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【剣闘小説】万聖夜、そして吹かれるギャラルホルン ②

  それでは数分前にスタッフルーム内の出来ことを見て行きましょう。

「いや……まったく変わっていないなわけでもないか……」

 弩木は顔をデータカードダスアイカツプラネットに寄せて画面を覗き込んだ。

「この画質、目と顔の比率、表情の柔らかさ……五色かさねさんよぉ、プラネットの3Dモデルに対応してよりかわいくなったんじゃないか!むっ、でも新機能のメッシュは入れていないか」
『ええそうです。これまでの見た目に寄せたいので、あえてメッシュを入れませんでした』
「そうか。私なら新機能でに飛びついてもう色々やったんだろうなぁ。にあ、でも確かに、キッズ達のプレイを見ていて下手にメッシュを入れて反ってアバターが汚くなったケースは、うんまあ、たくさんあった」
『まあ、美のセンスは人それぞれですから』
「それは承知してるよ。私はまっとうな大人だから口出しはしなかった。データカードダスはキッズがメイン客層、お客様の期限を損なうわけにはいかないもんな」
『すっかり店員が様になってますね』
「不本意ながらけどなー」

「アー、おのさ、最新のデータカードダス、なんかすげえよなぁ。人と会話できるほどのAIが搭載されてるんだなんて」

 気まずい空気に耐えきれず、不良少女が先に話題を振った。

 姉妹の契りを交わしたかさねと久しぶりの再会で盛り上がっている弩木。そしてとても会話に加われそうな雰囲気ではないので、不良少女とトイズロのお兄さんはデスクに座って無為に時間を過ごすしかなかった。

「いや……多分それはないと思いますよ。1プレイ100円のデータカードダス筐体に一々そんな機能をつけたらBANDAIが傾けます」
「じゃVtuberみたいに誰かが後ろでモデルを操っているような」
「それもないと思いますね。そんなことしてBANDAIにメリットがある思えません」
「だったらどうやってアレを説明すんだよ!?心霊現象か?確かに外で幽霊が暴れているけど!」
「そういえば資産の70%をデータカードダスでに注ぎ込んだ僕の友人から聞いたことがあります。データカードダスの時空のことを」
「データカードダスの時空?なにそれ」
「データカードダスで作られたキャラ達は実は自分の意識があって、生活している世界のことです。要するにシュガーラッシュのようなイメージです」
「はは……それ本気で言ってる?」
「僕も最初は友人がデータカードダスがやり過ぎて正気を失っていたと思ったさ。けれどハロウィンにIRONに訪れるワイルドハントの幽鬼を目にして、別世界の存在を信じざるを得ませんでした。だからデータカードダスの時空が本当に存在してもなんらおかしくありません」
「はぁ」

(やっぱ理解できんわ)消化しきれない事態に疲弊を覚えた不良少女は椅子にもたれてスマホを取り出した。時刻は15時23分。ワイルドハントが退店するまであと2時間半ぐらい。

(このまま何こともなく18時になればいいけど)

と思い、少女は弩木の方に目を向けた。

「そういえばあのおばさん、データカードダスがしゃべり出す状況に全然驚かなかったな。それどころか楽しそうにしている。本当何者なんだ?」
「あ、それなら僕は少し見当がついてます」
「本当か!?」
「ええ、信じてもらえないかもしれませんが」
「いや聞く聞く。どうせ退屈だし」
「そうですか。じゃ……」

 トイズロのお兄さんは口の周りに手を添えると、不良少女は了承して耳を近寄せた。

「僕の考えでは、彼女はおそらくーー」
「そう、私は本当はデータカードダス時空出身なんだ」
「「ぅぬわっ!?」」

 いつの間に横に現れた弩木に驚かれて、二人は椅子から落ちかけた。

「びっっくりしたァ!そういうのやめろよおばさん!」
「それよりデータカードダス時空出身のことは本当ですか!?」
「ああ、私は少し前まで3Dモデルで、今と違ったかっこいい名前を持っていたが、とある原因で現実世界に引きずり出されて、こうなってしまった」
「弩木という名前も十分かっこいいと思います」
「ありがとう。って悠長に言ってる場合じゃないや。現在の状況を単刀直入に言おう。この部屋はもはや安全ではない」
「えっ?」
「でも、ワイルドハントは高さ200cm横幅90cm以下の狭いドアをくぐることを極端に嫌って、退店時間までそれに準じたドアの後ろに立てこもることを推奨だと、従業員マニュアルにも書いてあるはずですよね?」
「推奨ではあるが、万全とは限らない。たしかにワイルドハントは狭いドアに入りたがらない習性があるけど、連中も感情のある生き物だ。嫌がらせを受けて怒り狂うワイルドハントがプライドをかなぐり捨ててドアをぶち破って中に立てこもった従業員を全員惨殺したケースもあった」
「そんなことが……」
「いや、でもよ、その話だと……」

 闘争的な話に敏感な不良少女は脳みそをフル稼働して推理を始めた。

「あんたは前にも言っていた、ワイルドハントは款待トリートさえ受ければそれ以上人間に危害を加えない。しかし今の話によると奴らは挑発を受けた場合、キレて忌み嫌うはずのドアをぶち破る可能性がある。だとすると、まず奴らを挑発する奴が居ると……」

 不良少女は見上げて、弩木と視線が合った。弩木はふぅーと息を吐いた

「なかなか鋭いじゃないか。実は去年もソーがここにきてデータカードダスを好き放題やって高レアリティのカードいっぱい引かれて店が甚大の損失を負った。だから今年は事前に筐体スロットに低レアリティだけ入れることにした」
「てめぇっ!!!」

 不良少女は弩木に掴みかかった!

(続く)

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