廻天慟地!ベイブレード

「ゴーーシュッ!」「ごーしゅっ!」「ご、ゴーシュっ!」「ゴーシュー」「しゅー……」

狭苦しい動力室の中、十数人の少年たちが腕を広げても互いにぶつからない程度の距離で並び、等間隔で設置されたベイスタジアムに繰り返してベイブレードをシュートしている。

「オラオラァ!シュートペースをあげんかクソガキども!」上半身裸の室長が鉄パイプを頭上に振り回しながら少年たちを催促!「回転を絶やすな!スタジアムに最低でもベイ4個回せ!止まったベイは速やかに回収し再シュートしろ!」

スタジアムで2個以上のベイを回さない、ベイの回転中に手をスタジアムに入れないといった公式レギュレーションを完全に無視した発言だが、それを咎める者はこの場に居ない。それにここで行われているのはベイバトルでもなければトレーニングしているわけでもない。

「ゴーシュッ!」「ごーしゅっ!」「しゅー……」

少年たちの仕事、それはベイブレードを回し、その回転力をスタジアムに内蔵した電子回路に介してエネルギーに転換し、彼らが乗っている砂上船ーーラピッドリーダットウ号に動力を供給することだ。そのため少年たちが使っているベイはどれもより長く回り続けることに重点を置いたスタミナタイプ、よく見るとパーツの接合部は接着剤でバースト機能を封印しており、スタジアムにもオーバーゾーンを塞いだ改造を施されている。正式のバトルであれば出す瞬間に失格ところか人格まで貶されてしまうほどの魔改造だが、回転エネルギーを効率よく稼ぐためなら容認されている。ベイの回転力はいかなる原理で大きな砂上船を動かせたか少年たちは知らない。室長も知らない。ただベイを回し続けないと船が動かなくなる、船が動かなくなるとこれまでの努力が棒に振ることになる、今以上に悲惨な未来が自分を待っていることだけは分かっている。

「ゴーシュッ……!ゴーシュッ……!」「ゴーシュッ!ハァハァ……ゴーシュッ!」「ゴーシュー……」

滝のような汗を流し、息が上がりながらシュートする者も居れば、目からハイライトが消えて、機械的にシュートを繰り返す者もいた。過酷のベイ労働のせいで少年たちは痩せこけているのに対して利き手の筋肉は異常に発達し、手の平と指は止まったベイを回収する際に回転中のベイと接触して切り傷と青あざだらけになっている。

「ゴォォォ……シューーッッ!!」

煉獄じみた苦行の中にひとりだけ、目に闘志の光を宿し、裂帛の如くシャウトを発してシュートする少年が居た。彼の名はシュウ、3ヶ月前船が寄港した際に自ら志願して下級船員となり、そして慣例に従って動力室に配属された。

「いいぞ、シュウ!その調子で続け!」
「あざっす!室長さん!」
「俺はお前らをしごく立場なんでこう言っちゃなんだが、よくこんな元気でいられるよ。周りを見ろ、目が死んでる奴と死にそうな奴だらけだぜ?」
「へへっ、僕ぁ上級船員を目指してますんで、こんな単純労働ぐらいでへばってはいかねっす!」
「いいね、大した志じゃねえか!お前ならやれるかもしんねえ。けど張り切りすぎて身体を壊さないようにな。働けなくなった動力係を船外に投げ捨てるしきたりだ。とくにお前は名前からして肩が故障しそうだから気をつけるんだぜ。ガハハッ!」
「不吉なこと言わないでくださいよ!」
「話が終わりだ!さぁ早くベイを回せ!」
「うすっ!ゴォォォ……」

室長との交流で数十秒の息抜きを得たシュウはランチャーを握り、腕に力を込めた。

(いつまでもこんなところに居られない。実力を身につけて、あの人と肩を並べで戦えるブレーダーになる!そして……)

「シュゥーーーッッ!!!」

頭の中で輝かしい未来を描きながら、シュウは今日一番気合が入ったシュートをした。

🌪

ベイブレード小説でむつぎ大賞に応募しようとしましたが思った以上に苦戦して最終的には挫折しました。4000字でワンシーンを書くのって難しいですね。またまた精進します。


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