってやったけど。これは犯罪にはならないよな?」

 「それについて心配は要らない。デモニック・ディテックティブになった君を裁ける法律はこの地球上には存在しないよ」二人は階段を登り、一階の出口に目指す「今の時点では」

 「そうか、とりあえず安心......おお?」宿直室の壁に鏡があった。UTはここで初めて自分が変身後の姿を目にした。「これが......俺?」186cm、90kg中学生にして破格の体格、その上に覆ったのはオーカー色のドレンチコード、さっきナハトが”変身・プロトコル”と叫びと共に謎の光がUTを纏ってこうなった。原理はわからない。手袋とマフラーも付属している。曲線的銀色のマスクが頭部全体を覆い隠し、その上に黒い高山帽を被っている「て、ズボンと靴はそのままか?」そう、お洒落したコートや帽子に対し、スボンと靴、そしてインナーは警察から支給された簡素の物のままだ。ファッションに敏感な15歳男子にとって許しがたいスタイルになっている「だせー」

 「変身・プロトコルによる付け焼き刃の変身はその程度だ」ナハト少し遅れてUTに追いついた「君が自ら変身しないとな装備が揃えないわけだ。どう?完璧に探偵装備一式を揃うため僕に協力しないかい?」

 「そう簡単に釣られるかよ。あんたのことはまた信じてないぜ」

 二人は廊下を歩いてロビーに出た。警官とマスコミ関係者らしき者たちが倒れている。戦闘の痕跡がなかった。

 「ここもやられてるな」

 「三匹のカイメン、それも潜入偵察タイプだけでここまでやれたよ。僕たちの敵は恐ろしいく強いんだ」ナハトがUTを見上げた「だから君の力を借りしてほしい。僕だけではなく、君の自由と、ミホのためでもあるんだ」

 「......警察の力では犯人は永遠に見つからないと言ったな。真実味が帯びてきたじゃないか。わかった、手伝ってやるよ」

 「良かった!君ならきっと力になってくれると信じていたよ」ネズミは嬉しそうに二足で立ち上がった。

 「でもな、言っておきたいことがある」UTがヤンキー座りを取りナハトを見据えた。その目には中学生に相応しくない凄みがあった「正直、あんたのことが胡散臭くてしょうがない。俺のこと利用している感もあるが、ミホのため我慢してやる。けどそれ以上舐めた真似はするなよ。俺は舐めなれるのが大嫌いなんだ」

 「ぬぅ......」UTに気圧され、言葉を塞がせた。心の中に屈辱による怒りるが湧きあがる。(青二才が、貴様こそ僕の事見下ろしているだろ。いいさ、どうせいつか君が必要でなくなる日が来る。それまでは......)「わかった。君の意志を尊重するよ。これからもよろしく頼む」ナハトペコリと頭を下げ、お辞儀のような姿勢を取った。

 「おうよ」UTも頷いて立ち上がった「そんでこれからどうする?現場に行くのか?」

 「あのう、ちょっといいですか?」

 「誰だ!」

 「ウェイ!?」UTが瞬時にファイティングポースを構え声が発した方向に向いた。メガネをかけた小柄な警官驚いて、手に持っていた箱を落とした。

 「大丈夫、彼は仲間だ。どうも、阿久井さん。無事だったのか」

 「はい......お陰様で」阿久井という男がやや神経質にメガネをかけ直した「おお、彼がデモニックディテックティブ……でも服装が……」 

 「おい!」 

 「紹介しよう。彼は阿久井・墨州、僕の協力者だ。彼はかなり有能でね。自らデモニックディテックティブの助手を志願したんだ」 

 「お会い出来て光栄です。これからは貴方のサイドキックとして精一杯努めさせていただきます」阿久井がそう言い、お辞儀した。年上の者に敬語で話されたUTはちょっとバツが悪そうであった。

 「お、おう、よろしくな」

 「これを」阿久井手に持っている箱を差しだす「着替えとお財布です」 

 「おいおい、大丈夫か?警察がこんなことして。首だけでは済まないだろ?」

 「私のことはご心配になさらず。それより急いでください。さっきパトロール中の警官から無線が入りました。なんとか誤魔化しましたが後に戻ってくるでしょう」

 「そうだね、ここは君に任せるとしよう。我々はこれから現場に行って調査する。行くよ、探偵殿、ポケットに入らせて」ナハトがUTのズボンを引っ張って促した。

 「私は怪物の死体の処理と監視カメラのHDDを破壊……いろいろがありますので失礼します、ご武運を」阿久井が小走りで去っていった。

 「まじかよ......」流石にUTも阿久井がやろうとしていることに不穏を感じた。なんか頼りないおじさんが証拠隠滅とか、一歩間違えたら俺の罪が重なるじゃねえのか?と彼が思った。

 「何ぼーとしている?早くいくぞ」ナハトは待ち切れず、勝手にUTの体を登りドレンチコードの胸ポケットに入った。

 「と言ってもよ、どれぐらい離れてると思ってんだ。この格好でタクシーは無理だぜ?」

 「車など効率の悪い乗り物は無用だ。最短直線距離で行く」

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 午前2時、道路に車が走っておらず、街灯と自販機の照明がぼんやりと照らしている。

 静まり返った町を、UTが色ついた風めいて走り抜き、建物に飛び移る。変身・プロトコルによる筋力強化とUTの優れた運動神経が成せた技だ。

 「あのな、ナハト」UTは最初跳躍でもたらした飛翔感でテンションが上がったが、10分後それがとジョッギングみたいな感じとなり退屈し始めた「アンタら俺のことデモニック何とかと呼んでいたよな。あれはどういう意味だ?なに語?」 

 「デモニックディテックティブ、魔的な探偵の意味だよ、君のために地球上一番使用されるの言語に訳したんだ」ナハトがひょっと胸ポケットがら頭だけを出している。ちょっとかわいい「Demonicは悪魔的な意味で、detectiveは探偵か捜査官の意味だよ」 

 「へー」UTは納得できないようだ「なんか言いにくいし、それに共感性ねえなって」 

 「そのうち慣れるさ。僕の国ではデモニックディテックティブは数えぎれないほどを解決した由緒正しい正義のヒーローでもあり……」

 「大体ね、なんでもすぐ英語とかカタカナで名付けるのは良くないと思うよね俺は」UTが話を遮った「つーか俺の都合を考えたことある?昨日好きな子に告白してピンク色の学園生活が始まると思ったら、その子が死んで俺が容疑者で逮捕されてよ。そんでネズミがしゃべって「君はこれからデモニックディテタターターだ、受け入れよ」てよ、俺の意見も聞かないでよ」

 「......つまり、名前が気に入らないってことね?」

 「ああ」

 「わかった」ナハトはため息した「ではユーザーデータの変更を行おう。新しいコードネームは何にするかい?」

 「へっ、もうとっくに思い付いたぜ!」UTが信号を蹴り、空中で三回転、コンビニの屋根に右手、右膝、左足の三点着地を決めた。


 「魔捜探偵だ!」

 

 (あまり変わらないのでは?)ナハトが声を立たずにごちった。 

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 515室。午前2時38分。

 昨日の夜まで、この部屋に四人の女子学生が泊まっていた。部屋の状態は事件当時のままであった。血液で汚れたシーツとカーペット、ベッドや壁に残された不可解な穴と抉り傷。四人の遺体はすでに搬送された。このホテルはこれから事件に纏わるゴーストストーリーが広がるだろう。これは経営側にとっていいことなのか悪いことなのか、UTは関心しない、どうでもいいことだ。

 普段ノリの軽い態度は見る影もなく、厳つい表情(マスクで隠されているが)でUTが部屋のエントランスに佇んでいる。彼は判事から捜査許可を得て部屋に入ったではなく。ステルスモードでロビーからマスターキーを拝借し、六階のベランダからぶら下がって侵入したのだ。

 「集中して、もう一回いくよ」「……ああ」

 インヴェスティゲイトモード。魔捜探偵のマスクに備えた機能の一つ、周囲の情報を分析し、事件の過程を映像化して再生する優れたシステムだ。インプットした情報が多ければ多いほど、復元の精度が上がる。

 人影が四つ、これは四人の被害者のことを示している。一人は窓側のベッドで寝そべている、もう一人は浴室側のベッドでスマホをいじっている。更に一人がドレッサーの前に何らかのケアをしている。この人影他と違い細部までよく再現されている。ミホだ、UTの記憶によって再構築された。残り一人は浴室の中にいる。

 四人の動きから察するに、普通の学生みたいにテレビを見ながら談笑を飛ばして、修学旅行の夜の楽しんでいるだろう。この後はUTが忍び込んでさらに楽し夜になる予定だった、”あれ”が現れなければ。

 何の前触れもなく、窓のそばに大きな人影が現れた。推測だが身長は8フィートでもある、でかい!普通の人間ではないことは明らかだ。それに四人の死因は鋭い刃物による斬殺と刺殺であることから。侵入者は剣みたいな刃物を持っていると推測した。

 侵入者は窓際の子と目が合った、彼女が反応する前に心臓を突き抜かれ、即死した。浴室側の子とミホは異変を察知し、立ち上がったが、侵入者が突進し浴室側の子に切りつけた。この一撃が彼女の肩を切り裂いて肺を破壊した。そして刃物を持っていない右手で驚いてドレッサーにもたれるミホにパンチを見舞った。ミホは頭部が鏡にぶつかり、床に倒れて動かなくなった。UTが唇を噛みしめて必死に耐えた。侵入者は身を屈して狭い浴室に入った、浴室の子が突然の異変に身動きが取れず、あごが侵入者に掴まれ、喉笛を切り裂かれた。

 浴室から出た犯人がミホのそばでしゃがんみ、彼女の髪の毛を掴んで、持ち上げた。「ぐぅ......」UTが喉から何かが沸き上がる感じを覚えた。犯人がミホに向けて何か話しているようだが、声までは再生できない。犯人はおしゃべりに夢中になっている間に、ミホが行動した。犯人が見えていな右手でポケットに伸ばし、小さな畳式ナイフを取り出した。熟練に片手で刃を展開させ、犯人に刺した。予想外の一撃が犯人の顔に当たり、一瞬怯ませたが、不意を突かれた奴の怒りを買い、乱暴にミホを抱き上げた、ミホはもがく「やめてくれ!」幻影に向かってUTが叫ぶ。刃物がミホの心臓を深く抉った。この悪夢じみた光景を見るのはこれで二度目だ。犯人が怒りが収まらず、暴れるように手の中の刃物を振りまわし、壁を、テレビを、ベッドを切り刻んだ。やがて破壊行為が終わり、犯人が窓際に戻り、部屋に入った時と同じ、まるで瞬間移動のように突然姿が消えた。

 「くそが......!」UTが拳を握り絞めた。怒りと深い後悔が精神を塗りつぶす。もし自分が約束の時間を守らず、早めにミホの部屋に来れば、結果が違っていたのだろうか?もし部屋に犯人が入った時自分が居れば、少なくともミホだけは救えたのだろうか?だが過ぎたことは変えられない、ただ今できることをやり尽すのみ!彼は自分に言い聞かせ、捜査に集中した。

 「思うけど、あいつは瞬間移動でここから離れたとしたら、追跡はできるか」

 「いや、瞬間移動ではないと思うよ。僕が知る切る限りでは、瞬間移動を行うにはサインとモージョーを使わないといけない。だが犯人はジェスチャーを一切取らなかったでしょう?もしテレポートだとしらた周囲に焼けどと空間の乱れも観測されていない。だから......」

 「瞬間移動とテレポートがどう違うってんだ?まあいいや」UTが話を遮った「そうだよな、瞬間移動を使えりゃわざわざ窓のところに行く必要もねえよな。だったら」UTが散らばった家具に触れないように窓際に行った。

 「奴は窓から入った。つまり窓を開ける必要がある」窓をスギャンしたが、特に異常はなかった。指紋はいくつあったがどれも古い、事件とは無関係だ。

 「くそ!だめか」

 「何が駄目だったかい?」

 「指紋だよ。窓を開けたから必ず指紋が付くだろう?」

 「あのね、相手は超常の力の持ち主だから、常識的判断が当てにならない事も多いんだよ。いてっ」UTが胸ポケットを軽く叩いた。「乱暴はやめろ!ネズミの身体は頑丈じゃないんだ!」

 「だったらそこでくつろいでねえでなんかアドバイスくれ」

 「アドバイスところか既に決定的証拠を掴んだぞ」

 「マジで!?」

 「ミホが犯人を刺したところか映像を出してごらん」

 「……こうか」VR映像をミホのナイフが犯人に当てた瞬間にストップした。

 「こういうタイプの敵は、体液や体毛を分析すればすぐにアテが付く」

 「なるほど、ナイフに犯人の血が付いていたってことか!」

 「悪くない判断だけど、残念。阿久井さんが確保した捜査レポートによるとナイフに血液は付いてなかったそうよ」

 「聞いてないぞそれは!自身満々に言った俺がアホみたいじゃないか」

 「落ち付いて、大きな声出すな」ナハトはUTを制止した。今は自分が捜査の主導権を握っていることをUTに思い知らせてやらねば「ナイフに血液反応はなかったことから、犯人の皮膚はある程度の硬度があると推測しよう。ナイフは強い衝撃で刃こぼれが起こった。それほど強く刺したんだ、皮膚を一部を削り取ったと僕は考えている」

 「その皮膚の欠片を探すってわけか?やってみる」ナイフが犯人に当てた部分を拡大し、皮膚の欠片が落ちている場所を物理演算で予測した。怪しい物がすぐみつけた。

 「これは......なんだ?蚊?」見つかったのは五匹の死んだ蚊だった。ドレッサーの影に隠れて捜査官の警官たちに潰されずにいた。スギャンした結果、五匹ともヒトスジシマカの雌に似ているが、百円玉ぐらいの大きさがある、明らかに不自然だ。

 「で?このホテルは衛生面が行き届いていないってこと?」

 「君は本当に察しが悪いね」

 「ああん?」

 「異常な成長を遂げた虫、突然に現れ、消えた犯人。ふむ、これで犯人が使った手品がが見えてきた。UTくん、蚊の死体を解析してくれ」 

 マスクに隠れられて見えないが、UTさんとても不機嫌な顔して蚊の死体をズームインし、インヴェスティゲイトモードを作動した。一秒あたりで数百種の化学物質と照合する。リストに地球に存在しない物質もあるが、UTがそれを理解するはずがない。

 五秒後、マスクに[Collation has been complete]の文字と幾つの図形が表示されたが、UTがそれをわかるはずがない。先に反応したのはナハトだった。

 「これはヤドリキの樹液成分だ!匂いはまた新しい、、これなら使える」

 「どうした?これで何かわかったか?」

 「今までの情報によると犯人は恐らくヤドリキの種を接種され、力を得ただろう。自分の身体を無数の虫に分解させ狭い場所を通り抜ける能力を持っていると考えられる。多分飛行能力も備えている」

「体を虫に分解って、化物かよ、ゲッ」UTが蚊の大群が人間の形になって剣を振る舞わす場面を想像した。気持ち悪い。
「その怪物をこれからは狩りに行くんだ。セーチ機能を起動したよ、何が見えたでしょう?」

 「おお、これは!」蚊の死体から青い光の筋は出現し、窓を通して外へ伸びていく「これを追えばいいか?」

 「その通り。早く行こう」

 「おう!」UTが身を翻し窓から飛び越え、光の筋を辿って屋上の露天風呂に上がった。事件で宿泊客がほとんどチェックアウトしたため誰もいない。カコーンとししおどしの音が寂しく響き渡す。UTが更衣室に人がいないと確認し、申し訳なさそうに土足で更衣室に踏み入れ、光の軌跡を追って六階に辿った。

 607室、犯人が犯行の後、この部屋に入ったと光の筋が示している。

 「さっき通っていた場所じゃん、とんだ遠まわしだぜ」ドアに前にUTが愚痴った、だが彼は重大な事実を気付き、顔をしかめた「おい、ここの学校の男子生徒が泊まってた階だぞ。つまりこれって......」

 「犯人は君の同級生ってことになるね」ナハトが地面に降りてUTを見上げた「辛いのはわかるけど、もう一息だよ。ミホのためにも」

 「いや、また決まったわけじゃねえ......入ろう」UTがマスターキーをスロットに差し込んで解錠した。ダブルベッドが二つ並んでいる部屋が次に泊まりに来る客人がいつでも入居できるようにきれいに掃除されている。だがインヴェスティゲイトモードに通して、この部屋は異常であることがUT達がすぐわかった。ヤドリキの臭いが部屋中に溢れて、UTには青く輝く煙のように見えた。
 
 「ビンゴ、犯人は間違いなくこの部屋にいた」
 
 「最悪だぜ」UTが目眩を覚えた、色んな感情が行き来する。ミホはすばらしい女だった。同年代の女子たちがインスタグラム映えを求め食べきれない量の料理を注文したり、米と小麦を摂取しないことを美徳としている中、彼女が一日三食を欠かさず、有酸素運動30分を日課にしていた。だからタフだった。そして他人に気を配る優しさと不正に屈しない正義感を持ち合わせた。だから惚れた。告白に応じてくれた時、それ以上に嬉しいことは15年までの人生にはなかった。だが彼女はもう居ない、昨日まで生きていたのに。犯人は恐らく学校の同年生、つもり奴は犯行のあと平気な顔して部屋に戻り、朝になって事件ことを聞いた時も驚いたふりをして、その後バスに乗って学校に戻ったのだろう。今もまるで何もなかったように生活を送っているだろう。ふざけんな。

 「おい、ナハト。俺は今、一刻も早く犯人野郎を捕まえたい。どうすればいいか教えてくれ」

 「手取り早く監視カメラのHDを拝借したいところだが、セキュリティールームに忍び込むにはリスクが高いすぎる。まずここを調べ......アッ!待て!」ナハトを待たずに、UTが踵を返してエレベーターに乗り込んみ、一階のボタンを押した。

 「何をするつもりだ?UT君、冷静になってくれ!」ドアが閉まりきる直前、ナハトが駆け込んできた。

 「手っ取早い方法があるだろう、俺に任せろ」

 「やめろ!ステルスにも限界がある、発見されるよ!」

 「発見されたら倒れてもらうだけだ」

 「無茶な!」

 ディーン、エレベーターが一階に到着。ロビを出ると右側が受付だ。休みに入った警官が夜勤の女性スタッフと話している。魔捜探偵のステルスは姿を消せるわけではなく、存在を希薄させ、認識しにくくする機能である。だから高山帽を深く被ってマスクを隠せば怪しまれることも滅多に起きない。

 「あ、すみません、お客様が......こんばんは、何がお役に立てることがありますでしょうか?」営業モードに入るスタッフ。

 「あなた、顔に何が被ってるのか?」ある程度距離が近いと、ステルスの効果が下がる。警官は訓練された警戒心で目の前の大男が不自然と感じとった。それに対してUTは。

 「こんばんは」言い終わるや否や、電撃的右ショートフックを警官の顎に見舞った。警官がその場で倒れ込んだ。

 「ギャッ......」女性スタッフが悲鳴が上がる前UTが既にカウンター裏に飛び入り手で彼女の口と鼻を塞げた。スタッフが魔捜探偵の指を力いっぱい捻り、束縛を脱しようと試みたが、万力めいた握力を籠った指がビクともしない。次第に抵抗が弱まり、気を失った。

 「なんというころするんだ......」ナハトは倒ている二人を見た「一般人に手を出すと面倒なことになるだろ!」

 「死んでいねえよ」UTはスタッフを床に寝かせた。

 「そういう問題ではない!君はね……変身ができることがどれ位貴重な才能か知っているか?それを悪用するなんて僕は許さない」

 「だったら変身を解けてここでお別れだな。どうせ後はカメラをチェックして犯人を特定だけ、俺一人でもやるよ」

 「……それはできない」ナハト悔しいそうに唸った「このネズミの体では自分の身も守れないし、それに犯人は変身が使えるとしたら、ボクのサポート無しでは、君は死ぬだろう」

 「……」UTは無言で頷き、オフィスエリアに入った。深夜故に人気がない。廊下の最奥にセキュリティルームがあった。中に入ると、イアホンをつけてスマホゲームをプレイしていた男性スタッフが驚き、慌ててイアホンとスマホを机の端に置き、立ち上がった。上司が視察しに来たと思っていただろう。

 「申し訳ありませッ......ファ?」

 「ご苦労さん」UTがスタッフに頭突きを食らわせ昏倒させた。

 「オーケー、クリアした。でも俺はセキュリティシステムに詳しくないよな」

 「ハァ......僕がやるよ、運んでくれ」UTがナハトを地面からすくい、机の上に置いた。ナハトが巧みにパソコンを操作し始めた「君が死体を発見したのは昨日の午前0時58分だったね」

 「ああ」

 「では、607室の様子を9時から見てみよう。早送りする」

 モニターに六階の廊下が映し出され、修学旅行らしく、男子学生があちこち歩き廻っていた。607室も何人が出入りしていた。見廻り教師が来て、興奮気味の学生を注意したりしていた。やがて部屋から出る人がでいなくなり、廊下が静まり返った。11時13分、一人の男子生徒が607室から出た。身長約8フィート、UTほどではないが相当いい体格している。フードパーカーを着ているため顔がよくわからない。

 「いかにも怪しい格好だな」

 「カメラで追うぞ」

 フード男がエレベーターに乗り、9階のボタンを押した。

 「ここまでは犯人の経路と一致。アッ」ナハトは再生をストップした。フード男がカメラの方を顔を向け、顔を露わにしたのだ。

 「こいつはッ!?」UTがモニターを食い付いた。

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 結局、今日も眠れなかった。

 津鷲努土は午前3時半ジャージに着替え、家族を起こさずジョッギングに出た。日課の15km走だ。昨日から一睡もしなかったが疲れるところか、体力が益々溢れ出てくる。住宅街を時速15kmで駆け抜ける、はやい。日本はアメリカと比べて治安はかなり良好と言えるが、青少年一人で深夜の町を走り廻ることは決して安全ではない。だが津鷲は恐れない、彼には力がある。

 昨日の件以来、彼の心はポジティブシンキングと期待で満たされている。あのクソ女の胸貫いた瞬間、ズタボロだった彼の心が魔法を掛けられたように回復を遂げた。半年前に人生を嘆き、暗い学生生活は嘘みたいだ、生き返った感じだ。

 「フッフ、ハーッ!フッフ、ハーッ!」規律な呼吸と共に、走りながらフックとジャッブを繰り出す、高揚感!彼はウォークマンやMP3プレイヤーの類を持っていないが、耳元にアイズ・オフ・タイガーの旋律が響いている。ロッキーにでもなれた気分だ。力って素晴らしい。

 空が明るくなり、15km走もあっという間に終わった。大した汗をかいてなかったし、呼吸に余裕がある。(早めに学校に行って素振りの練習でもしよう、部活もご無沙汰だ。みんなはどう反応してくれるだろうか?ちょっかい出す奴が居れば実力でぶちのめせばいい。誰にも負ける気がしない、たとえ変身を頼らなくても)彼はそう思い、家に向かった。そして家の前で腕を組んで壁に靠れている人物を見かけた。(まさか)彼の心にある期待が三倍に膨れ上がった。

 「おはようございます。お早いですね」津鷲からな謎の人物に話しかけた。相手は身長が高く、コートを着ているが相当にいいカダイしていることが分かる。頭に帽子を被って、覆面で表情が分からない。

 「お前もな、津鷲努土」男は壁から離れれ、腕を組んだまま努土と向き合った「なあ、殺人はどんな感じだったか、俺に教えてくれないか」その声はヴォイスチェンジャーによって変わられたデスヴォイスだっだ。

 「あんたが......なるほど」男の言葉に籠っているただならぬ殺意に対し、努土の期待が更に五倍膨れ上がった。いつか来る因果応報、あるいは試練というべきか、それが今日であることだ。「もう知っているんですね?俺が犯人であること」

 「随分と素直に認めたな。もっとなんか言い廻しすると思っていたが」

 「ハッハ、あれは人間では実行不可能の犯罪だったよ。ここに来たということは、あなたも何らかの力を駆使して事件の真相を掴んだでしょう?言い訳しても時間の無駄だって。むしろあんたこと待っていたよ、俺は」

 「どういうことだ?」

 「あんたは正義のヒーローで、罪を犯した俺を裁きに来たんでしょう?」努土は演劇っぽく手を大きく開けた「俺は敗られて裁きを受けるか、勝利して次のステージに進むか?どの道、あんたの存在が俺にとって必要不可欠だ!」

 「意味がわからねえな、まあいい。最初からお前を叩き潰す予定だったからなっ!」

 「なら、何を待っている?」津鷲努土はポケットから装飾したナイフを取り出し、自分の左前腕に当て、切った。

 UTは訝しんだ「なにをする!?」

 「慌てるな。これは自害ではない。我が血と聖なる樹液が交わり、進化した姿をこの世に現出する儀式なり!」津鷲努土は血まみれの左手を前に突き出し、この世のどの国の言語でもない禍々しい文言を唱えた「グラムー、シルクシュウ、ア、アズグシュウ」すると傷口から溢れている血液が瞬時に沸騰し、血の蒸気が努土を包む「AARRRRRRGH!」

 ((相手の変身だ!構えろ!))ナハトが念話でUTに警告した。

 「言わなくだって!やってやらァ!」

 UTが蒸気の発生源である津鷲努土が居た場所にタックルを仕掛ける「グワーッ!?」背中に強打を受け、UTが倒れかけたが、強く踏み止まり体勢を立て直した。

 「何があったんだ!?」UTが振り返った。そこにはこの世の物に思えぬ異形があった。身長8フィート、華奢な胴体と細長い手足が黒い甲殻に覆われ、白い縞が交じっている。ガスマスクと思わせる頭部に巨大な複眼とアンテナ状の触角、顎部に長い針が生えている。さながら蚊が巨大化した姿。
 「シュー......これが俺の新たな姿……」関節部から蒸気が発し、津鷲努土だった物が蚊の足を模した鞘から全長4フィートのレイピアを抜いた。

 「ジカラッシュ!それが我の名前だ!」ジカラッシュが背中にある二枚のキチン質の翼を展開させる。8フィートの巨躯が更に大きく見えた。一方、魔捜探偵がファイティングポースを構えなおした。

 「何なんだお前......?女装癖でもあるのかよ」

 「これか?ハハハ」ジカラッシュが自分の胸部装甲を撫でた。そこには確かに女性の胸を模した二つの隆起があった「蚊はメスの方が獰猛っていうね!シュハーッ!」ジカラッシュが踏み込み、探偵に突刺を繰り出す。はやい!

 「ウオッ!?」常人なら既にゲバブにされていたであろう、だが魔捜探偵の強化された動態視力は相手の動きを捕捉し、ギリギリ回避した。

 「シューハッ!」腹部を狙う突刺!「このッ!」横向きして回避! 

 「シューハッ!」頭部に突刺!「野郎!」首を横に傾いて回避!「掛かったなッ!」回避を予測したジカラッシュが腰と腕を捻り、剣をしならせ横斬撃を繰り出す!「グワーッ!?」頭側部に鞭を打たれたような衝撃!探偵が狼狽えた。

 「あれ?」ジカラッシュは指で剣先を弄った「防御力高いね、そのお面。頭を半分に削るつもりだったのに」

 ((射程距離が違い過ぎる!このままでは埒が明かねえぞ!))

 ((コート裏のポケットだ!武器がある))

 ((最初から言え!))魔捜探偵がコートの裏面のポケットに手を伸ばし、短い金属棒を取り出した「ポリスバトンか、まあいい」魔捜探偵が短棒を袈裟に振ると、金属棒が展開し60cmに伸びた。

 「ハッ!そんなダサい武器で俺の剣捌きに敵うとでも?」

 「うっせえ、その剣とお前の細腕を叩き折ってやるぜ!」

 「ほざいてろ。シュッハーッ!」再び踏み込み連速突刺を繰り出す。魔捜探偵がそれをバトンで次々と弾く。

 (反応は早い、直線の攻撃が対応されつつある。だが所詮は素人の動きだ。ならば!)ジカラッシュが剣を垂直に大きく振り「シューッ!」

 「ウオオ!」重い一撃だが、魔捜探偵がバトンで難なく防御!その反動で剣先がしなり、ジカラッシュに弾き返す、そのままに自分に当たり自滅か?否!ジカラッシュが腕を捻り、剣の軌道を変え、自身も体勢を低く沈む。反動力を乗せたレイピアが円を描きながら加速!これはレイピアの柔軟性と遠心力を用いた高度なフェンシング技、フリ・コミである!

 「グワーッ!」水平斬撃が探偵の胸に命中!

 「シュー......ハァーッ!」そのまま振る抜く!

 「グワーッ!」胸を切り裂かれながら飛ばされた探偵が民家の壁に衝突する。壁に円形の亀裂が生じた。

 「素晴らしいッ!」ジカラッシュがレイピアをブンブン振り回し、言った「殺戮でも相手が精一杯反抗してくれる方がこっちも燃える。こうでなくでは!」

 探偵がバトンを地面に突き立てて立ち上がった「サディストの変態め......」

 ((撤退だ!UTくん、相手が想像以上に手強い!)) 

 「ふざけんなよ」UTがジカラッシュに向き直った「こんな弱者をいたぶって楽しんでいる野郎に、俺が負けるわけないだろう!」

 「さっすが、正義のヒーローさんだけある!なら今度はそっちから攻めてきてもらおう」ジカラッシュが剣を構えなおす。

 「ああ!言われなくだってー!」と言い終わるや否や、魔捜探偵が踵を返し、ジカラッシュと真逆の方向へ全力で走っていった。

 民家の屋根でこの行動を目にしたナハトは((何をしている!?撤退を拒んだのは君自身じゃないか!?))

 ((俺は逃げてねえ!こういう長い物を持つ奴は狭い場所に誘って動きを封じるのがセオリーだよ))

 ((でも距離が遠しぎると僕からの通話がつか))話が途中で切れた。どうやら圏外のようだ「はぁ.......」ナハトがため息した「どうなってしまうのか......」と言い、UTが行った方向に移動し始めた。一方、相手の突如の行動に一瞬反応が遅れたジカラッシュが我に返った。

 「敵前逃亡とは、まったく情けない」彼は剣を鞘に戻し、翼を広げた。透明の翼がヴーンと音を鳴らしながら周囲に衝撃が生じる程の高速で振れる。「フン!」ジカラッシュが高く跳躍し、空中20mほどの高さでホバリングする。集中力を二本のアンテナ触角に集めた。ジカラッシュがモスキート・センスを起動した。すると視界ブラックアウトし、光点が現れてが点滅する、CO2の光だ。ここから急速に離れていく光点があった、獲物だ。

 「まあ逃さんだがなーッ!」光点を追い、ジカラッシュが加速する。 

 「ハァー、ハァー、追ってきてないっ、のか?」UTが走りながら傷口を抑えた。深くはないが、長い。右脇腹から左胸部までクリーンヒットを受け、この材質不明のコートが無けれな、両断されていただろ。道路の向こうから新聞配達のバイクが見えた。UTが思案した。見られるのは流石にまずいだろう。彼は一旦路地に隠れようと思った、その時。

 「グワーーッ!?」ジカラッシュである!彼はCO2の軌跡を辿り、上空から猛禽めいたダイヴキックを決めたのだ!それをもろに受けた魔捜探偵がアスファルトにめり込んだ。鉤爪を備えた足で探偵の背中を掴み、引き上げると、また地面に叩きつける!

 「逃げられると」叩きつける!「ガハッ」「思って」叩きつける!「コポ」「いたのか!」叩きつける!「アバーッ!」

 連続に大ダメージを受けた魔捜探偵は地面にうつ伏せ、力が入らず動かなくなった。新聞配達バイクか徐々に近付いてくる、配達員が減速し彼らの事を不審げに見た。ジカラッシュは素早く抜刀、バイクの前輪の隙間に剣を刺し込んだ。「ああいええええ!?」前輪が急に止まったことで後輪が慣性によって高く跳ね上がる!運転手は飛ばされて、一瞬遅れてバイクが彼の両足に落下「アアアアーッ!!」配達員は悲鳴を上げた。

 「さあ、そろそろご尊顔を拝見するとしようか」ジカラッシュが魔捜探偵を跪かせ、背後から顎を掴んだ。

 「ヤメロ!」探偵の抵抗も虚しく、マスクが剝かされ、UTの顔が露わになった。痣まだらけで、鼻と口の端から血が垂れている。自慢のモヒカンは散乱し、汗と血で濡れて皮膚に張り付いている。

 「えっ、これ、マジ?」ジカラッシュは少々驚いた「我が校のいじめっ子の権化であるUTさんではないか!」

 「いじめやってねえし......」UTは怒りに満ちた目でジカラッシュを睨む「サディストの殺人鬼のクズに言われたくねえ!グワーッ!」UTの顔面に拳をが振り下ろされた。

 ジカラッシュはUTの顎を掴んで吊り上げた「確かにお前はやってないかもしれない、だがお友達はどうかな?特にあのビッチが」

 「お前ッ!」

 「ああ、そいえばお前ら付き合ってたっけ?なら知っているだろう?俺に起こったことを」

 「お前がフェンシングの大会でキレてインタービューしにきた新聞部員を殴ろうとしただろう。知ってるぜ」あれは半年前津鷲がフェンシング大会にでる際の出來ことだった。当時取材に行った新聞部員が不用意に津鷲の剣に触ったことで彼はを切れさせ、殴りかかろうとしていたところでカメラマンをやっていたミホに阻まれて一本背負投げを見舞われた。“ダークサイドに堕ちた若き剣士、それを投げ飛ばす女騎士"という校内記事ができた。

 「そう、あの事件が俺の人生を狂わせた、俺だって被害者だというのに......」

 「ハッ!動画を見たぞ......あれはどう見たって先に手を出したお前が悪い、女の子に投げ飛ばされるぐらいちょうどいいだろ......グワーッ!」パンチが腹に刺す!

 「違う!あいつらが許可なしで俺の剣を触ったんだぞ!俺の命同様の剣を......」ジカラッシュが握力を強めた

 「ぐお......!」

 余程腹がっ立っているのか、ジカラッシュは早口で喋り始めた「あれから俺はどんな生活を送ってきたか。部活から疎遠されて、全国大会優勝の道も絶たれた。あの時動画がyoutubeにアップされて俺を笑い者にした。お前とつるんでいる連中から毎日嫌がらせを受けていた。酷いやつもあった。何度も自殺しようと思ったことか、あの方に力を授けられたまでは......」

 「自己自得だろうが!被害者ぶってんじゃねえー!」

 「黙れ!」ジカラッシュが力任せに魔捜探偵を路地に投げ飛ばす。

 「グワーッ!」ゴミコンテナの鉄板を凹ませたほどの衝撃を受け、UTの視界が朦朧とした。叔母の言葉が頭の中にが浮かべた。

 『人間は二種類しかいない、強者と弱者だ。人種や性別など、関係ない。強者は剥奪する、弱者はレイプされて、殺される、弱いこと自体は罪だ。弱者に同情は値しない』

 (ファック、オフだ。クソばばあ)UTは心の中で叔母を罵った。ジカラッシュは左手で剣先を弄っているのを見えた。UTが気を失った。

 「そろそろ終わりにしようか。シュー......」身を沈みながら剣を持つ右手を弓を引くように極限まで後ろに絞り、力を溜める「ハーッ!」ジカラッシュが地面を蹴り爆発的に加速、衝撃が生じる程の必殺の一突が魔捜探偵に突き刺す!その直前!

 「なにー!?」訝しんだのはジカラッシュだった。研ぎ澄まされた一撃を魔捜探偵が手の甲で弾いて起動を変えさられたのだ!「グワーッ!」ジカラッシュは勢い余ってそのまま路地のさらに奥に突っ込んでいった。長い手足が壁に、地面を掠る。探偵は身を起こし、帽子を被り直した。いつの間にマスクを顔に着き、その色はさっきより少し暗く、鈍い銀色になった。

 「なるほど、君にも自分なりの理由があったんだね」探偵がコートに付いた埃を振り払いながら言った「でも僕はまだ彼を死なせるわけにはいかない」

 「お前......」ジカラッシュも立ち上がって体勢を直した。「UTではないな、誰だ?UTをどこにやった?」

 「彼は今の最後の授業を受けている。彼が帰ってくるまで僕が相手だ!」探偵が両手の拳を握り、右手を前に突き出し、左手が心臓の前に構えた。

 「いいだろう。俺はお前から危険を感じた。多分お前がUTに力を与えただろう。あの方が言ってったイレギュラー存在......」ジカラッシュが肘を90度に曲げ、フェンシングを構えた「このジカラッシュが取り除いて見せるわ!シューッ!」

 「イヤーッ!」

 二人は激しく切り結んだ!

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 UTがまだ七歳の頃だった。夏休みの初日、何も告げられず急に空港連れて行かれ、初めて飛行機に乗った。目的地が分からない、おばさんは何も教えてくれない。聞こうとしたら頬を張られた。空港に出ると空気が生暖かくてねばねばとしていた。迎えに来た中年の白人がおばさんと握手して短くハッグした。そしてUTを見て何かを話したが、UTはその言語がわからない。車に乗って何時間も経って、山中の村に辿った。村の子供たちが車を追いかけてきた。皆アジアン的な顔立だが、褐色の皮膚を持つ子が多かった。車がそれほど大きさのある屋敷の前に止まった。門を通るとここが何らかの道場であることが分かった。庭に年齢バラバラの少年少女たちが空手道着を着て正拳突きや廻し蹴りをのムーヴメントを繰り返してる。少し離れた所でブラックベルトを締めた少年たちが組手をし、受け身など上級の技を練習している。白人のおっさんが入ると少年たちが皆稽古を止めお辞儀した。

 「「「センセイ!オカエリナサイー!」」」これは流石にUTでもわかる、アクセントはちょっと変だが紛れなく日本語だ。おっさんが一人の少年の話している、ガイケという精悍な顔つきの少年だった。彼は話の途中で何度もUTを見た。数分後、ガイケとUTは試合をやることになった。

 「「よろしくお願いします!」」と互いがお辞儀し、構えた。この頃のUTは7歳の子供に相応しい身長だったが、ガイケは六年生だけあって体格に優れていた。UTが廻し蹴りをしゃがんで避け、距離に詰めようとしたが、後ろ蹴りをモロに受け、UTが床に倒れてもがいた。その光景を15歳になったUTがそばで腕を組んで見ている。

 「これは......俺の過去か?」

 「そうだ、あんたの記憶を再生して貰ったのさ、この道場もね」弟子の中混じっている一人の少女が話した。彼女の髪の毛は緑色、いや、眉毛も緑色だ。毛染やコスプレのような違和感がなく、自然な感じがした。当然地毛が緑色の人間は地球に存在しない。たぶん。

 「でもひどくない?一年生が六年生とやり合うなんて、勝負にならんわ」

 「俺もそう思う」ガイケは続くかとセンセイに尋ねた、センセイはおばさんを見た。おばさんはに正座して何も言わず。その目はじっとUTを見据えている。

 「俺はこの後、ローキックを受けて倒れてそのままマウント取られて何度も殴られた。口の中のがめちゃくちゃになってしばらくベビーフードしか食べれなかったっけな」

 「......もういいよ」少女の少年が拍手し、するとセンセイ、おばさん、道場弟子たちが皆消えて。UTと緑髪の少女だけが残った⦅あんたの過去に興味があるが、今は非常事態だ。現実のあんたは死にかけている、ナハトが頑張っているけど長く持たないだろ」

 「俺はまだ死んでいないということか?ここもあの世じゃないよな?」

 「もたもたしてると本当に死んじゃうよ」

 「でもあいつ......津鷲は強ぎる。あんな奴初めてだ⦆UTは右拳を左手包み、震えた。彼の成長過程において、暴力がかせることなかった。他校の不良、偉そうな先輩、体罰教師、ヤンキーの高校生ともやり合った。彼は喧嘩をスポーツ感じで臨んだ。喧嘩をする同士の間にはある種の黙認のルールがあるらしく、相手の肉体に苦痛を与え、プライドを挫けることができたらそれで勝利だ。相手を死に追いやる事は無い。だが津鷲は本物だ、一回で四人も殺し、平気な顔して家に帰ってランニングするような奴だ、ヤバすぎる。剣先が襲ってくる時は自分が反撃もできず、防戦一方に追い込まれた。フリ・コミを受けた時、彼は死を予感した。相手があらゆる面でにおいて優れている。(こんな奴を相手にどう戦えと?)UTの精神折れかけている。

 「方法ならある、決して楽ではないけど」

 「......そうか」

 「どしたのさ?」少女が近づき、手を伸ばしてUTの顔に手の平を当てた⦅ガールフレンドの無念を晴らさなくていいのか?⦆顔が固定され、少女の視線がUTに刺さる。仕方なくUTも少女を見返した。近く見ると結構か可愛いらしい。UTの顔が少し赤らめたがミホのことを思い出し邪念を払った。

 「ああ、したい。でもそれ以上に、俺はまだ死にたくない」

 「なら話が早い、ちょっとしゃがんでくれる?」

 「こうか?」UTは膝を曲げた。ちょうど頭が少女のと同じ高度になった。

 「OK、じっとしてろよ」と言い終わる途端、少女が顔を前に突き出しUTとキスした。

 「ムゥ!?」突拍子もない行動にUTが固まった「ムムウッ!」何か生暖かいものが口に入ってくる、こいつの舌だ!舌が下の唇の裏から歯茎を舐め廻し、更に奥へ侵入しUT口内を攪拌した。また3秒も経っていないのにUTは脳内は興奮物質の大量分泌によって何倍も長く感じている。UTだってキスや性交に憧れる15歳の少年である。頭に血が昇り、更に股間に膨脹が......そしてようやく解放された。

 「ブハー!」UTが後ずさり、手の甲で激しく口を拭いた「い、いきなりなにすんだおめーッ!」

 少女が口をもごもご動いて、言った「生体データ登録完了、スーパーヴィジャランティモードへのアクセス権限を承認します。おめでとう。なんだその反応?採血できないからこうするしかないでしょう?」

 「ぺっ、ぺっ、お前はな!俺は彼女を失ったばかりだぞ!不謹慎と思わないのか!」

 「興奮したくせに」

 「がっ、違う!言っておくけど俺は誰とでもやるタイプじゃないからな!俺はビッチじゃねえ!」

 「論点がずれたよ、がきが」少女は道場の端へ行き、床に座った「アタシの仕事はこれで終了だ。戦闘力はかなり上がったはず。やり方がわかるな?」

 「ああ、なんだかやれる気がしてきたぜ」生体データ採取の際に、スーパーヴィジャランティモードの情報も自動にUTの脳にインプットしたのだ。

 「よろしい、ならば行け。出口はあそこだ」少女が庭の先にあるゲートを指さした。

 「その前にお前の名前を教えてくれ」

 「なに?一回キスしただけで更なる関係を図ろうと?残念だけどアタシはビッチではない」

 「でもセカンドキスを奪ったことは事実だ。弁償かわりに名前を教えてくれないか?」

 「わかったよ、どうしても言うのなら」少女はため息した「マスターとでも呼んで。デモニックディテックティブのオーナーでもある。ナハトとあんたのボスとも言えるね」

 「デモ......ああ、魔捜探偵のことか」マスターは眉根を寄せた。勝手にスーツの名前変えられるのが不満らしい。

 「ありがとよ、マスターさん。俺行ってくるわ!」UTは手を振りながらゲートの方へ走った。

 「おう、行ってらっしゃい」マスターも手を小さく振った。ゲートをくぐるとUTの姿が瞬時に消えた。外に白い虚無が無限に広がってゆく。

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 「グワーッ!」

 「手こずらせやおって......」ジカラッシュは打倒された魔捜探偵を見下ろして剣を振り付いていた血液を払った。アンテナ状の触角が一本折れている。

 (もう、限界か。でも)魔捜探偵は左脚を斬れれて、右肩が剣に貫かれた。離れた排水溝の中にいるネズミの体にも同じ傷があった。UTが気を失ってからナハトが自分の意識をUTの体に繋げてコントロールしていたのだ。だがUTその間に受けたダメージはナハトにフィードバックする上で精神に大きな負担をかける故に決して多用できる技ではない。だが場を凌ぐにはそれをやるしかないとナハトが決断した。(持ちこたえたぞ、UT君!)ドクン!心臓が強く鼓動した。コートの胸部中央に墨汁の染みめいた黒点が生じ、拡散してゆく。

 「トドメダ!シィイイイヤァアアアアー!!」ジカラッシュは高く跳び、戦闘機ショーめいたアグロバッティックな宙返りを決めると、レイピア前に突き出し、滑空しながら魔捜探偵めかけて45度急ダイブする!まるでロケットミサイルめいた突進攻撃!魔捜探偵よ、万事休すか?否!この場でF1レース用の高性能カメラがあればその変化を捉えることができたであろう。探偵のコートが全体に黒く染められ、裾が長くなり、表面はレザーのような材質に変り、胸、背中、腹部にガンメタルの金属版が浮かぶ、まるで鎧を着たようだ。最後に銀色のマスクが水銀みたいに蠢き、怒りの悪魔のような形状を作り出す!これが魔捜探偵の戦闘特化形態、スーパーヴィジャランティモードである!

 剣先が魔捜探偵の頭部を貫かんとする!魔捜探偵の両手が霞む!

 「バカなーッ!」ジカラッシュが驚愕した。相手の額を狙った突刺を探偵が両手の手の甲で挟み軌道を変えたのだ!剣先が虚しく魔捜探偵の頭側部を通っていく。だがジカラッシュはまだ前進が止まらない、空中で体を捻り、膝蹴りの体勢に入った。魔捜探偵が動いた。

 両手で剣を挟んだまま、剣身を沿って滑っていく、探偵の両手が剣の鍔に接触すた。ジカラッシュは手を離さない、だが魔捜探偵の手は閉めたトラバサミめいて緩まない。剣を握っている手が強引に曲げられ、剣の柄がジカラッシュの顔刺さった。

 「プアバッハ!?」ジカラッシュが慣性に乗せられ魔捜探偵の後方に墜落した。(いったい何が起こっている!?)ジカラッシュは辛うじて上体を起こし、顔面の甲殻ひび割れて濁ったハチミツのような液体が滲み出る。魔捜探偵の方を見ると、彼にとって悪夢じみた光景が目に入った。

 スッキン!スッキン!魔捜探偵はレイピアを地面や壁にぶつかり、折ろうとしている。

 「何をする!?ヤメロー!」ジカラッシュが叫ぶ。だが探偵は構わず、長い剣身をゴミコンテナと地面の隙間に差し込み、270度曲げた。

 「中々折れないな、アッ」パリン!軽快な金属音とともに、全長4フィートのレイピアが金属疲労を迎え、二つに折れた。

 「あ.....あぁああ.......」ジカラッシュの脳内にあの日のトラウマが蘇える。剣士にとって剣は手の延長、体の一部だ。あの新聞部員は勝手に触った、だから気が立った。連中はフェンシング対する敬意を一切なかった。わからせてやらねば。だが女子にやられた。笑いものされた......

 「お....お....うおおおお!おのれー!おのれぇえええー!殺す!殺し殺し殺しころしぃい......ってやらぁぁああああ!」語彙力を失い怒り狂うジカラッシュを探偵は静かに見据えた。視界の上に”2:35”が表示されている。この状態でいられる残り時間を知らせている。

 (UT君、相手が混乱している、今がチャンス)ナハトが念話でUTを促す。魔捜探偵は折れた剣をぽいと放り捨て、バトンを伸ばした。

 「さっきはよくやってくれたな。たっぷりやり返すぜ」

 「返す......?違う......」ジカラッシュは乳房を模した胸部装甲を両手で掴み、取り外した「お前こそ、死で剣の弁償、しろーッ!」二枚貝のような物体が地面に落ちると、貝が開き中から大量な肉塊が吐き出される。その量は明らかに質量保存の法則に反している!肉塊が人の形を形成し、二匹のキチン質の甲殻に覆われた怪物になった。カイメンだ「コロセーッ!」ジカラッシュが魔捜探偵に指を指す、カイメンが襲い掛かる。

 「「ジュルルルル!」」

 「またこいつらかッ!」魔捜探偵は探偵バトンを握りしめ、力を注ぎ込む。するとバトン先端部に金属が生成し、形を変え、先端がツボミの形状のメイスとなった。

 「オラァ!」メイスを振り下ろ!「ブオロロー!」一匹めのカイメンが頭を割られて即死!すかさず二匹目が襲ってくる。「ジュルルルル!」だが魔捜探偵は身を沈み爪攻撃をかわすと大腿にメイスを叩き込んで膝まづかせた「ウラァッ!」「ブオロロー!」そしてのフルスウィングでとどめを刺した。

 「次はお前だ!津鷲努土!」探偵はホームランを予言する四番打者めいてメイスを掲げる。ジカラッシュは地を這う獣めいて四つん這いになり、攻撃の体勢を整えた。

 「よかろう.....ならば!シュウウウウ......」顎に蚊の口も模した針を前に向かせ、針に体液が集まり二倍に膨脹した「最後の剣を使わせるとは思わなかった」手足に力が漲る。周囲の空気を震え、熱気と殺意でジカラッシュの背に陽炎が生じた。

 「ハーッ!!」その姿が霞む程の速さで、バリスタ弾の如く突進した。相手の姿勢から突進を予測した魔捜探偵は同時にメイス投げ飛ばす、だが当たる直前にジカラッシュが爆発四散し、その体が数千匹の羽虫に分散した。これがレギオン・ブンシンといい、窓の僅かな隙間から部屋に侵入し密室殺人を成し遂げた技だ!メイスがあさっての方向に飛んでいく。羽虫は魔捜探偵を中心に飛び回り視線と聴覚を妨げる。

 ⦅ここで使ったか!身体を再構築して攻撃してくるぞ!⦆

 ⦅こいつのやりたいことは想像がつく⦆

 魔捜探偵の背後に羽虫たちが集まり、空中でジカラッシュの頭部から腰までの身体が構成された。レギオン・ブンシンを維持するため下半身と翼は形成できないが、探偵の延髄を貫くのはこれで十分と彼が判断した。ジカラッシュは音を立てずにエビ反りとなって致命なヘッドバットを繰り出す(シューッ!)

 だがそれと同時に魔捜探偵がバックステップし、ジカラッシュの渾身のヘッドバットがまたも虚しく空を通っていった。魔捜探偵は背を向けたまま話しかけた。

 「目くらましいからの背後に回ってアンブッシュ、セオリー通りすぎんだよ。津鷲ちゃん」そして左手でジカラッシュのの左での上腕を掴み、右手でが前腕を掴んだ。ジカラッシュの脳裏にあの日の光景がフィードバックする。若き騎士と呼ばれる自分がいかにも地味な女に投げ飛ばされる屈辱の記憶が!

 「は、離せッ!」ジカラッシュが右手を動かし爪で魔捜探偵を切り裂かんとするが、防御力を高めたレザーコートに白い掠り傷の残しただけだった。探偵は手を離さない!

 「ミホの分だ!しっかり受けろよぉ!」魔捜探偵が強く踏み込み、体を前方に折り曲げた!ジカラッシュはジェットコースターが加速する際に、内蔵が後方に置いてかれる感覚を覚えた。体が円を描きながら地面に迫るる!KRAAAAAAASH!路地に衝撃が走り、地面に円状の亀裂が生じた。粉塵が空を舞い、羽虫の群れは散っていった。残されたのは魔捜探偵と膝以下の部分が消えて微動だにしなくなったジカラッシュだった。

 「イッポン」と魔捜探偵は呟いて、コンテナに刺さっているメイスを引き抜いてジカラッシュに向き直った。スーパーヴィジャランティモードが終了を迎え、アーマーが水を掛けたワタアメのように溶けて、オーカー色のドレンチコードに戻った。マスクからも表情が消えて無機質の曲面になった。

 「さて、お前をこれからどうするか」

 「俺の完敗だ......殺せ」ジカラッシュが弱弱しく言った「俺を......悪役として......完成させてくれ」

 「殺しゃしねえ......けど」探偵メイスの花のツボミめいた先端がパカッと咲いて、中に赤熱した"ᗡ"の模様の鉄の輪っかがあった。ジカラッシュはそれの用途を瞬時に悟った。

 「待ってくれ、もう敗北を認めただ!これ以上のことはアアアアアアーッ!」ジカラッシュのひび割れた甲殻に烙鉄が当たった!

 「あの四人のもっと痛かったぞ!」「アアアアーッ!」「彼女らの気持ち考えたことあるのか!」「アアアアーッ!」「剣を持って出頭しろ!」「警察に全面に協力して俺の無実を証明しろ!わかったか!?」「アアアアーッ!わ、わかったからもうやめてくれ......!」離れた場所でナハトが彼らを見守っている。これはただの拷問ではなく、熱を通じて津鷲努土の中にある邪悪な力を焼き払うと同時、精神に暗示を仕掛けることもできるのだ。だがいささかやり過ぎたようだ。

 「待って、僕も君に質問がある」ナハトが魔捜探偵の元に駆け付けて、言った「あのナイフ、誰からもらったんだ?」

 「しゃべるネズミだと?貴様がさっきの......」ジカラッシュは少し驚いた「話さないぞ......これに関しては何があっても......!」

 魔捜探偵とナハトは互いを見て、そしてメイスをジカラッシュに当てた。

 「アアアアアアーッ!やめてくれ!ブラックハンドだ!彼は自分のことブラックハンドっていった!アーウ......」ジカラッシュの意識が途切れて、キチン質の甲殻が赤い蒸気となって空気に溶けていく。カイメンの死体にも同じ現象が起きた。憔悴し気を失った津鷲努土が横たわっている。

 「ブラックハンド......」

 「なんがわかったことでもあったか?」

 「いや、全然。君がもっと穏便にやってくれたらもっと情報を得たかも」

 「おいおい、俺だって......」UTは何か言おうとしたが、やめた「まあいい、ありがとな」

 「何が?取り敢えずこれを回収してここから離れよう」

 「そうだな」魔捜探偵が装飾ナイフを懐に入れて路地から出た。新聞配達員は依然足がバイクの下に挟まれている。探偵がバイクを持ち上げて移した。

 「大丈夫か?」

 「あいえええ......あなたは一体.......」配達員が足を抑えながら魔捜探偵を見上げた。左足が右足の二倍ぐらい腫れている、骨が折れただろう。

 「あー、これは重症ですねー。携帯持ってる?」

 「スマホはバイクのシートの下に......」

 「ここか?」魔捜探偵がバイクのカギを逆方向に巻いてシート下のトランクを解錠して中のスマホを配達員に渡した。

 「救急車よべるか?」

 「はい、大丈夫と思います......」

 「達者で」魔捜探偵が走り去った。


 数十分後、UT達が川原のベンチに座り、日の出を迎えた。変身を解けたUTが自販機で購入したカフェオレを飲んでいる。顔乾いた血がついている。ジョギングしている人が通り過ぎて彼のこと不審げに見た。

 大変な夜だった。捜査のためとは言え、やっていたこともまた犯罪だった。真犯人をみつけて、懲らしめたのはいいが、多くの人が自分の身勝手で傷つけられた。ミホと殺された3人はこれで安らかにあの世に行けるのか?力に対してもっと強い力をもって叩きのめすことは本当に許されるのか?(おばさんなら"当然だ”というだろうけど。)津鷲が自首しても、自分は本当に無罪釈放されるのか?俺はこれからどうなるんだ?

 「家に帰りたい」

 「もう少し辛抱だね。君はまず警察局に戻らないといけない」

 「えー、またぁ?」UTの面倒くさそうに言った「俺徹夜してすっげー疲れたけど?」

 「勿論一人で帰るとは言ってないさ。余計に怪しまれる。阿久井さんに送ってもらうから安心して」

 「あのオッサン、一体誰なんだ?魔捜探偵のサイドキックになるって言ってたよな」

 「彼は有能なだからね」

 「答えになってねえよなー、ウェッ!?」川原沿いの道路にパトカーが近づいてくる。UTが慌ててに立ち上がり、離れようとした。

 「待って、阿久井さんだ」車が止まり、警官姿の小柄の男性が降りてこちらに手を振りながら走って来る。

 「いきなりびっくしたぜ」UTが阿久井向かっていった。

 「アッ本当にすみません。お疲れさまでした!」

 「阿久井さん、そちらの状況はどうだった?」

 「はい、署は未曾有の事態で非常に混乱しています。上の方たちはこの失態を揉み消すに全力を尽くしてくれるでしょう」そしてUTを見た「UTさんは警官署が襲撃者を受けたことを知り、身を守るため留置場を抜け出すしかないと主張してください。カバーしますんで」

 「不穏すぎるだろう......」UTが欠伸した「本当に仕事なくなるぞ」

 「それなら心配に及びません。さあ、車に乗ってください。中に飲み物とおやつを用意してあります」

 「お、気が利くね」だがUTが後ろ席に座ると、猛烈な眠気が彼を眠りに誘った。10秒後、彼はいびきを立てながら後ろ席に横たわった。

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 天に衝く広葉樹、その幹にシダや蘭の花が生えており、ポルネオの密林を想起させる風景であるが、鳥や猿のなき声が聞こえず、空を飛ぶ蝶々や地に這う蟻などの生物が見当たらず、代わりにプロペラを備えたドローンが枝の間を飛行し、ドリルで木々のサンプルを採取し健康状況を監視する。木の更に高いところにはドーム状の天井があり、光の調整に役立っている。ここは原生林ではなく、人為的に作られた植物園なのだ。

 その中の一か所にガラス張りの温室があった。デニム質のオーバーロールの中に白いタンクトップを着た女性がいた。年齢は二十代前半。長い黒髪を三つ編みに束ねて後ろに下げている。露わになってい両腕は褐色に焼けて、そのラインは逞しい。

 彼女は温室の中に陳列されている植物を凄まじい速度でスケッチを描きおろして、葉や枝をハサミで採取しチャック袋にしまる作業をしている。どの植物も見たことのない種類であり、特別な外見をしている。"BRUTE BULLY”と書いたラベルが貼られている植物は根っこが異常に発達しており、植木鉢から溢れて地面まで伸ばしている。"METAL BANE”の幹が椀の形になって、中に黄緑色の液体が煮えたぎている。そして"ZIKA RUSH”は茎が細長く、鋭利な針葉が生えている......のはずだった。

 女性がZIKA RUSHに起きた異変に気付いた。茎が黒ずんで萎えていて、自重に折り曲げられた。彼女はかばんとスケッチブックを置いて去った。ドームを出ると自電車に乗り300メートル先の屋敷に走った。泥まみれのブーツで高級そうなカーベットを踏んで進む。

 『こんにちは、レディ・スティルデア。何かをお探しですか?』室内のあちこちに設置されているスピーカーから声が聞こえる。この屋敷の管理システム、通称”メイドさん”声だ。

 「ご主人がどこ?」

 「書斎で仮眠しております」

 ステルデアが急いで書斎に辿った。ドアが閉じていない。痩せた老人がソファにもたげていびきを立てている。スティルデアが彼の肩を軽く揺さぶった。

 「起きてください、ラウバンさん」

 「ふがっ」ラウバンと呼ばれた老人が眠りが邪魔されて、苦しそうに瞼を数回開け閉めすると襟に挟んでいたメガネを取ってかけた。

 「なんだね、慌てて.....」

 「ジカラッシュの花が萎えました」

 「ジカラッシュ......ああ、あの少年の.....」ラウバンが机に手を伸ばしコップの中に残っていた茶を飲み干した「それで、ブラックハンドさんからの報告は?」

 「まだです」スティルデアが首を横に振った「全くどこで遊んでいるのか......」

 「そうか、じゃあ私から連絡を試みよう」

 「貴方は彼を信頼し過ぎです!」スティルデアは声を荒げた「私だって、いつも貴方のためならこの命を捨てる覚悟が出来ています!」

 「コラァ!」

 「キャッ!」老人が立ち上がりスティルデアの頬を張った。怠そうな雰囲気が消えて、老体に気迫と威厳が満ちている!

 「そんなこと軽く口にするんじゃない!」

 「すみませんでした!」

 「すー、はぁー」ラウバンは息を吸って吐いた。今度は優しい声でスティルデアに話しかける「ブラックハンドは長い付き合いだ、彼は誰よりも信頼に値する男......そしてお前もだ」その頬に掌を当てた 「お前はまだ自分の真の価値が分からない、学ぶことがたくさんある。いずれ活躍の機会が来る。それまでの辛抱だ。スティルデア(Still there)、それまで私の傍にいてくれ」

 「はい.....本当に......」スティルデアは感極まり、目が潤んだ「ありがとうございます......!」

 「わかればよろしい。また今日の記録が終わっていないでしょう、もう行きなさい」

 「はい、失礼しました」スティルデアは目を擦りながら書斎から去った。ラウバンがパソコンの電源をオンにして、タイプし始めた。何重のファイアウォールを通して電子メールを送った。彼は窓の傍へ行き、外の景色を見た。スティルデアが自転車に跨ってドームに戻っていく。

 「農業をやる以上、害虫は避けられない。だが我々が求めるのは可憐の花や艶やかの果実ではない。動物に食われることから、植物が毒を分泌するようになり、動物がその毒を消化できるようにお互い刺激し合い進化した。君の出現は、どんな刺激を与えくれるか?害虫くん」

 『きっと素晴らしいタネが生まれることになるでしょう』メイドさんが言った。彼女は主人が独り言する際に、適切なフォローを入れるように設定されたのだ。


FIN

 

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