凶眼の拳 -昇天-
BIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBIBI
BLAME!DOOOM!
「もしカイサカはさ、あの子にひどいことしたからあんな状態にして、それでも彼女の肉体が諦められなくて、持ち出してなんかしようとしたら、ここでお前を殺(ト)ることになるけど」
颯爽に現れ、僕を窮地から助けた少年殺し屋は今度こちらに殺意を向けた。だらりと垂れている両手は黒くなったり明るくなったりしている。筋肉がリラックスと緊迫を循環しているのだ。相手の望まない答えを出したり、攻撃を仕掛けたりしたら即その二丁拳銃でハチの巣のつもりだろう。対してこっちは手ぶらだ。にしても殺し屋のくせに正義漢気取ったこと言いやがって、笑っちゃうぜ、ガキが。しゃあない、大人らしく話をしてやろう。
「違うんだ。聞いてくれ」僕は手を翳してコンを制し、呉美と過ごした記憶を思い出し、できる最大限の演技を駆使した。「彼女は呉美という、僕と一緒にここに閉じ込められて、戦闘の実験をやらされた。ここは人体改造のの実験場を知ってたか?彼女は何度も体が弄られた、悪い奴の命令しか聞かないようなロボットになった。そのあと悪い奴を僕がやっつけたけど、彼女はこの通りになってしまった。どうしても元に戻ってほしいから、ここを出る道を探ってんだ。僕たちはその」感情を込める。「親しかった仲で……」
嘘と真実は半分半分、結構傑作だと思う。
「ワオ、胸アツ展開……」コンは緊迫を解き、再び棒キャンディの色に戻った。二丁拳銃をスピンし、握ったまま腕を組んでギャング立ちしたコン。「まるでハンサムマン(TM)みたいだな」
「ハンサムマン?」
「あ、いや、こっちの話」まるで実はオタクだったとバレた不良のようにバツ悪そうに頭巾越しに頭を掻いた。「とにかくカイサカは白だ。心拍でわかったよ」
「……それはどうも」
ちょろい奴、もし僕は心拍をコントロールできるだとしたらどうするんだ?できねえけど。
「じゃあ行こうか、オレの後について来てくれあっ」
BLAM!腕を組んだまま、コンは右手の拳銃で右に向かって発砲した、頭の振らずに。急だったので僕は身を縮めた。なんなんだよ!?一秒遅れて銃弾が飛んで行った方向を見ると、もう一度全身の毛根が立った。ひび割れた卵みたい物体から濃紺色の手足が伸びて、立ち上がった。さっきと同じ怪物そこに居た。僕は反射的に耳を手で覆い……
「ゲヘハハハ」「FUCK YOU!」
手が耳に当たるまえに、コンが動き出した。足を開き、腰を深く沈む。両手は横に上下平行に突きだし、ギャング風に横に構える。頭、実際にいうと目が下に向いたまま。腕の筋肉が明滅する。
バッバ、バッバ、バッバン!合計六発の銃声。怪物は激しくダンスし、さっきと同じ「ギャーハッハッハッハッハ!」と高笑いして四散した。
「殺(ト)ったぜ!」
コンはテンションが上がり、踊るように流暢な派手な動きでマガジンを交換した。対してこっちは中々平静にいられない。
「あの怪物、一匹だけじゃないのかよ……」「カイサカはヘヴンスマイルのこと知らないのか?」「ヘヴンスマイル?」「自爆兵器だよ」「自爆兵器?あれが?」「そう、気味悪いでしょう?特にあの笑い声さ、ぞっとするよね」
そういう頭巾で目を隠しているうえで相手を見ずに銃を撃てるお前もたいがいだよ。どうやって当ててるんだ?
「しかし参ったね。このようすだと先に増殖野郎(デュプリケータースマイル)がいる。オレあいつ苦手だわ」銃口で頭を掻くコン。デュプ……でゅぷりけーたあ?どういう意味だよ。日本語で話してほしいな。
「仕方ない、あいつを呼ぼう。人を噛み奴だからカイサカは下がってって、えっと、10歩ぐらい」「呼ぶ?仲間がいるのか?」「まあ見てなって」
と言い終わる途端、コンの体の輪郭がぼやけ、姿が変わった。少年がいた場所に、古びて、傷んだスーツを着たの男性が立っている。右手に持っている馬鹿でかいリボルバーを重たそうに肩の後ろに担っている。
待てよ、姿が変わった?どういうこと?
今日はいろいろあった。自分が今戦って来た連中は人体改造の失敗作で、この異視刑はアメリカのサイボーグとやら戦うためにあったと言われ、二つの体を一つの人格で動かす野郎と戦い、愛を知った。そんでキモイ笑い声を上げて迫りくるキモイ怪物が出て、少年殺し屋が出て、そいつが目の前で別人に変身しただと?
もう思考する気力すらなく、脳が「そう言う人間も居るでしょう」と片付けようとしている。そういうことにするわ。聞いたりはしない、自分で面倒事に突っ込むことはないから。
「おい、ふざけんなよクソガキィ……たまには自分でガンバってみろってんだ!」
男は苛立たし気に唾を吐き、こっちに振り返った。
「そんで、てめえが植物状態の女をファックするいい趣味のクソ変態ガキか?」
卑怯の者、狂った者、支配者気取りの物、今までたくさんのクソ野郎と出会って、殺ってきた。でもこの者がくれた感じは今までのどいつとも違う。
強い奴を獣や兵器、それとも昔の英雄に例えらることが多いが、この男がくれた感じは……そうだな、生ごみ処理機だ。また危険も知らない子供でも、酔って判断力が下がった大人でも、ぼけた老人でも。うっかり指を入れれば、回転するブレイドが分別なく切り刻んで、砕いてしまうと同様に、彼に近すぎた者は殺しの渦に巻き込まれ、死んでしまう否応なく。そんな感じがする。おまけに異視下の奴は極限のない黒、目と口、そして上着の中に着崩れたシャツだけが白く見える。
「それがどうかしたか。警察にでも通報するか?」
コンは10歩って言ったな。今の距離は……うん、多分大丈夫だ。僕の発言に対し、男はにやりと口を歪ませ、ヤクザ者特有の、人をなめきった時の笑い顔だ。
「生意気なガキ……運がいいぜおまえ、あんたをここから連れ出せと頼まれた。あとで業者に感謝しろ。ついてこい。だがあまり近すぎるな。俺が癇癪を起して殺(ト)っちまうからよ」「……ああ」
僕は壁際に置いた車椅子を引いて、前に向かせる間に、男は僕たちを待たずに進んで行った。銃声と怪物の笑い声が聞こえてくる。派手にやってるようだ。ホイールが床の接続ぶに当たって跳ねて、呉美の頭を反らせた。虚無、半開きした目を僕が覗き込んだ。綺麗だと思った反面に、これからは君を生かせるための処置は大変だぞ、定時に体を翻せないといけないし、流体食しか食べられなさそうだし、オムツの交換は大変そう……でもここまで来たんだ、僕は絶対に帰る。その時は君の絵をたっぷり描かせてくれ。別にいいだろ、世話とか全部僕がやるか、金を出して人にやらせるからだ。まったく世話の焼ける犬だ。
「おい変態ガキ、いつまで変態妄想に耽てやがる。周りを見ろ」
なんだよ、人が変態妄想に耽ている時に。視線を人形から離し、頭を上げる。
「何だこりゃ……?」
僕は顔をしかめた。通道中は青黒い肉塊か、木の根みたいなものが張り巡っている。天井からぶら下っている気根みたいなものの一つは先端が怪物の形をしている。いや、怪物の下半身が根になって、通道を塞がったと言った方が正しいか。見ているうちに怪物は口を大きく開けて、卵を吐き出した。
「やはり見えているのか。増殖野郎だ。ここまでデカくなると、上の街は多分壊滅だな」
男はリボルバーに弾を込めながら言った。こんな時よく悠長していられる。
「あの、卵が来ているけど」「ああ、すぐ片づけたらあ」
男が右手でリボルバーを構えた。片手でやや外側に傾いた形。コンと違って別種ワルさを感じさせる。しかしいくらデカくても、拳銃一本であの怪物をどうにかできるもものか?
「魔弾(COLLATERAL SHOT)」
男が呟くと、全身から光の筋が手首に集まり、拳銃に吸い込まれていく、そして。
ZAAAAAP!!!
拳銃から白い光球が射出され、天井に張り付く怪物の根っこに当たった。怪物は全身に亀裂が生じ、光が漏れて出ている。
「ギャアーハッハッハッハッハ!!!」
笑い声のあと、あんなに大きかった怪物は四散し、一枚の肉片も残らず消えた。僕は拳銃一本でこれを成し遂げたあいつに瞠目した。
「あんた、いまミサイルでも撃ったのか?」「いや、才能だ」
答えになってねえ!けどいいさ、こっちの事情を伺ってくるコンよりこいつの方が正直気が楽。
「トイレ行ってくる。ここで待ってろ。俺が出るまで入るなよ。殺(ト)るぜ」
男はそう言い、通道の脇にあるドアに入った。トイレのマークもないのに何でそこがトイレだとわかったんだ?多分そこはトイレではないと思う。いいわもう、殺人までしちまった今、野ション野クソなんて何とも思わない……いや、やっぱきたねえわ。そいつから物を受けとらないように気をつけよう。
◆
ご主人様、ガキです
異常性癖のガキですわ
笑い顔に出遭った頭で腰が抜けて殺(ト)られそうだったが、業者の千里眼と似た「目」を持っています。珍しいガキです
念の為マークしておきましょう
もしかしたらひょんな事で同盟に迎え入れるかもしれません
しかし未成年なのに十二人を殺すなんてこの世も末ですわ
こんなしょうもない奴を利用して逆上された挙げ句、クン・ランに接触して自滅した政府なんて、思っただけで笑いが堪えません
すみません、不謹慎なこと言ってしまいました。自粛します
我はハーマンの名のもとに
(あと少しだけ続く)
この作品はバール氏の『凶眼の拳 -少年、獄底にて世界を殺伐す-』と須田剛一氏によるゲームキューブ唯一のZ指定作『Killer7』のコラボファン小説です。
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