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ふたりはPre-cure:Sunday Morning!

Pre-cure! ふたりはPre-cure! 
未然を防ぎ、ハッピーなフューチャー
ふたりはPre-cure!
サミー・ザ・サイコロジスト、未来を覗き、現世のマジション(Pre-cure!)
クレイトン、マスター・オフ・マーシャルアーツ、舐めたやつは痛い目に遭うぞ(Pre-cure!)
Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)
Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)

 日曜日、朝六時三十分。室内に音量が控えたリサ・オノのボサノヴァソングが流れ、照明システムが自動的にライトアップし、夜明けの仄かな光を演出した。

「むん……」サミーはゆっくりと目を開け、しばらく天井を見つめた。『グッドモーニン、ミスター・サミエル。昨夜から今朝にかけて、貴方の睡眠時間が7時13分。その中深い睡眠は4時間21分達しています。この調子です、引き続き頑張ってください』天井の隅に設置したスピーカーから優しく、映画に出る老執事を想起させる喋り声が出た。このスマート住宅のAI執事、ハマグチだ。

「ありがとう……ハマグチ君、七時間全部深い睡眠になるようがんばるよ」『いい心がけです』冗談を吹っ掛けるサミーに対し、ハマグチは肯定的な返事が返された。『いやいやがんばって寝るってどうやればええねん!』とツッコミをいれたいところだが、さすがに二年以上住んでいるとその気もなくなった。

『お湯は温まってあります。いつでもどうぞ』「どうも」

 布団の温かみを名残惜しく離れ、寝巻きを脱ぎ、ベッドに捨てて全裸になった。暖房を弱めにしたので室内の寒さは寝ぼけた頭を覚ませるにはちょうどいい。

「うーさむっ」早歩きで浴室に入ったサミーは浴槽に入ると、頭上のウォーターフォールシャワーヘッドから適温の水が降り注いだ。『湯加減はいかかですか?』「グッド」身に染みる温かみに感謝し、シャワーを済ませ、鏡の前に立ち、中に映っている全裸中年白人男性を見つめた。

「ぬぅ!」サイドチェスト!しかし筋肉は分厚い脂肪に妨げられラインが出ない!「ふっ!」フロントダブルバイセップス!濃密の胸毛が生えた胸板が激しく自己主張する!「ホァ!」サイドドライセップス!勿論腹筋は割れていない!

「はぁ……」まあPre-cureをやる以前より腰回りが減ったんだ、僕は着実に健康になっている……『昨日より体重が700g増えました。チップスの摂取量に気を付けてください』「……」

 先の丸いハサミを取り、口ひげの手入れを始めた。

プリッキュウゥゥーオッ!(場面転換)

『ディスエンットソーン、フォアブローケンハーテッド!』

 バウ!バウ!U2のIt's my lifeが響き渡る。朝六時三十四分。ジムはすでに自分に甘えない男女たちが集まり、筋トレと有酸素運動に励んでいた。クレイトンもその一人である。

「フンッ!」「ハイ」「フンッ!」「ハイ」「フンッ!」「ハイ」「フンッ!」「ハイ。まだいける?」「ラストッ!」「OK、ゆっくりね」「ッッッッッ……ハァーッ!」「オーライ!」カゴン!台座に戻されるシャフト、その両端に掛けたプレートの総重量は250キロ!これを1ラウンド5レップスやったというのか?

「ふぅー、すぅー」汗が湧き出て、頭全体が茹でた蟹のように赤くなっているクレイトンはしばらくベンチに寝たまま呼吸を調整した。スポーツウェアに覆われた大胸筋は今にもはちきれそうに強張っている。もうデカイ!「デカイ!」「デカイな!」周囲で見ていた者たちもクレイトンに賛賞のとこばを投げつける。

「ふぅー、さすがに疲れるな」ベンチから離れたクレイトンは丁寧に自分が残した汗をタオルで拭き取った。「どうだ?あんたも挑戦してみるか?」「冗談はやめてくださいよ」答えたのはクレイトンをアシストしたマッチョな青年、なんと少し前に高校の同窓会で出会った元クラスメイトに美人局を仕掛けられ、九死一生の場合に陥った際、Pre-cureの二人に救われた深友(みとも)青年ではないか!

「そんな重量でやったら関節壊れますって」「なんだ?ガールフレンドに裏切られたことでお前の中にあるコアマッスルまで萎んだのか?」「だからガールフレンドではないって、まあ自信は多少傷ついたけど……」

 失恋、裏切り、そして屈辱。三つの不幸をいっぺんに味わったあの夜、鍛えられた筋力があっても、それを活かせる技術が無ければ、飾り同然であることを、彼は思い知った。

『おれを殺せなかったものはおれを強くする』と誰かが言ったな。あんたならきっと大丈夫だ」「ありがとうございます!」「さあ、あんたの番だ。重量はどれぐらいがいい?」「60kgでお願いします」「少ないな、この間はもっとできたんじゃかなかったか?」「いえ、その、実はこの後、クラヴ・マガのレッスンが控えているので……」

「ワオ」クレイトンは半歩下がり、意外そうに深友を見つめた。「最強護身術じゃあないか?殺意満々だなおい」

「いや、それほどでも……でもなんつーか、もうあんな思いを二度としたくないですよ」

『イッツマイッライィィーフ!』

 まるで深友を呼応するように、It's my lifeがサビに入った。

 助けた甲斐があったな。この者は一度心が折れたが、いまはこうして自分を変えようとしている。とクレイトンが内心に思い、青年に対する敬意すら覚えた。込み上げる感動を押し殺し、深友に向き直る。

「そうか、がんばれよ」

プリッキュウゥゥーオッ!(場面転換)

 熱したフライパンにオリーブオイルを引き、細切りしておいたマシュルーム、ピーマンを投入し、塩を振って軽く炒める。

 具が焼き上げるまでの間、もう一つのフライパンにバターを……半本を入れて、溶かす。美妙な匂いがキッチンを満たし、鼻腔が幸せになった。バターがグツグツと泡立てるフライパンに、たまご三つ分の卵液を流し入れ、スプーンで撹拌する。半熟ほどになると、具のマシュルームとピーマン、そしてフレークチーズを載せ、包むように卵を翻し皿に乗せる……よし、崩れていない。オムレツの完成だ。

 オムレツのそばにフランスパンとトマトの角切りに添えて、更に昨晩のコーンスープを入れたマグカップを皿の右上に置き、スマホで撮影し、twitterにアップロードした。

『今日の朝食です。ちょっとふんばって拘りました。燻製肉が一切使わなかったので健康です。』

 スマホを仕舞い、リビングルームにあるローテブルに朝食を置き、しばらく眺めると、キッチンに戻り、グラスに白ワインを注いだ。休日だし朝から一杯飲んでも罰に当たらないだろう。まあ職業がヴィジャランティである自分にとって休日も平日もないとも言えるが。

『早くも三回いいねされました。いいペースです』

 ハマグチの報告を聞き流し、サミーはワインを一口含み、テレビに電源を入れた。

『親切なTipsです:リモコンを使わず、私に指示すればテレビをONにできます』「あー、ありがとう。でも二時間ほどミュートモードに入って」『かしこまりました』

 テレビに朝のニュース番組がやっている。七時五十三分。プリキュアが始まる前に朝食を取る時間は十分にある。サミーはオムレツにナイフを入れた。

プリッキュウゥゥーオッ!(場面転換)

 飾り気のない黒いハーレーのスタンドを蹴り立たせ、トランクから牛丼屋のプラスチックバッグを取り出し、二階に上がる。階段を登りきると、フェンスに靠れてでタバコをふかしている彼女がいた。

「おはよう、クライ」「おはよう、クミ。早いな」「だってもう腹ペコだもん」「そうか、すまない、もっと早く帰れば良かったな。中へ入ろう」「うん、これが終わったら」

 藤真苦美、クレイトンのルームメイト、彼女の両親は「どんな苦境においても気高く、美しく居られる」と願ってこの名前つけたが、そのせいで苦みのある少女時代を過ごしたらしい。

 ティンバーランドの黄色いブーツをシューズラックに置き、牛丼が入ったバッグをコタツの上に置く。時刻はちょうど八時、間に合った。テレビに電源を入れる。

『なんでもできる! なんでもなれる! 輝く未来を~』

 野乃はなの元気いっぱいなナレーションが流れ、キャビンアテンダント姿のほまれが画面に向かって手を振っている。「ふっ」彼女の肩の少し上にあるデフォルメしたジェット機の存在感が半端ではなく、いつもクレイトンの笑いを誘う。

「本当、すきだねー。でっかい男のくせに」クミはクレイトンを揶揄し、コタツに入った。「だって可愛らしいかつタフなガールだよ。嫌いなやついるか?」「その発言、知らない人に聞かせるとかなりやばいような……まあ私はかわいいガール好きだけど」

 クミはバッグを漁り、並盛の牛丼を取り出した。

「先にいただいちゃうね?」「ああ、おれは番組に集中するからお構いなく」

プリッキュウゥゥーオッ!(場面転換)

「はぁ……」サミーはソファに倒れ込んでいる。ローテーブルには朝食に使ったさらと、空になったワインの瓶が置いてある。あまりの尊さに直面した彼は感情が爆発寸前になり、飲まずにはいられなくなったのだ。

 素晴らしい、最後の戦いに相応しい熱い回であった。僕はプリキュアだ、きみだってプリキュアだ……目元が涙で潤っている。

 さて、食器を片付けなきゃ。彼は感情を抑え、自分を促した。日曜にはまだ始まってばかりだぞ。

 その時である。

 起き上がろうとしたサミーの視界が暗闇に包まれ、ジェットコースターが急降下した際の浮遊感を覚えた。これまで何度も経験した感じだが、どうも慣れる気がしない。

 ヴィジョンが来る。つまり次のの要キュア者が現れたということだ。

 昼、道路、炎上する車両、炎と黒煙を背景に進み出る大小二人の人影……場面が変わり、金髪、筋肉の山みたいな男が片手で誰かの首を掴み、吊り上げている……

「ハーッ!ハーッ!ケホッ、コホッ!」『大丈夫ですか!心拍数が上昇しています。救急車を呼びますね!』

 ユーザーの身体に異常が起こした場合、たとえミュートモードにおいても、AI執事はそれを解除し、的確の処置やアドバイスを施す顕現がある。

「いやっ、待て、僕は無事だ」額に脂汗が浮かび、サミーはスマホを探った。

『お言葉ですが、一回病院で診察を受けた方が良いかと』「うるさいぞ!もうこれで何度目だ!そろそろ僕の、この癖を記憶しおけ!」『心外でございます』

 サミーは通信アプリを起動し、クレイトンに送るメッセージをタイプし始めた。

『クレイトン、遂さっきまたヴィジョンを見た。今回のPre-cureはかなりの被害が出るらしい、そして』サミーは少々思案し、言葉を選んだ。『きみはしっかり映っていた、殺されるきみが』

Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)
Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)

(続く)

 

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