辛い麺メントIN TOKYO⑦ #ppslgr
ミルクを飲んでだいぶ咳が治まった名札に店長と書いてあった男に俺は腕を貸して立たせた。
「ここは危ないです。早くバックドアから出たほうがいい」
「ンッフ、そうします……貴方は?」
「俺は大丈夫です。急いで」
店長を俺は破られたショーガラスマラーラーとブルタルダーヴィの戦いが勢いを増し、まるで赤と黒、二つの竜巻が絡み合っているようだ。「俺は……」
達人同士の戦いに、俺が介入できる余地あるのか?
「フンッ!」ダーヴィの水牛角頭突きを、マラーラーは両手で掴みかかった。
『いかなる術を用いて身体を巨大にしたか知らんが掴み所を増やしてくれて有り難い!トオ!』両手が角を掴んだまま妖狐は跳躍と同時に腕を押上げて体操の鉄棒選手めいて身を翻す。さらに空中で腰をねじって180度ターンし、ダーヴィの背中に乗った!『ハハ!まるでロデオだ!』
「DAMN IT!降りろ!」攻撃が軽くいなされたことと背中を乗られていること、二重の屈辱がダーヴィの怒りを強めた。マラーラーを振り下ろすべく体を左右に振り、暴れ回る!
『ドー!ドー!困った暴れ牛だ!』「テメェ!!!」
腿でしっかり締め付けながら、ダーヴィの動きに応じて上半身をメトロノームのように揺れて重心を保持する。振り降ろせない!これも合気道の応用か!
「劣勢だぞ……王子、ダーヴィに加勢してくれよ!」
「いや、私が加勢したところで、さっきの肩を獣に変化する術を使われて二の舞になるだろう。それに、私とダーヴィが苦戦する原因は他にある」
「あ?それはどういう……」
「時間ないのであちらで説明してもらうぞ」
と言い、王子は輝く指先を伸ばしてきた。
「あっ、ちょっ」
指先が俺の額に触れた瞬間、視界がカメラのズームアウトのように後退し、自分と王子、そして店の環境をDIABLOⅡのような45度俯瞰視角で見ることになった。戦っているダーヴィとマラーラーの動きがスローモーションになっている。これが王子の魔法「ミーティングルーム」。意識を肉体から抽出し、現実から少し離れた『外の世界』に入れる。この世界では時間の経過は現実の1/75で戦局を俯瞰することもできるため臨時の作戦会議に便利。いわばゲーム中Escボタンを押したような感じだ。
でも王子はおもにお説教の時にこれを使う。
「先に言っておく。私とダーヴィはとても強い。もし自分のリージョンにいたとしたら、あの妖狐におくれを取られることは無かろう」
脳の中に王子の声が響く。
「しかし我々がきみがいる現実に出現した場合、表現力がきみの想像力に大きく左右される」
「……つまり?」
「きみはどこかで、M・Jに劣等感を抱えている。文章も戦闘もどうせM・Jに勝てない。その思いが私とダーヴィにデバフをかけて、表現力が抑圧された」
「にあ、勝ち負けの話じゃないだろ?アレの中にM・Jがいる。助けてやらないと」
「M・Jはまた助かるかもしれない、殺してはいけない。それが我々を制限したんだよ。あの妖狐は確実な悪意を持って行動している。このままだといずれ死人が出る。そうなる前に確実に仕留めるしべきだ」
「何言ってんだ王子、M・Jだぞ!」
「やはりな。A・K、おまえは弱くなった」
「なに?」
「昔のおまえは強くて、好き勝手だった。他人が何を思うか知ったことではない。己を通す強さがあった。でもnoteに来て、パルプスリンガーと知り合って自分もパルプスリンガーと名乗るようになってから、おまえは変わった。仲間とライバルを得て、モチベーションが上がったものの、スキの数で一喜一憂になり、フォロワーの文章が自分より評価されると嫉妬して落ち込む。そしてなりより致命的に、おまえは連中のこと好きになったのだ」
「……それがどこがいけないってんだよ?」
「良し悪しはさておき、今の状況を打破するには、孤独で傍若無人だったおまえ時のおまえが必要だ。今最優先の事項は全力でマラーラーを止めること。おまえの想像力で私とダーヴィに力を与えるんだ。あの妖狐をねじ伏せて、消滅させる力を」
「……」
「これで奴らに疎外されたとしても、心配は要らない。パルプスリンガー連中は所詮、浅はかな人間どもの一部に過ぎん。お前には我々が付いている。真の友とはいつでも自分自身のみ、そう思ってやってきたのではないか」
「……王子の言う通りかもな。俺は変わった。変わってしまった。でも、意外と嫌にならないんだよ、パルプスリンガーってのは」
「なに?」
「たしかに自分より評価された奴と見た時はムカつくけど。でもよ王子、奴らのおかげで、俺の世界が広がった。宇宙の中心は、人の数だけあるってわかったんだ」
「話が跳躍的だぞ」
「奴らから色んな事を知った。決して無駄ではなかったぜ。証明してやるよ、王子」
「待て。私の話したこと、理解している?」
俺は論理マウスを動かし、CONTINUE LIVEの文字列をクリックしてミーティングルームから退出した。
「あっ、戻れた」
視界がズームインし、意識が肉体に戻った。目の前にエルフの王子が呆れた顔している。
「きみってやつは……で、どうする?証明だの言ったけど、きみは何ができるっていうんだい?」
「そりゃ……」店外にもつれている二体を見やる。「俺が行くしかないっしょ!」
『そろそろ牛さんを寝かせるか!タァーッ!』
ロデオ姿勢から、マラーラーはダーヴィの角を両手で掴み、体を浮かせる。右膝を突き出してダーヴィの背中に押し付けた状態から全体重を叩きつける!プロレス技、カーフ・ブランディングだ!
「グワーッ!」思わぬ一撃がダーヴィは地面に叩きつけられ、顎に強打!アスファルトに擦りつけながらダウン!
『相手の力を借りて相手を殺す!これぞアイキル・ドーの極意なり!』
勝ち誇るマラーラー。アイキル・ドー、恐るべし!
『では敬意を込めて、苦しまずに』
マラーラーが掲げた右手に、赤い霧が凝縮し、剣モードのクリムゾンバレットを生成した。
『介錯してやろう……!』
「ちょっと待ったァ!」
『ヌッ!?』
振り下ろされる剣がとどまり、妖狐はこっちを見た。
『A・K……今更出てきてもちったぁ遅かったじゃあないか?』
狐の頭を模したフルフェイスヘルメットがなぜか笑っているように見えて、俺は気圧されて、失禁を辛うじて耐えたところだった。
「そ、そんなことないぜ!俺が来たからには、万全の策があったと思えよ!」
「兄弟……」俯き状態のダーヴィが俺を見ている。しくじったら面子がもたないだろうな。俺は唇を舐めて、尽力に笑顔を作った。
「聞いてくれ、マラーラー、いやM・J。お前がまたそこに居たらな……!」