チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベッチャーハン⑤
数分後。店長、バイド、炒漢、センチ美、トマトンの五人はテーブル席に座っていた。客が誤って入らないよう、シャッターは半分まで降ろしている。手と心が折れた店長は炒漢に状況を説明をしていた。
「半年前、本社に新しい社長が就任した。祀浦娘々という、奇妙な女だ。あんたと同じコスプレみてえな格好して、背後に布が浮かんでいた。ウッ」店長は破壊された右手にアイスキューブ一杯のコップを当てた。額に脂汗が浮かびあがる。「何もかも変わってしまった。研修に呼ばれて本社に行った社員が帰ってくることなかった。代わりに本社の人が、あのスライムどもを連れて来た」
「やはり、スライムやったんか」トマトンは横目で調理台と床に隙間に蠢いているぶよぶよを見た。「なんだか、ゲームと大違いわな。見た目汚いし、グロいし。全然かわいくない」
「本社の連中はあれを転生者と呼んでいるけだな。ああ見えて一応人語がわかるらしくて、注文通りに料理を作ってくれる。スライムに給料が必要ない。生ゴミを食べて、休みもなくほぼ24時間働ける。しかしその身体から……常に、畜生……!常に水分……粘液が分泌して、それが料理に入ってしまうんだよ」
『なるほど。だからチャーハンがヌベッとなってしまったのか』
「異常の湿度もそいつらのせいやな」
「ってことは、私たちはスライムの体液が入った料理を食べたってこと?オヴぇ……」センチ美は胃から込み上がた物を食道筋で押し返した。自分が注文したチャーハンほとんどがテツローに食べられたのが幸いだと思った。
「どうせチェーン店の料理なんとこんなもんだから、客もあまり気にしなかったさ……あんた以外はな。グググ……」店長は自棄的に笑った。「これ以上のこと俺は知らねえ。でもあんたらもうお終いだ。本社はこんな事見過ごすはずがねえ……企業の力で潰してくるぜ!」
「えっ!?き、企業が!?」慌てたセンチ美は炒漢を見たが、その表情は岩のように固く、一切の動揺を見せない。
「店長はん、本社がもし法律的に動いたら、それはつまりスライムのことが世間に知らされることに繋がる。本社がそれが構へんか?」
トマトンの質問に、店長は肩を肩をすくめた。
「さあな、他に色々やり口あるんじゃないか?ていうか俺もヤバイな。社内秘がバレたしスライムことまで喋ってしまった。ククク……所詮はまずい料理しか出せない三流店の店長……」
『いや、それは違う』炒漢は立ち上がり、店長を見た。『お前の右手を潰した時にわかっていた。あれは年月をかけて包丁と鍋を振ってきた、誇り高き料理人の手だ。あんな手を持った者は、客にまずい料理を提供する現状に納得いくはずがあるまい』
「(わかってたのに折ったのかよ……)どうせ俺は一介加盟店の店長だ。会社の方針に逆らえねえ……」
『私がやる。まずは転生者の謎を突き止めよう』
「どうやるんだ?スライムは言葉が出せないと言ったはずだ」
『言葉が喋れないなら、チャーネットにアクセスさせ、直接聞く』
「……チャーネット?なんじゃそりゃ?」
『まずチャーハンを作る』