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眞の拳 3 #ppslgr
少し前、とある夜、とある居酒屋で、ホイズゥとジュクゴマスターは飲んでいた。
「マスタぁ〜、俺にもジュクゴ力くださいよぉ〜」
「だめですよ〜、ジュクゴ力は厳しい修行の末に手に入れるものですから……」
「そこはマスターの力でなんとかしてくださいよ〜」
「うーんもっと飲み物奢って頂ければ、考えなくもないかなぁー」
「よっしゃ任せろぃ!あのぉすんませぇん!」
「はい、ナニニシマスカ」
「テキーラ……ドン・ホリオありますか?」
「ありますよ」
「じゃそれでお願いします」
「ワカリマシタ。ショット二つでいいですか?」
「ボトルで!」
二人はテキーラをしこたまに飲んでハングオーバーした。翌日、最悪の起床を味わったホイズゥの左手首に、”拳聖”のジュクゴが刻まれていた。
外気に触れ、”拳聖”のジュクゴが鼓動と伴い、熱した鉄じみた仄かな赤橙色を帯びた。左腕の動脈の鼓動が血流が加速させ、体が熱くなり、力が……漲る!
「すげえ……これがジュクゴ力……!」
俺は立ち上がり、拳を握った。痛みがぶっ飛んで、さっきまでの暗い気持ちが陽射しを受けた早朝の霧のように晴れていく。闘志が湧き上がる。
「なんだその安っぽいタトゥーは?」ベルナルドは眉をひそめた。「そんな物で他人に威圧する人間だと思わなかった。失望したぞ」
「あれ?意外と気が小さいすね」俺は右手を顎の前、左手を顔の横にしてサウンポーを構えた。「ベルナルドさんは国柄でそういうの開放的だと思ったてたけど、すこしガッカリだよ」
「あぁ?なに急に強気になってあぁ?」ベルナルドさんは苛立たしげに言った。「そのタトゥーがなんの作用があるか知らないが、そっちがその気ならもう一度ぶちのめすまで」
向こうは左手顎の横、右手顎の前にしてスタンダードを取った。ドッドドッドードー、ドッドドッドードー、ドッドドー、ドッドドー、ドッドドー、ドッドドー……”Sandstorm”のリズムに乗って、二人が前後にシフトする、そして。
ぎゅっ、床を蹴って、俺が仕掛けた。フロントステップからジャブ二発、避けられる。カウンターのフックが来る。カード。フックを繰り出す。ウィービングで避けられてからのアッパーが来る。スウェーで回避。すごい。ベルナルドの動きをちゃんと目で見て、反応し、対応ている、これがジュクゴの力……!
「少しはできるようになったな!ならばこれでどうだ!」
ぎゅっ、ベルナルドの姿が視界から消えた。瞬間移動?いやサイドステップだ!「ぐぅ……!」すかさずガードし、頭側部を狙ったワンツーを辛うじて防いだ。左腕にパンチ2発が着弾して骨が軋んだ。
「どうだおれのステップは!?瞬間移動に見えたらまだまだアマチュアの証拠だぞ!」
「……なんの!」
DOOM……左の手首に刻まれた拳聖のジュクゴが鼓動した。力が伝わって、感覚を鋭敏にする。向こうが再びサイドステップをかましてきた。スピート勝負のつもりか?付き合ってやろう。体の向きをスイッチして、スタンダードに切り替わる。目でベルナルドを追う。来るッ!
「「シーッ!」」
ほぼ同時に繰り出されるジャブがクリーンヒットにならず、互いの顔を擦った。同時に腕を引く。ベルナルドの右肩三角筋が強張っている、右腕に力を入れている、肘が上がっている。フックが来る。わかる。させない。
DOOM!拳聖のジュクゴが輝き出した。左腕が熱い。おお、まるで爆発寸前のニトログリセリンのようだ!俺は衝動に従いジャブを放った。
「プッ」
拳がベルナルドの口にヒットした。相手の動きが止まった。チャンス!
「シューッシュッシュ!」
二発三発四発!ジャブの連打がベルナルドに当たった。唇が裂け、血液が迸る。良い展開だ、このまま押し切って……
「舐めんナーッ!」「ゴァハッ!?」
ダッキングからのボディアッパーが俺の鳩尾を捉えた。衝撃が芯まで届いて内臓をシェイクした。耐えきれず、体がくの字に折り曲げた。
「いい戦いぶりだ。まさか戦いの中でこれほどの成長を成し遂げるとは、正直驚きだよ。インストラクターとして誇りに思える」ベルナルドが腰を右に捻った。上腕二頭筋がはち切れそうに隆起している。决めるつもりだ。「でもこれで……終わりだァッッ!」
腰回転を加えた、ヘビー級ボクサーが放った渾身のアッパーカット。アドレナリンとジュクゴ力の複合作用泥のように鈍化した時間の中、ベルナルドの拳が弧線を描いて迫りくる。直撃したら俺のクリス・エバンスに例えられるハンサム顔が跡形もなくなってしまうだろう。ここで終わるわけにはいかない。頑張れ俺のジュクゴ力!またまたやれるだよな!
Doom…Doom……DOOOOM!!! とびっきり強い鼓動と共に、"拳聖"の文字が白く輝いた。五感が冴えたわり、世界がより明るく見えた。脳裏に回避動作のイメージを浮かべて、身体がそれを再現する。
「ヌンッッ!」
コアマッスルの力を極限まで絞って、くの字から一気にエビ反りになるまでの大振りのスウェー。「なにっ!?」必殺だったはずのアッパーが空を切って、ベルナルドは驚愕の表情浮かべて、上半身がアッパーの反動で大きくのけぞった。勝負に焦りましたねベルナルドさん、アッパーは顔の高さまでと、あなたがいつも言ってるじゃないですか。
”拳聖”のジュクゴが発光して、身体に力が回る。俺はスウェーからサウスポーに戻り、さらけ出しているベルナルドの側面にワンツーを打ち込んだ。シッ、シッ!クリーンヒット!
「ヌゥーッ!」
二発をもろに受けたベルナルドは姿勢が崩れた。攻めるなら今しかない!とにかくパンチ!パンチ!パンチにパンチを重ねて、パンチしまくる!ワンツー、ワンツー、からの左フック、ストレート、フック、ストレート、フック。隙になりやすいアッパーを安易に使わない。左右から連続攻撃で相手に反撃の余地を与えない。
「このーッ!」
ベルナルドがガード姿勢で突っ込んできた。あれか?ボクシングで殴られる方が相手に抱きついて動作、クリンチっていうんだっけ?フィットボクシングにないアクションだが、拳聖になった今の俺にとって余裕。サイドステップ回避し、相手の鼻梁に左フックをかました。
「ブワッ」
鼻から鼻血がドリンクサーバーから出るコーラみたいに垂らした噴き出して、たたらを踏むベルナルドに、「シッ」ジャブを打った。ここにレフェリーがいないということは、どっちがKOされるまでしか勝敗がつかないということだ。そして俺は手を緩めない。俺は拳聖だ。歯向かう者は全部、拳で殴って、倒す!
連打、連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打!ひたすら連打!ヘビー級の屈強なボクサーも今や手も足も出ずガード一方だ!俺TUEEEEEEE!あの夜はドン・ホリオを注文してよかったぜ!見ててよマスター、あなたがくれたこのジュクゴ力で、俺は……俺は……!
「いい加減にしろッ!」「ぐぉ!?」
BOOOM!ベルナルドから衝撃を発し、俺は数歩後ろに飛ばされた。何が起こった!?
「あり得ない……アマチュアすらないボンボンが急にこんな力を……貴様ァ!」ベルナルドは出血している目を見開いた。「チートしたな!おのれ……公平公正な拳闘でインチキを……ゆるせん……ゆるせんゾォォォー!!」
ベルナルドの身体に変化が起きた。全身から黒い気っぽいのが昇って、骨が軋み、筋肉が膨張する!なんかまずいぞこれ!
「おお……」
俺の目の前で、ベルナルドは変化を遂げた。筋肉が切れに切れて、もとの2.5倍ぐらいバンプした。腰は臓器がとこに収まっているかと疑うほど細くなった。いや、腰が細くなったわけではない。上半身と臀部が太くなり過ぎたからだ。更に目黒が消えて、歯茎剥き出しに獰猛な表情に、両手を広げるオーガのポースを取った。
これはアレだ、板垣が描いたベルナルドだ。
(続く)
板垣先生が描いたベルナルドはこちらです。
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