【剣闘日記】すっからかんのレッスン大会
「もう登録できます?」
「はいよ。レッスンは3時からね」
「はい」
7月初の土曜日、第四のホースマンの勢いが収まりつつ中、ようやくローマ行政がレッスン大会を再開した。俺は二ヶ月ぶりに女トロール亭にやってきた。
登録を済ませ、開始まであと一時間もある。俺はまずジムに行った。選手登録して、時間までジムでワークアウトする。それが大会がある土曜日の過ごし方だ。
トレーニング器具と濃密に交わって57分、体バンプアップして1.2倍でかくなった俺は汗を拭き、ジムを出た。久々のレッスン、ブルーフード少年、ファック多様少年、あいつらはも来てるかな?別に友達でもないけど会えたら嬉しいぜ。心躍りつつ、俺は店に入った。
「あんれ?」
過去にレッスン大会が開催される日はいつも小さなお友達と大きなお友達でひどく混んでいた場面は見る影もなく、店内はすっからかんなのだ。
-ローマ-
「カーク・イェー。試練のお時間です」
「分かりましたわ。すぐに参ります」
ゲルマン人の剣闘士、カーク・イェーが立ち上がり、銅鏡を見てもう一度身なりを確認した。満月のように光り輝くブランプリュムコーデ。姉のサークとタック組んだ時こそ最大の力を発揮するが、今日は一人で場を仕切らねばならぬ。剣闘士たちに指導を施し、己の力を示す同時に「相照らす月光」のブランドをアピールして、イメージアップを図るのだ。
『カーク、貴女はできる。信じているわ』
頭の中で姉を顔が浮かび、カークの胸に勇気が沸き上がった。
(姉上、任された大仕事、成し遂げてみせますわ)自信に満ちたカークはわざとヒールをカラッ、カラッと鳴らして廊下を歩いた。(さて、きっとアリーナはわたくしを待ち望んだ剣闘士たちが溢れかえっているでしょう、そうに決まってますわ。だってわたくしは快進撃中、相照らす月光のの一人ですもの!)
「いざ、栄光へ!」
出口を出た同時にカークは高くジャンプ!日光を受けたブランプリュムコーデが一層に輝きが増した!踊るようにぐるぐると縦軸回転し、舞うように軽やかに着地。ゆっくり立ち上げり、左手を胸に当て、右手はエレガントに広げる。目は神秘感を醸し出しために瞑ったまま!
(エントリーをかっこよく決めましたわ!)
彼女は内心にガッツポースした。
「よく来ましたわね。わたくしは相照らす月光が一人、カーク・イェー・リリエですわ。今日はあなたがたに、我ら姉妹がこしらえた装備の素晴らしさをお教え……」
カークは目を開けた。そして訝しんだ。
広々としたアリーナは、わずか二名の剣闘士が立っているだけ。
「よろしくお願いいたします!」ボリューム感ある茶髪の少女剣闘士は一礼した。
「押忍!オナシャス!」赤髪を刈り上げた剣闘士は体育会系っぽく挨拶した。
(姉上、なんか想像したのと違いましたわ。トホホ)カークは心の動揺が表に出ないように必死にこらえた。
-現実-
今日のレッスンに登録したのは、少女剣闘士一人、あと俺。
おいおいマジ?二人だけ?オーマイマルス。何が起きた?アレか?四弾以降の更新が停止したから剣闘士たちはやめたか、他のデータカードダスゲームに移籍したっていうのか?嗚呼黄昏の時代……早すぎるよ!いや待てよ。女トロール亭は公正性が結構危うい店舗で、もしかしたら密かに大会もやらずブルーフード少年とファック多用少年などの常連にカードを配ったかもしれない。賞品のカード自体は四月頃すでに入荷したから可能性は高い……と俺は横目で女トロールの父を睨んだ。このたぬき親父ならやりかねない。
まあどうでもいいや。エントリーが早くて逆に助かった。早く終わって、帰ってシャワー浴びよう。
-ローマ-
「見事にできましたわね。おめでどう」
「はい、ありがとうございました!」
「押忍、有難ッス」
カークは自分が被っている羽の意匠を入れたヘッドギアを二人に渡した。試練をクリアした者に対する褒美である。
「二人とも、これからはもっと精進して、励みなさい」
「はい」
「押忍」
「今回の試練はこれで円満ですわ。では、またいつか、アリーナで逢いましょう」
「お疲れ様でした」
「押忍」
二人の剣闘士が礼をした。カークは後ろに向き、ランウェイを歩くように優雅に歩き去った。
(……やりましたわ。参加者二人しかいないけれど挫けずにやり遂げましたわ。わたくしってえらい!姉上にたくさん褒めてもらいましょう!)
頭の中は如何にして姉に甘えるかで一杯だった。
-現実-
揃えた。
これで戦力は十分。来週のオーディション大会に出場するぞ。
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