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炊飯仙人炊翁
川の上流、水源地の近いところに仙人が住んでいました。
仙人の名前は炊翁、炊き込みご飯が大好きなおじさんです。今日も厨房の中で炊き込みご飯を極めベく研究に勤みます。
「げーんまーいおーむぎどくたみはーぶちゃー」
呪文じみたことばを呟きながら米を研いて、米粉で濁った水を別の水がめに捨てます(米研ぎに使った水は米粉が含まれて栄養があるのであとで花の水やりに使います)。
鍋に研いだ米、だし、塩、醤油、みりん、砂糖、おろし生姜、キノコ、タケノコ、ニンジン、たまねぎを入れて、最後は泉源から汲んだ水を注いで蓋をすると、鍋を持ち上げて、棚に飾っている像に向けました。炊き込みご飯の始祖、ピラフの比羅夫の像でした。
「祖師比羅夫さま、今日もうまく炊けますように」
尊敬の師に礼をして敬意を表して、鍋を炉にセットします。あと40ほどで炊き込みご飯が完成しますが、炊翁は待つつもりはありません。
「シュー……」
炊翁を腰を落として呼吸を深めますと、全身から蒸気のような白い煙が出まいした。これはただの水蒸気ではなく、炊翁が厳しい修業の末に手に入れた特殊能力「炊飯粒子」です。炊翁は手をかざすと、タキオン粒子の煙が鍋と炉を包んで、光速よりも早く動く渦巻いて、ごく局地的な加速現象を発生させました。
ポトポトポトポト……たちまち蓋と鍋の隙間から泡が出てきました。一瞬にして鍋の中の水分が沸騰したのです。さらに10秒が経つと泡が出なくなり、炊翁は蓋をを取りますと、ぶわ〜と香りを帯びた蒸気がたち昇りました。炊き込みご飯の完成です。これこそがタキオン炊飯法、長たらしい加熱時間を数秒に圧縮できる、料理人の強い味方です。
「う〜ん、上出来!」
炊翁はしゃもじで出来たての炊き込みご飯をかき混ぜて、茶碗に盛り付けました。いよいよかきこもうと茶碗を口に運ぶその時、入口の方から声が聞こえました。
「あーあ、炊き込みご飯なんかどろどろでべたべたな料理にされるなんて、米と食材が可哀想じゃないか。個人的に許せないつーか。この世のすべての食材はチャーハンになるため生まれてきたといのに」
厨房の入口に、ひとりの若い男が壁に背中を預けて、腕を組んでいました。赤銅色の皮膚を持つ不思議な男でした。炊翁は彼のこと知っている、一度会ったことあるからです。それもちょうど一年前です。
炊翁は茶碗を下ろして、男に向かって言いました。
「炒飯神炒漢……またきみか?前回は十分に懲らしめてやったと思うが」「今の私は炒飯神太郎だ」
壁から離れて、炒飯神太郎は挑発的な笑みを浮かべて炊翁と対峙しました。
「さあ、リベンジマッチ始めようじゃないかッ!」
炒飯神太郎は踏み込みました。
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