お住まいの場所にこの商品は届けません #パルプアドベントカレンダー2023
ガチャリッ、電子ロックが解除され、サンタが家の中に入った。
物音を立てず、しめやかに廊下を進み、リビングルームに到着。ツリーに巻きつけたLEDライトが路標のように輝いていた。ソファの上にこの家のひとり息子、ショウイチがブランケットに包まって寝息をを立てている。
サンタは思わず微笑んだ。この家に訪れたのは5年目になるが、こうやって待ち構えられるのは初めてだ。よほどプレゼントに期待しているだろう。
(ショウイチくん、今年もいい子だったね。きみの願いをかなえてあげよう)
サンタはツリーの横にしゃがみ、プレゼントを取り出すべくバッグを探った。その時、ショウイチの目が開いて、毛布を蹴飛ばして勢いよく片膝つきの姿勢を取った。手の中にダブルバレルショットガンを持っている!
「死ねぇーっ!クソジジァーーっ!」
容赦なく引き金を引く!BLAMBLAM!
「ぐほぁ!」
直撃を受けたサンタがツリーを巻き込んで倒れこむ。防弾加工されたサンタコートのおかげて外傷はないが、散弾が肉体にもたらした損傷は甚大。骨が軋み、臓腑が震える。
「ぐぇっ、こぽぇぇーーっ」
サンタ俯き、前の家でいただいたクッキーとミルクを吐きだした。腐った臭いを漂うオートミールのような汚物が床に広る。
「ちっ、防弾仕様か、ならばーー」慣れた手つきで排莢を行い、パジャマのポケットから新しいショットシェルを取り出してバレルに込めながらサンタに近づく。「確実にど頭にぶちこめば、流石に生きられねぇだろうなぁーーっ!」
サンタの露出している横顔に狙いを定める。絶対に外さない至近距離。指を引き金に置く。わずか10歳の子供とは思えない、冷酷な殺意!しかしサンタとて3世紀から今までの歳月をただで生きてはいない。
「このガキャーーっ!」
「おわっ」
サンタが咄嗟に銃口を掴み取る。ショウイチは驚いて引き金を引いた。BLAM!
「がぁぁ!ちくしょーっ!」
耳元で発砲を喰らったサンタは強烈な耳鳴りを耐えてショウイチから銃を引き離した。ふらつきながらサンタは立ち上がり、少年を怒視する。
「前言撤回……なんて悪い子だ!お仕置きが必要だな!」
「くそっ!」
ショットガンを失ったショウイチはソファに走り、枕の下から予備のリボルバー拳銃を取り出す!
「死ねぇ!死ねぇ!死ねぇぇぇっ!」
サンタの顔を狙って連射!しかし少年の細腕は拳銃の重さと反動を御しきれず、銃弾が明後日に方向に飛んでいくか、防弾サンタコートに弾かれるばかり。
「くっ……や、やーー!」
やがて弾が尽き、ショウイチは拳銃をハンマーのように持ってサンタに殴りかかる。
「いい加減にしろ」
「ぶわっ」
サンタのピンタ一撃でショウイチがのされた。
🎁
「むしゃむしゃ。もぁったく、子供がサンタに銃を向けるとは、世も末だぜ。うぐっ、うぐっ、ぷはぁ~!」
プラスチックのラッピングペーパーで蓑虫のごとく巻かれ、自由を失くたショウイチはツリーの下からソファに座って冷蔵庫から物色したピザとワインで我が家のように晩酌を楽しむサンタを恨めしげに見上げた。
「ふぅ、旨かった。それではプレゼントくん、おじいさんと話をしようか?」
「……」
「おかしいと思ったんだ。ログではお前はこの一年間いい子のはずだったが、実際来てみれば大層なサプライズを用意してくれたじゃないか。つまりお前はこの一年間、ログすらも欺けるいい子を演じながら、俺を殺すための計画を進めていた。違わないか?」
「……」
「イヴ当日に親御さんを外泊させ、ガンロッカーを自力で開け、いつ来るか知らない相手を待ち伏せる。こいつは立派なキラーだぜ」
「……」
「で、俺が聞きたいのはその動機だ。そこまでして俺を殺そうとした理由はなんだ?おしえてくれないか?」
「……本当に覚えてないのかよ」ショウイチは唸るように言った。「去年のクリスマス、てめえが僕にしたことを!」
「はて、何をしたっけな?」サンタは頭を傾げた。「普通にプレゼントを届けたと思うが?」
「内容が、違えんだよ!内容が!」ショウイチは身をよじりながら叫んだ。「僕は、スーパーミニプラのキングジェイダーを願ったんだ!なのにプレゼント開けたらガンプラだったじゃねえか!」
「あーあれか、思い出した。ダリルバルデだったけ?まあライバルキャラが乗る機体でボロボロになりながら最後まで戦って大人気になったなど共通点があるからほぼ同じだろ?」
「全然違えよ!流行りのコンテンツなんて、クソなんだよ!」
わずか9歳すでに逆張りオタクの片鱗を見せている!
「あのな」サンタはため息をついた。「スーパーミニプラのキングジェイダーは2017年のプレミアムBANDAI限定発売なんだぜ?今時プレミアム価額がついてそう簡単に手に入らない。それを望んだきみが一番知っているはずじゃないか?」
「だからこそ願っただろうが!子供の願いを叶うのがサンタの務めじゃねえのかよ!」
「サンタだってな、できないことがあるんだよ」二度目のため息、今度はサンタ表情が少し暗くなった。「上の連中は、そんなことが許さないんだ」
「上の連中……?サンタにも上司があるというのか?」
「居るさ。この目が痛いほど赤色に白い縁をつけたコスチュームを見てみ。何か思い出さないか?」
「あぁん?」
ショウイチは頭のなかに思いを巡らせた。赤地に白い線を描く、そのシンプルかつ目立ちよさで多くの企業が商標に使っている。筆頭にケンタッキーフライドチキン、ビックカメラ、BANDAIなどが挙げられ、
「はっ」
ショウイチは理解してしまった。モデル市場シェア率90%を占めるBANDAI、赤白のBANDAIマーク、赤白のサンタ服、やたらBANDAIに詳しいサンタ。これらの条件から導き出す答えはひとつ。
「まさか……サンタが、BANDAIだというのか!?」
「そう通りだ」
サンタは懐からBANDAI社員証を取り出した。『特殊物流 サンタ クロース』と書いてあった。
「子供たちを願いを叶うためにイブの夜に奔走するクリスマスの聖人、その正体は企業の犬だったってことっ!?」
「せっかくだから話してやろう、俺がこうなったのはーー」
🎁
「それって、産業スパイ……」
「子供の期待を裏切らないためにああするしかなかったんだ」
「何となく読めるぞ、それから起こること」
「まあ、続きを聞け」
「海賊版じゃねえか……最悪かよ」
「うちは営利組織ではないから、いいんじゃないかと思ったけど、企業はそれを許さなかった」
「んで、社員なんで、在庫切れの商品を出せない。これでわかったか?」
「なんて夢のない……いう待てよ、それじゃ2002のクリスマスからBANDAIが毎年おもちゃを無料配布してたってことか?」
「ほっ、ほっ、ほっ。少年よ、企業を甘く見てはいけない。BANDAIは自分が損する真似をすると思う?払った分はしっかり回収するさ、あらゆる手段を使ってな。さて、夜食は済んだし、そろそろ仕事に戻るか」サンタをソファから起き上がり、バッグを担いあげた。「ではよいお年を」
「おい待て!僕は放置かよ!」
「当然だこの罰当たりガキ!ツリーの下で己の過ちを反省しろ!親御さんへの言い訳も考えとけ。あと来年からプレゼントはなしだ」
「くっ」
「じゃあな」
バタン、玄関からドアが閉まる音。サンタは出て行った。家に静寂が訪れる。梱包されたショウイチの頭上に、ツリーのLEDライトは明滅を繰り返す。
(ショットガン奇襲じゃだめか……けどこれで終わりだと思うなよ、ジジイ。この屈辱は必ず雪ぐ、たとえ何年をかけてもっ!)
寒いサイレンナイトの中、ショウイチの心は燃えていた。
(おわり)
今年は飛び入り参加の形で書きました。では皆さん、よいお年を。