辛い麺メントIN TOKYO⑥ #ppslgr
左肩の真紅護法獣、カイイェン。右肩の橙色護法獣、ハバネロ。二体の機械仕掛け狐はまるで本物の動物みたいに軽やかで、優雅な動きで着地した。
(これは!?)
王子は驚愕に目を見開いた。やらかした。奥の手を隠していたとは。
「アォォォーン!」「ギャウルルルッ!」
カイイェンは口から真紅の辣油ヤリが飛び出た!ハバネロは前足のスイスアーミーナイフ機構が展開して中からTABOSCOダガーが現れた!両匹一斉に王子を襲い掛かる!
「グワーッ!」背中をX字に切り裂かれた王子!傷口はすぐに赤く腫れ上がり、激痛が全身に渡り神経システムが狂ったように悲鳴をあげる!ついに絞めが緩んでしまう。その隙にマラーラーは王子の両腕を掴み、腰を瞬発に折り曲げた。王子の身体は遠心力に回され、CRAAASH!「ガハーッ!!!」地面に叩きつけられた!一本!
『ハァーッ!ハァーッ』胸を大きく上下して調息するマラーラーは残心し、悶える王子を見下ろした。『……このオレをケルベウフォックスまで使わせてしまったとは……敵でありながらアッパレ』
「ぐぉ……がっ……」
全身の皮膚が真っ赤に染まり、血管が浮かび、口角から白い泡が溢れながらも、王子の怒りに満ちた視線はマラーラーから離れなかった。カイイェンとハバネロは妖狐の両肩に飛びあげり、足をおり畳んで胴体に収納し、鎧と一体化した。
『苦しそうではないか。特別に福音を浴びせず楽にしてやろう』
銃モードのクリムゾンバレットをエルフ王子の頭部に狙い定め、トリガーに指をかける。BL辣M!
王子の頭をぶち抜くはずの高濃縮辣油弾は離れた地面に刺さった。マラーラーの右腕は一本の黒い腕に掴まれており、その腕は光を反射しない暗黒でできたような人型に繋がっている。
「選手交代だ、狐っこ。ムゥーン!」『のお!?』
人型は腰をひねり、力任せにマラーラーを店外へ投げ飛ばした!
🍜🔥🌶
店内に横わたっている被害者を踏まないように足元に気をづけながら俺はエルフの王子のもとに駆け付けた。横目でマラーラーが空中で姿勢を制御して受け身着地し、そこへ肉薄するダーヴィと激しい格闘が始まった。俺は王子のそばでミルクタンクを下ろした。
「大丈夫か王子!早くミルクを!」「だめ……!ボーチ、なかぁ!」
俺が差し出すミルクを押しのけて、王子はベルトに付けている革製のボーチに指さした。開くと中にはガラス小瓶が数本入っている。ポーションだ。
「あか、いろ!」「これか?」
言われた通り赤色の液体が入った小瓶をと取り出し、王子の目の前に運んだ。王子はそれを乱暴に掴みとり、前歯でギャップを外すと、液体を半分一気に飲んだ。
「ARRRRGH!」瓶を投げ捨て、王子は唸った。全身から大量の汗が垂れ流し、赤らんだ皮膚が徐々に元の色に戻って行く。
「フゥー」顔色がたいぶよくなった王子は息を深く吐き、自嘲的な笑顔で言った。「完全にやられた。なんて不甲斐ない。もし店に人がいなければ飽和射撃でハリネズミにしてやれたのに」
「負け惜しみかよ。動けるか?」
「いや、待って」王子はもう一本のポーションを空にし、自力で立ち上がった。「これで、何とかなる」
「便利な薬だな。次は俺にも飲ませろよ」
「ああ、人間が舌を付けただけで即死する劇薬だ。人生に飽きたら是非お試しあれ」
「やめとこ。とりあえず……」
スマホでほかのパルプスリンガーたちにメッセージを送信する。間も無く増援が来るだろう。ダービィがそれまでに持ちこたえれば……外の路上では激戦が続いている。
テン・マークテン・マークチョップ!ボディブロー!テン・マーク肘!テン・マーク突き!銃と剣を使わせまいと、ダービィは至近距離で嵐の連続攻撃を繰り出すが、マラーラーの流水めいた合気防御でいなされてゆく。
『辣ァハハハ!さっきのエルフの方がよほど善戦したぞ!』哄笑する妖狐!『においで分かる。その黒い靄の下に人間がいるな!ならばいずれボロが出る!攻略してやるぞ!』
マラーラーは水平テン・マークチョップをダッジしてかわし、瞬時に手を合わせてミスティック・サインを結んだ。狐兜の目が光る!
『忍法!赤霧がくれの術!カラァァーーッ!』
狐兜の口部がパカッと開いて赤黒の激辛毒気を噴射!
「無駄だ!」もろに毒気を浴びたダーヴィはしかし、無事である。魔法の衣「ダークミストの守り」の防護性はあらゆる毒と病原を通せない。しかし赤霧による目くらましでダーヴィの動きが一拍子遅れた隙に、マラーラーは二連バックしてインファイト状態から離脱した。
『カライ・クナイ!』着地するや否、マラーラーは真紅のクナイを左右合計12本を投擲!ダーヴィはテン・マーク連突きで打ち落とし……切れない!「グワーッ!」一本のカライクナイが左上腕に刺さった。
『どうやら防刃はできないようだな!』
ダーヴィは上腕に力を入れ、筋肉の収縮でクナイを迫り出すと、黒い靄が傷口を塞げて止血した。腕は辣毒に侵された腕の焼けるような痛みをは気合で我慢した。
(マズい。どんどん奴のペースに乗せられていく。魔に落ちたパルプスリンガー、なんて手強い。これは手心はできん……!)覚悟を決めたダーヴィは魔力を体内に巡らせる。
「WRAAAAAATH!」
咆哮と共に、ダーヴィの上半身、特に両腕の筋肉が異常パンクアップして元の三倍に膨れ上がった!さらに頭側部に二本の水牛角めいた突起がずるずると生えて顔を覆う靄が禍々しい髑髏の形を作った。これが動作の精密性を捨てる代わりに攻撃力を極限まで高める形態、ブルタルダーヴィだ!
「……行くぞ妖狐。貴様の合気道も防ぎきれぬ一撃で沈めてやる」
『合気道?否』
両拳を地面に付け、突撃する肉食獣のように相手を見定めるダーヴィに対し、マラーラーかぎ爪のように指を曲げて、両手を交叉して前に押し出し、両足を踏み込む。合気道の伝統的ポーズよりもアグレッシブな構えを取った。
『オレの技は既に合気を越えているーーアイ・キル・ドーだ!』